お姉さん
乃々香視点です。
このままこの桜野家にいたって、中庭にはくー君がいるし、上には行かせてもらえないしで、途轍もなく暇だ。
やることもないし、もう外へ行こう!
そう決めて、出ていこうとすると、
「乃々香様。外出でしたら、車をお出ししましょうか?」
って、日下部君が声をかけてくれた。
でも仕事でもないのに日下部君に車を出してもらう訳にはいかないし、私の日下部君へのお姉さんとしてのプライドが、暇だからって日下部君を巻き込むのは間違っていると言っている。
「車は大丈夫ですよ。歩いていきますから」
「左様でございますか……」
日下部君はちょっと残念そうにしている。
なんか悪いことをしちゃったかな?
日下部君からしたら、私の役に立つチャンスだったんだもんな……
「行き先を決めていないので、困らせてしまいますから。だから、車を御断りしただけなので、気にしないで下さいね」
「それは、お気遣いありがとうございます」
物凄く丁寧な御辞儀をしてくれている。
本当に日下部君は真面目だなぁ。
別に私はこの桜野家の人間じゃないし、私にまでこんなに畏まらなくていいのに……
まぁでも、私はあの時に日下部君を助けたメンバーの1人だし、奏海ちゃんの大親友でもあるからね。
この態度も仕方ないといえば仕方ない。
日下部君は、あの時の事に感謝し過ぎて、奏海ちゃんを崇拝してるから……
だから私もちゃんと、日下部君のお姉さんでいてあげないと!
「日下部君。どこか暇潰しによさそうなお店とかを教えてもらえませんか?」
「暇潰しですか?」
「暇っていうか……えっと……」
日下部君達が必死に働いてくれている中、暇だなんていうのは体裁が悪いな。
お姉さんとしての面目が立たないし……
「息抜きも大切ですよね」
「あ、そうなんですよ。日下部君もちゃんと休んでますか?」
「ご心配、ありがとうございます。いつも乃々香様がいて下さるお蔭で、私達は落ち着いて作業が出来ていますよ」
「それはよかったです」
日下部君達は、庭師としてこの家を守ってくれている。
庭師は、この家に何かあった時に一番に襲われる位置でもあるし、いつも危険と隣り合わせの仕事だ。
その彼等を守るのが私の普段の仕事でもあるんだけど、生憎と今日は休みにさせられた……
でも、こうして感謝してもらえるのは、私がお姉さんとして慕われている証拠なので、とても嬉しい。
「あっ! 乃々香様。もしよろしければ、お祭りに行かれてはいかがでしょうか?」
「え? お祭りですか?」
「今日、△△神社の方でお祭りがあるそうなんですよ。まだ少し時間も早いと思いますが、色んな出店があって、楽しいと思いますよ」
お祭りか……
昔皆で行ったっきり行ってないし、1人で行くっていうのは、なんか寂しい気がするな……
でも、折角日下部君が紹介してくれたんだし、行ってみるか!
皆にはお土産を買ってきてあげればいいし。
「それは楽しそうですね!」
「はい。お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
「行ってきますね。あ、お土産も買ってきますから」
「ありがとうございます」
日下部君と別れて、門の方へと向かう。
すごく楽しそうに笑って、手を振ってくれている日下部君。
私の役に立てた事が嬉しいみたいだ。
今の私は、ちゃんと日下部君のお姉さんをやれていたかな?
やっぱり可愛い後輩の前では、お姉さんぶりたくなっちゃうものだからね。
これからもちゃんと、日下部君に優しいお姉さんでいてあげないといけないし、日下部君の喜びそうなものでも、買ってきてあげよう。
何が嬉しいかな? お面とか、駒とか?
そもそもこっちのお祭りって、どんな感じなんだろう?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)
おまけ その後の日下部
「日下部さん。乃々香様、出掛けられたんですか?」
「あぁ、お祭りをオススメしておいたよ」
「あの、前から気になってたんですけど、なんで乃々香様って、日下部さんとか詩苑君とかの、一部使用人の前でだけ雰囲気が変わるんですか?」
「ん? あれは、お姉さんでいてくれようとしている結果かな?」
「お姉さん? 詩苑君は分からなくもないですけど、日下部さんは乃々香様よりも歳上じゃないですか」
「まぁいいんだよ。あれで乃々香様が楽しそうなんだから」
「日下部さん、妹を見守るお兄さんみたいですね」
「そうか?」
「微笑ましいです!」
「ありがとう。さぁ、今日は乃々香様がいらっしゃらないんだから、いつもより気合いを入れて頑張ろうか」
「はいっ!」