価値観
愛依視点です。
「ねぇ、里香。結局何の解決も出来てないんだけど……」
「え? 何で?」
私に抱きついてなかなか離れなかった里香を引き剥がして、場の空気を整える。
今の空気間じゃ色々といただけない……
「まだ何か問題があった? 私はもう、愛依ちゃんと友達になれて万々歳なんだけど?」
「私がその……プルルスのせいにしたこと……それに、置物を壊した事も……」
「それについてはさっきから言ってるだろ? プルルスにはちゃんと謝ってくれたんだし、置物を壊したのは早瀬が責任を感じる必要はないって」
「そうだよ愛依ちゃん。詩苑君が悪いんだから」
「でも……」
「そんなに気になるんなら、もう一度プルルスにちゃんと謝りに来ればいい」
「え?」
プルルスに、もう一度……
「聞いてくれるかな?」
「昨日お嬢様が落ち着かせてくれてたし、大丈夫だと思う」
「私も一緒に謝りに行くよ! プルルスちゃんにも会いたいし!」
少し楽しそうな里香。
プルルスと仲いいのかな?
そんな里香が一緒に来てくれるのは心強いけど、あの家に行くのはちょっと怖い……
もちろんプルルスには全力で謝りたいんだけど……
「あの……奏海お嬢様は……?」
「ん? お嬢様がどうかしたのか?」
「すごく怒ってる? も、もちろん誠心誠意謝らせていただく所存ではありますが……」
「愛依ちゃん、落ち着いて。どう、どう」
もちろん謝らないといけないって事は分かってるんだけど、何しろあの桜野奏海様だ。
流石に会うのが怖すぎる……
「お嬢様は別に怒ってない。というか、お嬢様はちゃんと否を認めた人間を、それ以上に責めたりはしないよ」
「どういう事?」
「早瀬が反省してたっていうのは、昨日僕が伝えておいたから。お嬢様に会って、直接謝ったりはしなくていいって事」
会わなくていいのか……
それならよかった……って、よくないじゃん!
「でも、壊したのは私だし、やっぱりちゃんと謝らないと……」
「お嬢様も忙しい方だからな……」
「それなら愛依ちゃん。手紙書いたら?」
「あぁ、いいんじゃないか?」
手紙かぁ……
昔お母さんに書いて以来だ……
字はあまり綺麗に書けなかったけど、私の一生懸命な気持ちが伝わるって、お母さんも喜んでくれたなぁ……
今回も一生懸命に書いたら、奏海様に伝わるかな……?
「そうするよ……手紙、書いてみる。ありがとう里香」
「うん!」
「あと、あの……弁償の件だけど……」
「それもさっきから言ってるだろ? いらないって」
「詩苑君が払うの? 一生あの家で仕えて行くとか、そんな感じ?」
「なに言ってるんだ……」
「それなら良かったね、詩苑君。夢叶うじゃん!」
「いや、僕の夢は、父さんを越えるあの家の料理長だから……」
「あぁ、そうだったねー」
何の話をしても、この和気あいあいとした空気にされる……
この人達、大丈夫か?
「ねぇ! だから弁償の話!」
「あぁ、弁償はしなくていいんだって。早瀬が金額の事を気にしているんなら、あれは2万円位のものだ。そんな、一生働いて返すほどの金額でもない」
「そ、そうなんだね……」
に、2万か……
お詫びも含めて……
「でもだからって2万円をもってこられても受け取らないからな。仮にそれで同じものを買って弁償したとしても、プルルスにとっての宝物はそれじゃないんだし」
「それには思い出がないからねー」
「あぁ……そうだね……」
じゃあ、どうしたら……
「置物はさ、くー兄が直してくれる事になってるんだよ」
「くー兄?」
「凄く器用なお兄さんだよ。好きな食べ物は、アイスクリームだね」
「アイスクリーム?」
「この時期は食べたくなるよねー!」
「早瀬、置物が早く直るように、くー兄にアイスクリームを差し入れしてくれないか?」
「……分かった! ありがとう!」
私がこれだけ協力してくれた皆にお礼を言っていると、
「お前達! いつまでこの部屋を使っているつもりだ?」
と、先生か入ってきた。
「あ、ごめんなさーい」
「先生も食べたじゃん!」
「あぁ、旨かった」
「じゃあいいじゃん!」
「それはそれ、これはこれ、早く帰りなさい」
「「「「「はーい!」」」」」
それからはもうバタバタと、皆で賑やかに片付けをして、各々家に帰る事になった。
帰り道は、里香と一緒だ。
「じゃあ今度、くー兄が喜ぶアイスクリームを一緒に買って、プルルスに改めて謝りに行こうね!」
「うん、里香。本当にありがとう」
「うん! また明日ー!」
「また明日」
私は最低な人間だったのに、あんなに素敵な友達が出来た。
まだまだ自分のダメた所はたくさんあると思うけど、これから変わっていけばいいんだ!
とにかくお父さんと話たい!
お父さんが変わったみたいに、私も少し変われた気がしたから……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)
episode5は完結です。