慰労会
愛依視点です。
私は、試食会に並ぶ列の最後尾で、新しく並ぶ人達にプリントを配り続けている。
配りはじめてから30分くらいたつと、新しく並ぶ人よりも、列が進んでいく方が早くなって、私もだんだんと家庭科室の方へと帰ってきた。
「愛依ちゃん、お疲れ様。もう休んでていいよ」
「あぁ早瀬、悪かったな。お詫びで呼んだのに、手伝わせて」
「おい詩苑。やれって言ったのは俺だぞ?」
「そうだな。全く……」
「本当だよ! 愛依ちゃんはお客さんだったのに!」
私が来たのに気付いた高坂さんが手を止めて、声をかけてくれた。
その声に反応したみたいで、詩苑君と将大君も家庭科準備室から出てきてくれた。
この3人は、本当に仲がいいみたいだ。
「将大君にやれって言われたからやった訳じゃないし、気にしないで」
「ほら、転校生もこう言ってるだろ?」
「将大君。早瀬愛依ちゃんだよ!」
「ありがとな、早瀬」
「う、うん……」
将大君は私にも笑いかけてくれた。
ガキ大将の威張り散らした奴だと思ってたのに……
「詩苑くーん! もう並んでるお客さんもいなくなったよー」
「そうか。じゃあ、手伝いはここまででいいよ。後から来るお客さんは、僕1人で何とかするから、皆は休んでくれ」
「はーい」
「わー、詩苑君のケーキ!」
「いただいてるねー!」
詩苑君の手伝いをしていた子達が皆、準備室の方へと入っていく。
私はどうしたもんかと狼狽えていると、
「愛依ちゃんも行こ!」
と、高坂さんにかなり無理矢理に手を引っ張られ、私も準備室へ入る事になった……
「はーい、私達の分ね」
「わー! やっぱり一仕事した後の方がいいねー」
「あ、早瀬さん。そのプリント、僕達にも1枚づつ頂戴」
「え……あ、うん」
さっきまで配っていたケーキを、皆1つづつお皿によそっていっている。
何をしたらいいのかも分からずに立っていると、プリントを配ってと言われたので、皆にもプリントを配った。
「今日もこきつかわれてやったからな。めっちゃ辛口評価にしようぜ!」
「そうだねー」
「じゃ、いただきまーす! んー、美味しい!」
「さすが詩苑君だね」
準備室の席に適当な感じに着いて、皆はケーキを食べ始めた。
そして、プリントに感想を書いている……
「ほら愛依ちゃんも食べよ」
「うん……」
高坂さんが私の分を持ってきてくれた。
ずっと私と関わろうとしてくれる……
申し訳なく思えてくる……
「まず見た目だね! 層になってて面白いね」
「うん……」
詩苑君が作ったケーキは、いくつもの層が重なっているようなケーキだった。
苺とチョコレートが使われているみたいだ。
凄い手の込んでいる感じだし、いくら小さいとはいえ、これだけの量を用意するのは、相当大変だっただろうな……
フォークをさしてみると、層になってるのが順番に切れていく感じが手に伝わって、面白かった。
そのまま一口食べると、本当にとても美味しかった。
こんなに美味しいケーキは食べた事がないと思う。
まぁそもそもケーキなんてろくに食べた事がないんだけど……
「愛依ちゃん、どう? 美味しい?」
「うん、凄く美味しい」
「よかった! でも、一口目で美味しいと思ったのなら、二口目からは粗探しだよ! ダメ出しするところを見つけないとね!」
「ふっ、なにそれ? わざわざ悪い所を探すの?」
「そう。その方が詩苑君の向上に繋がるからね!」
「分かった。それなら私も粗探しするよ」
「うん!」
私がそういうと、高坂さんは私を見つめながら、
「やっと笑ってくれたね、愛依ちゃん」
と、少し涙目で言ってきた……
「高坂さん、あの……」
「愛依ちゃん、私は里香だよ!」
「……里香」
「うん! 何?」
「その、本当にごめんなさい。私に、こんなに接してくれて、ありがとう。でも私はもう、孤立しないといけないから、もう関わらないで……」
「それはいくら愛依ちゃんの頼みでも聞けないなぁ」
私は真面目にいってるのに、高坂さんはふざけているみたいで、笑いながら話してくる。
涙目なのに……
「高坂さん……」
「里香ね!」
「里香。私はね、ずっと皆を騙してたし、利用しようとしてたし、無実の人に罪を擦り付けようとするような、最低な人間なんだよ……」
「ん? 何の話?」
「それは……」
私が高坂さんに昨日の事を話そうとすると、
「皆ありがとう! 食べながらでいいから、ちょっと僕の話を聞いてくれ!」
と、詩苑君が準備室に入ってきた。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)