鞄の行方
乃々香視点です。
「ん……ん? うーん?」
目が覚めて、辺りを見渡す……
ここは奏海ちゃんの執務室か……
そうだ、昨日奏海ちゃんとちょっと喧嘩しちゃって、そのまま寝たんだった。
私にはブランケットがかけてあった。
多分奏海ちゃんがかけてくれたんだろう。
執事さんとかメイドさんとかだったら、部屋まで運んでくれてるだろうから……
ん? 持ってきてたはずの、私の鞄がないな……
鞄だけは部屋に運んでくれたのかな?
まぁ、いいや!
とりあえず、お風呂に入ろう!
昨日は入らずに寝ちゃったし……
執務室から出て、一番最初に会ったメイドさんに声をかける。
「おはよう! ねぇ、私お風呂に入りたいんだけど、今っていいかな?」
「御入浴ですね。かしこまりました」
「ありがとう。あと、お風呂出たらすぐに朝ご飯を食べたいから、料理長にお願いしておいて」
「朝ご飯……ですか?」
「うん! よろしくね」
「……かしこまりました」
メイドさんにちゃんと伝えたし、これで大丈夫だ。
お風呂へいって、さっぱりしよう!
……そういえば、私今日はお休みとかいう訳の分かんない事を言われたんだった。
奏海ちゃんに文句を言ってやろうと思ってたのに、もう出掛けたみたいだ。
本当に自分勝手だなぁ……
お風呂を終わらせて、部屋の方へ行こうとすると、丁度料理長に会った。
「料理ちょー! 私の朝ご飯はー?」
「ん? あぁ、乃々香か。ってか朝ご飯じゃねぇよ。何時だと思ってるんだ」
「えー? 知らないよ。何時?」
「11時を過ぎている」
「でも12時は過ぎていないんでしょ? じゃあ朝ご飯だ!」
「そうかよ。まぁ、部屋に運んどいたから勝手にしてくれ……」
「わーい、ありがとー」
料理長に挨拶をして、部屋に帰る。
うん! とっても美味しそうな朝ご飯だ!
ありがとう料理長! って思いながら食べていて気がついたけど、私の鞄がやっぱりない!
何で? 部屋に運んであると思ったのに……?
もしかして、上?
急いでご飯を食べ終わって、上へ行こうとすると、
「乃々香様。本日は上へは登れません」
と、後ろからふーじーの声がした。
「ふーじー? 何で?」
「奏海様より、乃々香様を上へ行かせないようにと仰せつかっておりますので」
「はぁ?」
「乃々香様は、本日はお休みを楽しむようにとの事です」
「もしかして、私の鞄……」
「奏海様から、絶対に乃々香様に渡さないようにと」
奏海ちゃんの野郎!
何て事をするんだ!
鞄のない状態で急に仕事になったらどうするつもり……あ、仕事にならないのか……
「乃々香様のお鞄は、私の方で預からせて頂いておりますので、ご安心下さい」
「なにそれ! ふーじーは奏海ちゃんの味方なの!?」
「私の主人は奏海様です」
「そんな事を言ってると、私が怒っちゃうよ!」
「それは困りましたね」
「全然困ってなさそうだね」
余裕顔をしててなんかムカつく!
でもふーじーと戦って、私が勝てる訳はないし……
「上へ行くのも禁止なんだね?」
「はい。乃々香様が上へ行かれるようでしたら、休暇中の使用人を呼んで来てでもお止め致します」
「それは可哀想だからやめてあげて!」
私が上へ行くのは、皆のお休みを奪う事になるなんて……
もう、打つ手なしじゃん……
「もう! 何でそんなに私から仕事を奪うの!?」
「使用人一同、乃々香様を心配しているのですよ」
「心配?」
「いつも上から守って下さっているというのに、その上急な仕事に呼ばれたりもされて……」
「私はいつも、上でくつろいでるだけだよ! 風当たりもいいし!」
私は、上にいるってだけで、休んでる時の方が多いのに……
「折角の休日ですし、ごゆっくりお楽しみ下さい。何かございましたら、いつでもお呼び下さい」
「じゃあふーじー、私の鞄返して」
「それは出来ません」
「もうっ! そんなんじゃ私、何も出来ないじゃん!」
休みなんてしたことないし、具体的に何をしたらいいのかなんて分からないよ!
「乃々香様、中庭の方に空音様がいらっしゃいますよ。空音様に相談されてみてはいかがですか?」
「くー君?」
「はい」
「じゃあ、行ってみるよ」
くー君に相談して何か解決するかな?
まぁ解決しなくてもいいや。
何も出来なくて暇だし、くー君と遊んであげよう!
なんか小声で、
「神園さんが空音様を生け贄に捧げた……」
とか聞こえたけど、私には関係なさそうだし、気にしないで中庭に向かう事にした。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)