場違い
愛依視点です。
「皆ありがとう! 食べながらでいいから、ちょっと僕の話を聞いてくれ!」
そう言って家庭科準備室に入ってきた詩苑君。
「どうしたの?」
「今までの事を振り返って、反省したんだ」
「反省?」
「将大、高坂、最初は僕達3人だけだったよな?」
「あぁ」
「そうだね、懐かしいね」
そうなんだ……
この壮大な試食会は、最初はこの3人だけでやってたのか……
え? 無理じゃない?
「最初はこんなに大規模じゃなかったね」
「詩苑が作った料理に、俺と高坂が文句いう程度の会だったな」
「それが今は皆のお陰で、ここまで大きな会になった。こんな、学校全体の人が食べに来てくれて、皆から感想が言ってもらえる……」
あー、最初は違ったんだね……
当たり前か、子供3人だけでこんな試食会が開ける訳がない。
いや、今開いてるこの試食会も十分におかしいんだけどね。
「これだけの試食会が開けるようになったのは、本当に皆のお陰なんだ。手伝ってくれるお前たちもそうだし、食べに来てくれるお客さんたちもそうだ。皆の助けがあるから、僕はこうして試食会を開く事が出来てる」
「うん、そうだね」
「なんだよ改まって……恥ずかしいじゃん!」
「何々? 何かドッキリ?」
「いや、そういうのじゃなくて……」
詩苑君は凄く真面目に話してる感じなのに、聞いてる皆は凄くふざけてるみたいだ。
この人達は本当に皆、仲がいいんだ……
私はこの場にいるべき人間じゃない……
出ていくタイミングを誤ってしまったな……
「僕が言いたいのは、皆に甘えきっていたって事だ。これだけの会が開けるのは皆のお陰なのに、それを考えもせず、皆に横暴な態度をとってた」
「そう? いつも通りじゃない?」
「詩苑君のあの感じにはもう慣れたからねー」
「うん。あーでも、確かに早瀬さんに対しては酷かったな。早瀬さんが優しい人だったから良かったけど、転校生でまだ何も知らない早瀬さんに、あの態度はないだろって」
「ほんとほんと、皆心配してたんだよ。里香ちゃんなんてね、ずっと気にかけてて」
「それに関しては、本当に反省してる……早瀬、本当に悪かった」
「は……?」
皆が一斉に私の方を見てきた。
場違い感丸出しだったのに、急に主役に立たされてしまった感じだ……
「なんで……?」
「早瀬さん? 大丈夫?」
「具合悪いの?」
何も言えない私を皆は心配してくれてる。
皆の思う早瀬愛依だったらここは、
「全然大丈夫だよ! 皆、こんな凄い事をしてたんだね! 今までの学校ではなかったから、ビックリしちゃったよー! 詩苑君も、知らなかったとはいえ、集中したい時に邪魔しちゃってごめんね! 詩苑君が謝る必要なんてないからねー!」
くらいの事は言うんだろうな……
今は、そんな気力がない……
「早瀬さん? もしかして、凄く怒ってる?」
「将大君に急に手伝わされたもんね……」
「ごめんね……」
「いや、そういうのじゃ……」
この空気がいたたまれない……
仕方ない、さっきのを言うか……
「ぜ、ぜん……」
「皆、愛依ちゃんはちょっと疲れちゃっただけだよ! こんなにお客さんが来るとは思ってなかったからね!」
「あー、初めてだもんね」
「怒ってる訳じゃない?」
「え? うん……」
「良かった!」
「いきなりでこれじゃあ、ビックリして疲れるのも当然だよね」
高坂さんがフォローしてくれたおかげで何とかなったけど、誤解されたままだ……
このままじゃ皆の中での私が、どんどん良い人みたいになっていってしまう……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




