得体
一輝視点です。
家の中から登場した、よく分からない"乃々香ちゃん"という女……
「陽日、何でその、乃々香ちゃん? が家にいるんだ?」
「あ、さっきね、光と照が迷惑をかけたみたいで、お礼をするって言って連れてきたんだよ」
「そうなのか……」
かなり変な奴のように見えたけど、光達が世話になったんなら無下にもできない。
「あの、ありがとな。なんか妹達が世話になったみたいで」
「大丈夫だよー、気にしないでね。で、お祭りはどうするの?」
「いや、流石に任せる訳には……」
「一輝お兄ちゃんは、私が信用出来ないのかな?」
「あぁ……まぁ……」
そりゃ、いきなり現れた知らない人に、幼い兄弟達を任せられる訳はない。
……あれ? ちょっとまてよ……
俺、名乗ったか?
「何で、俺の名前……」
「お風呂掃除ついでに脱衣所とかも掃除してたら、結構あちこちに皆の名前が書いてあったからね」
「風呂掃除……陽日、この人に風呂掃除をしてもらってたのか?」
「うん。乃々香ちゃんが暇だから手伝いたいって言ってくれてね、お願いしたの」
陽日はとてもしっかりした自慢の妹だ。
その陽日が、得体の知れない変な奴に家の仕事を頼むとは考えにくい……
となると、この乃々香とかいう女は、信頼できるやつなのか?
「陽日、本当にこいつ、信用出来るのか?」
「うん。ちょっと変わってる気がするけど、凄くしっかりした人だと思うよ」
「そんなぁ、しっかりしてるだなんて、照れちゃうよ」
これがか?
「私は光達の事を任せても大丈夫だと思う。あ、もちろん乃々香ちゃんさえよければだけどね」
「私は大丈夫だよー!」
「で、でも……」
やっぱり、ちょっと不安だ。
あいつ等はまだ幼いんだし……
「じゃあ、一輝お兄ちゃんに信用してもらうために、特別にこれを貸してあげよう!」
「ん? 携帯?」
「私の携帯だよー。ここをこうして、こうすると、ほら、ね。私の居場所が分かるんだよ」
「GPS? 凄いね、乃々香ちゃん!」
「でもこれいいのか? 大事な連絡とか、入るかも知れないだろ?」
「いいよ。なんたって今日は、"何が起きても絶対に呼ばない"日らしいからね!」
なんだ? その日は……
なんか、若干不機嫌そうだな……
本当に変な奴……
でも携帯を渡してくるって事は、こいつも俺にちゃんと信用してほしいって事なんだろうな。
俺は携帯なんて持った事がないからよく分かんないけど、自分の携帯を人に触られるのは誰もが嫌がる事らしいし……
「あっ俺、そろそろバイトに戻らないと……」
「私の事は信用できそう?」
「あぁ……ああ! なら、悪いけど乃々香、俺の兄弟達の事、よろしく頼む」
「もちろんだよ! まだこれからもお仕事あるんでしょ? 頑張っていってらっしゃい、一輝お兄ちゃん」
いや、お前のお兄ちゃんではないんだけど……
確かに変わってはいるが、話しをしていても全く不快にならない話しやすさがあるし、こんな見た目の奴なのに、謎の安心感もある。
まぁ、任せても大丈夫だろう。
「お土産期待しててねー!」
「いってらっしゃーい!」
頼りになる妹と、頼りになるのかよく分からん女に見送られながら、俺はバイトに戻った。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)