隠し事
晃人視点です。
「晃人君。そろそろ帰らないと、陽日ちゃんに心配されちゃうんじゃない?」
「あ、そうですね……」
言われて時計を見ると、もう夕方近くになっていた。
「もう帰った方がいいよ。今日もありがとうね」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございました」
「また来いよー」
「おう!」
挨拶をして、家に帰る。
今日はお祭りの日だから、早く帰らないと。
はる姉ちゃんは友達と行くから一緒に行けないけど、今日は兄ちゃんと一緒なんだ!
家族皆が揃ってないのは少し寂しい気もするけど、兄ちゃんと一緒に行ける嬉しさはある!
だから大丈夫!
そんな事を考えながら家に帰ってくると、玄関が騒がしかった。
はる姉ちゃんの友達の人達だ。
ちょっと苦手なんだよな……
「ただいま……」
「おかえり、晃人君!」
「ども……」
一応はる姉ちゃんの友達の人達に挨拶をして、家に入る。
するとすぐに、
「ちょっと晃人! 何時だと思ってるの?」
と、はる姉ちゃんが来て、怒ってきた。
まぁ怒られるだろうとは思ってたけど……
何にも言わずに出ていったし……
「は? 何が?」
「朝いきなり出ていったかと思ったら、こんな時間まで……どこで遊んでたの?」
「友達のとこ……」
「だからどこの?」
「別にいいじゃん!」
「だいたい晃人、あなたお昼ご飯はどうしたの?」
「もーうっ! はる姉ちゃんに関係ないだろっ!」
「あっ、ちょっと!」
変に言う訳にもいかないので、はる姉ちゃんを無視して奥の部屋に向かった。
俺の事を反抗期だって思ってるし、そんなに追求してはこないはずだ。
これで大丈夫……
「うわっ! お前誰だー!」
奥の部屋に入ると、変な女が光と照と一緒に遊んでいた。
ペンギンみたいな格好の眼鏡の女……
はる姉ちゃんより歳上みたいだし、はる姉ちゃんの友達で見たことのない人だ。
「おかえり、晃人君!」
「いや……何を普通に……」
俺が悩んでるっていうのに、凄い当たり前な感じで喋ってくる……
変な人……不審者か?
「お前、誰なんだよ?」
「乃々香ちゃんだよー」
「は?」
「あきおにいちゃん、ののかちゃんなのー」
「きょうのおまつりは、ののかちゃんといくのー」
「よろしくねー、晃人君!」
「はぁ? だから、結局こいつは誰だよ?」
光と照も楽しそうに話してるし、不審者ではないんだろうけど……
それに祭りも一緒に行くって……
もしかして、兄ちゃんの彼女か?
いや、兄ちゃんはこんな変な人を彼女になんてしないよな? ……多分。
「晃人。今日ね、お兄ちゃんはお仕事になっちゃったの」
「え?」
俺がこの変な女について考えていると、玄関からこっちに来てくれたはる姉ちゃんが、そう教えてくれた。
姉ちゃんも悲しそうな顔をしてるし、光も照もちょっと元気がなくなった。
俺も、兄ちゃんとお祭りに行くの、楽しみにしてたのに……
「そっか……そうなんだ……」
仕事だもんな、しょうがない、しょうがない。
そう思っておかないと……
あれ? ってことは、今までと一緒で、はる姉ちゃんが連れて行ってくれるのか?
でもそうなると、はる姉ちゃんは友達と行かなくなるんじゃ……?
光と照も楽しみにしてるんだから、行くのをやめるようにとは言わないだろうし……
でも俺にはまだ任せてくれないだろうし……
もしかして、家族も友達も、皆で行くつもりか?
でもそれだとはる姉ちゃんの友達の人達も、俺達に気をつかうだろうし、はる姉ちゃんが楽しめないと思う。
はる姉ちゃんは、いつも気にしすぎってくらいに気にしてるから……
どうするつもりだろう……?
考えていると、視界にちらちらとペンギンが見えた。
もしかして……
「でも、私は友達とお祭りに行くから、一緒には行ってあげられないの」
「それで、この人?」
「うん。とても優しいお姉さんだから、安心していいよ」
だからこの変な人は家にいたのか……
安心していいって言われてもなぁ……
「兄ちゃんはこの事知ってるのか?」
「うん。さっきお兄ちゃんとも話をしたからね」
「それなら、いいけど……」
兄ちゃんが知ってるなら大丈夫か……
てか、兄ちゃんが知り合いに頼んだにしても、こんな変な人に頼むとは思えない。
男友達とかなら分かるけど、女だし……
やっぱり兄ちゃんの彼女なのか?
「それじゃあ私はもう行くけど、大丈夫だよね?」
はる姉ちゃんはもう行くみたいだ。
正直、こんな変な人と一緒に残されるのは嫌なんだけど……
でも、はる姉ちゃんには、ちゃんと友達と一緒にお祭りを楽しんで欲しいし……
「いってらっしゃーい」
「向こうで会えるかなぁ?」
「見かけたら、声かけてねー」
「行くなら早く行けよ」
はる姉ちゃんには少しキツく言ってしまう……
でも友達の人達、玄関に待たせてるんだし、早く行った方がいいはずだ。
「はいはい。じゃあ乃々香ちゃん、あとよろしくね!」
「陽日ちゃん達も、ちゃんと気を付けるんだよー」
「うん!」
こんな変な女に、俺達の事を任せるなよって、本当は言いたかったけど、それはこらえておいた。
一応はる姉ちゃんの事もちゃんと心配してくれてるみたいだし、本当に悪い奴って訳じゃなさそうだったから。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)