射的
晃人視点です。
「よぉーし! じゃあ私達もお祭りに行くぞーっ!」
「「おぉーっ!」」
「おー……」
テンションの高い光と照。
そして、どういうテンションなのかよく分からない乃々香と一緒に、お祭りへ行くことになった。
乃々香の手を光と照が繋いで、俺は少し離れて後ろから着いていく。
結構屋台が並んでる道にまで出てきた。
「なに食べたい?」
「「みんなでたべれる、やすいの!」」
乃々香の質問に、光と照が声をそろえて言った。
まぁこれがうちのモットーだし、俺もそう思ってる。
「はる姉ちゃんから2千円、預かってるんだろ? それで変える範囲で、適当に買えばいいんだよ」
「そっか、じゃあまずは増やさないと……ちょっと待っててね」
乃々香はそう言って、かけている眼鏡を少し上に上げて遠くの方を見渡した。
何をしてるんだろうか?
目が悪いから眼鏡をしているんだろうけど、遠くを見るのに眼鏡を外すなんて……
「よし、じゃあ先にあっちに行こうか!」
「あっちになにがあるんのー?」
「楽しそうな屋台だよ!」
「わぁー!」
乃々香の進むままに着いていって到着したのは、"射的"の屋台だった。
「は? 乃々香、ちょっと待って! 確かに楽しそうではあるけど、こういうので遊んじゃうと、食べ物に使うお金がなくなっちゃうから……」
「大丈夫、大丈夫! 晃人君は、光ちゃんと照君と、手を繋いでここで見てて」
「え?」
乃々香は、光と照を俺に任せて、射的の屋台へ行ってしまった……
なんか大丈夫って言ってたし、とりあえず様子を見ておくか……
「おじさん、一回やらせて」
「ほいよ、500円で5発だ」
「はーい」
本当にやるんだ……
「ねぇおじさん、あの赤い玉に当てれたら、大当たりなんだよね?」
「おう、狙うのかい? お嬢ちゃん」
「うんっ!」
「そりゃあ頑張ってくれよ」
ペンギンの格好なんかしてるからかな?
おじさんも少しバカにしたように話してる……
乃々香は慣れたような手付きで、銃にコルクの弾をセットした。
そして、
カチッ!
と、レバーを引いて、大当たりの小さな赤い玉を狙うように構えた。
なんだろう?
なんか、凄くカッコよくみえる……
ペンギンの格好をした変な女が、ただのおもちゃの銃を構えてるだけなのに……
俺がそんな事を考えていると、
パンッ!
という音がして、大当たりの赤い玉は、本当に飛ばされていた……
「嘘だろ……?」
「当たったよ、おじさん。大当たりだね!」
乃々香は無邪気に笑ってる……
これだけ凄い事をしているのに、まるで当たり前だというような感じだ。
だからこそ、回りを通って行く他のお客さん達も、射的の屋台で凄い事が起こっているなんて気づきもしない……
「な、なんだよ……あんた、プロのスナイパーかなんかか?」
「まっさかぁ」
少し怯えてるおじさんに対し、乃々香は相変わらずおどけている……
「大当たりの、そのゲーム機ちょうだい」
「あ、あぁ……」
ゲーム機をもらってしまってる……
あれは確か、3万円くらいのゲーム機だったはずだ……
「あと4発あるんだけど、皆は何か欲しいのある?」
乃々香は俺達の方に、何か欲しいものはあるかと聞いてきた。
「え? ううん、いらない」
「そういうのはもらったらダメって、おかあさんとかずにいちゃんがいってたから」
「今ここで乃々香に取ってもらうのは、間違ってる気がするから」
「そっかぁ……うん、いいね!」
「え?」
俺達が断ると、乃々香は凄く嬉しそうに笑って、
「おじさん、私ゲームとかやらないし、この子達も何もいらないんだって」
と、表情の固まってしまっているおじさんに声をかけた。
「あ?」
「だからさ、このゲーム機、5千円で買い取ってくれない?」
「お、おまえ……」
「残りの弾もいらないから」
「はぁ、最初からそのつもりで、金を取りに来たんだな?」
乃々香のその発言に対して、おじさんは呆れた様子で言った。
「うん! ごめんね、おじさん」
「ふっ、おもしれぇな。いいぜ、ほらよ」
「ありがとー」
本当に嬉しそうに5千円を受け取る乃々香。
「さ、これでお金も増えたし、好きなものをたくさん食べようね!」
無邪気にわらいながら、俺達の所に戻ってきた。
「だから、そうやって恵んでもらうのはダメなんだって」
「でもこれは、陽日ちゃんから預かったお金で増えたものだから、皆のお金だよ」
「でも……」
「それにさ、皆はゲーム機とかも欲しがらなかったよね? 私なら取れるって分かったはずなのに」
「それは……」
「そういう皆だから、いいんだよ。確かに他人の好意に甘え過ぎるのはあんまりいい事じゃないけど、たまの一回くらい、こういう日があってもいいんじゃない?」
「……分かったよ。ありがとう乃々香」
「うん!」
乃々香は最初から、お金を増やすって言っていた。
きっと、俺達がさっきのを断るって分かってたんだろうな。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)