乃々香ちゃん
一輝視点です。
「えぇっ!? 今日来られない? 困るよぉ……」
バイト中、店長が電話越しにそう言っているのが聞こえた……
電話相手はおそらく、今日俺の後にシフトに入っていた誰かだろう。
若干の嫌な予感も感じつつ、仕事を続ける……
「うん、うん……あぁ、それは仕方ないね……うん、分かったから、そんなに謝らなくていいから……うん、何とかしてみるよ……はい、はーい」
電話を切った店長……
すぐに、
「おーい! 一輝くーん!」
と、呼ばれた……
やっぱり、嫌な予感が的中している……
「はい、なんですか?」
「今日さ、前半だけって話だったけど、後半もお願いしたいんだ」
「すみません。俺、今日はちょっと……」
「そこをなんとかっ! 本当に、今一輝君に断られたら、このお店終わりだから!」
「でも……」
「お願いっ! ねっ、ねっ?」
今日は皆を連れてお祭りにいく予定だったのに……
まぁ、お祭りに行きたかったというか、いつも皆の面倒を任せっきりにしてる陽日に、友達と楽しく過ごしてもらいたかったんだけど……
でも、いつもお世話になってる店長からの頼みだし、断れない……
「はぁ、分かりました」
「ありがとうっ! 本当にありがとうっ!」
ごめんな、陽日……
「じゃあちょっと、家族に連絡してきてもいいですか?」
「あぁ、今なら抜けても大丈夫そうだからね。行ってきていいよ」
「はい」
お店を抜けて、走って家に帰る。
俺は携帯なんて持ってないし、うちには電話なんてないから、連絡は家に帰らないとできない。
とはいっても、そんなに遠い訳でもない。
歩いて10分程度の距離だ。
家に着き、玄関から、
「ただいまー。陽日ー?」
と、陽日を呼ぶ。
あまり長くもいられないので、靴を脱ぐ時間がもったいないから、家には上がらない。
「おかえり、お兄ちゃん。早かったね」
パタパタと走りながら、陽日が来てくれた。
今日も家の仕事をやってくれていたんだろう。
そんな陽日に、本当に申し訳ないと思う……
「あぁ、陽日……その……」
「ん?」
「悪いんだけどさ、この後のバイトの人が急に来れなくなっちゃったみたいでさ、代わりに入ってくれって……」
「え?」
「だから今、それを伝えに来た……」
陽日の顔が一気に曇っていく……
そりゃそうだよな、友達と一緒にいけるって、あんなに喜んでたんだから……
「お祭り……どうするの? 晃人と光も照も、お兄ちゃんとお祭りに行くのを、楽しみにしてたんだよっ!」
「分かってるよ……だから、ごめん……」
本当にそうだ……
いつも一緒に遊んでやれない俺が一緒だっていって、あいつ等も相当楽しみにしていた……
俺だって、これでも結構楽しみにしてたんだ……
でも、どうしようもないし……
「それ、私に行ってやってって事だよね?」
「うん……」
陽日は俺の気持ちも全部察してくれたようで、
「分かったよ……友達には、今日は家族と行くことになったって、連絡しておく……」
と言ってくれた。
「本当にごめん……」
「いいよ。バイト、頑張ってね」
「あぁ……」
その上、無理して笑って、俺を送り出そうとまでしてくれている。
本当によくできた妹だ。
陽日に見送られながら、もう一度バイトに戻ろうとしていた時、
「今の話、光ちゃん達とお祭りに一緒にいく、保護者的な人が必要なの?」
と、変わった格好の女性が話しかけてきた。
それも、家の中から出てきたけど……ってか、誰だ?
「乃々香ちゃん? あ、うん。そうだよ」
「私が着いて行こうか? そうしたら、陽日ちゃんは友達と行ける?」
「え? でも、悪いよ……だってお祭り、夜だよ? 乃々香ちゃんだって、帰らないといけないでしょ?」
「ううん。私、もともとお祭りに行くためにここに来たから。だから大丈夫!」
「そうなんだ……」
何か、陽日と普通に話してるけど……
「お、おい、陽日? この人は?」
「乃々香ちゃんでーすっ!」
「あ、うん。乃々香ちゃんだよ、お兄ちゃん」
「は?」
ペンギンみたいなパーカーを着てる、歳は俺とそんなに変わらなさそうな眼鏡の女。
しかも、結構可愛い……
で、結局乃々香ちゃんって、誰なんだよっ!?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)