無遠慮
乃々香視点です。
中庭に移動して来ると、くー君がガーデンテーブルに何かを広げている所だった。
何をやってるんだろう?
楽しそうなら私も混ぜてもらおうかな?
「暇だー! 暇だよー、ねー、くー君」
「あ? 乃々香か?」
「何してるの? 私も混ぜてー」
「ダメだ、お前にこれは向いてない」
くー君の近くまで来てみると、くー君はガラスの破片を広げていた。
「何これ? 割れたの?」
「あぁ、だからこれから直す」
「ん? これって、プルルスの……」
「そうそう」
「あらら……」
確かにこれは私に向いてない。
くー君の担当分野だ。
となると、私は暇なままじゃないか!
「ねぇ、くー君。私、暇なんだけど?」
「知らねーよ。お前が暇でも俺は忙しいんだよ!」
「ズルいよ、くー君だけ忙しいなんてー」
「お前はいつも忙しいだろ! 今日、休みもらったんだろ? 遊んでこいよ」
「そう、それ! 酷くない?」
「何が?」
「急に休みにしてくる事!」
「休みもらって怒ってるのか?」
「んー?」
私、休みをもらった事に怒ってたんだっけ?
いや、違うな……
「私は奏海ちゃんの態度に怒ってるの!」
「態度?」
「"何が起きても絶対に呼ばないから"とか言ってきたんだよ! 酷くない?」
「奏海はお前に、仕事を忘れて休んで欲しかったんだろ?」
「それは分かってるけどさー、鞄まで没収されたし……」
「鞄があったら、お前は上に行って仕事をしちまうだろーがっ!」
「でもー」
「でもじゃない!」
くー君とお話してると、
「みゃー」
と、プルルスがガーデンテーブルの上に飛び乗った。
「こらプルルス。ここにいたら危ないだろ」
「くー君がちゃんと直すかどうか、見張っていたいんじゃない?」
「みゃー」
「そんなに心配しなくたって、ちゃんと直してやるよ」
「みゃみゃ?」
「仕方ないな、この辺はガラス散らかってて危ないし、あんまり歩くなよ」
「みゃあみゃー」
何か通じあってるみたいで羨ましい……
「いいなー、くー君はプルルスとお友達で」
「別に友達ってほど仲良くねぇけど?」
「そう? 今、通じあってるようにみえたけど?」
「いや、どうせこっちに来るなって言ったって、プルルスは俺の言う事なんか聞かねぇだろ? だから諦めただけだ」
「あぁ……なーんだ、くー君もプルルスに嫌われてるんだね」
「大体、プルルスは奏海と詩苑にしか懐いてないだろ」
「そうだねー」
「みゃーん」
プルルスは、当たり前でしょ! って感じに、私とくー君から目を反らすようにして、体を丸めてしまった。
本当にプルルスは奏海ちゃん贔屓をしているな……
気持ちは分からない事もないけど。
「でもプルルス! 奏海ちゃんの一番のお友達は私だから! この座は誰にも譲らないからね!」
「みゃあ!」
「そんな事ばっかり言ってるから、プルルスもお前に懐かないんだろうな」
「そうかもしれないね……」
「一応言っとくけど、誰よりも奏海の事を愛しているのは俺だから。奏海への愛は、俺が一番!」
「みゃあ!」
「何言ってんの? バカじゃない?」
「バカじゃない!」
まぁ、こうやって誰が奏海ちゃんへの思い一番か? みたいなのを争ってるから、仲良くなれないんだろうね。
それは分かってるけど、私も譲るつもりなんてない!
「ってか、もうお前が暇なのは分かったから、どっか行けよ」
「えー。どっかって、どこ?」
「ペンギンパークとか行って来たらどうだ? あれは元々お前の為に作ったんだし」
「皆で行かなきゃ意味ないよ」
「そりゃ無理だろ」
そんな事、私だって分かってる。
皆で一緒に遊ぶなんて、もう全員が忙しくなってしまった私達には無理な事だ……
でも、そんな冷たい事を言わなくったっていいのに……
「そんな事言ってたら一生行けねぇーぞ。1人で行って来いよ」
「ふーん。そんな酷い事を言うくー君には、あげないから」
「ん? 何をだよ?」
「この間の、奏海ちゃんとくー君がペンギンパークに行った時の、編集映像」
「は?」
くー君、ビックリしてる……
本当は普通にプレゼントしてあげるつもりだったけど、意地悪言ってくるし、私も意地悪返しをしたっていいはずだ。
「ちゃんと2人が恋人っぽく見えるように、いっ君に編集してもらったんだよ」
「なんでそんな……」
「まー君が欲しいって言ったからね。私が記録してた映像で作ってもらったんだ」
「俺は聞いてない!」
「言ってないもん!」
「今すぐくれ!」
「ヤダ! どっか行けって言われたし、どっか行ってくる事にした!」
「あっ、おい、乃々香!」
今更引き止めたって、もう知らない!
まぁ、どのみちくー君は仕事があるみたいだし、これ以上は邪魔出来ないからね。
プルルスにも悪いし……
私はくー君の騒がしい声を聞きながら、中庭を後にした。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)