混乱
愛依視点です。
本当は行きたくない学校……
でも、やっぱりちゃんと詩苑君に謝らないといけないから、仕方なしに向かう……
本当はプルルスにもちゃんと謝りたいけど、それはもう無理だろう……
私があの家にお邪魔させてもらうことは、多分もうないから……
昨日お父さんは、何かをたくさん話してくれた。
正直、全部は覚えてない……
私もいっぱいいっぱいだったから……
もう媚を売らなくていいとか、私の気持ちを素直にいえばいいとか、何かそんな感じだったな……
お父さんは私が素直に喋ったら、どんだけ性格が悪いのかちゃんと分かって言ってるのかな?
きっともう話しかけてくれる人もいなくなるし、学校でもまた孤立するんだろうな……
でもきっとそれでいいんだ。
私ももう、面白くもないのにヘラヘラ笑って、皆に話を合わせて、気に入られるようにってするのは疲れたから……
1人の方がずっと楽……
そんな事を考えながら登校してくると、
「は、早瀬さんっ! おはよう」
と、高坂さんが声をかけてきた。
まだ廊下なのに……
なんか、私を見つけて駆け寄って来てくれたみたいだし、もしかしてずっと私を待ってたんだろうか?
今日は遅く来たから、結構待たせたのかもしれない……
でも、タイミングが悪いな……
私は今、誰とも話したくないんだけど……
「高坂さん……」
「あ、あの、あのねっ、本当にごめんなさいっ!」
「……は?」
今話す気ないからと言おうと思ったのに、高坂さんは何故かいきなり謝ってきた。
それも結構大きい声で……
何事なんだと、まわりの人達にも見られてる……
「私、早瀬さんとレンの話が出来たのが嬉しくって……もっと早くに詩苑君の事を話すべきだったのに、どんどん遅くなっていっちゃって……」
「あぁ……」
「本当にごめんなさい……あの、早瀬さんが誤解してるって知ってたのにちゃんと話さなくて……」
そうか、高坂さんはずっと私に詩苑君の事を教えてくれようとしてたから……
私が詩苑君の事を勘違いしてると思い込んで、ずっと話そうとしてくれてた。
それを私は避けてたし、利用してた……
確かに勘違いはしていたけど、高坂さんが思ってるのとは違うし、高坂さんが謝ることなんて、何1つないのに……
「私の事、嫌いになったかも知れないけど、出来ればまた、レンの話とかで一緒に盛り上がってほしいなって……」
こんな私と、まだ仲良くなろうとしてくれてるんだ……
レンの事が好きな仲間だと思い込んで……
「高坂さん。私、レンの事なんて好きでも何でもないよ。別に格好いいとも思わないし、あれは適当に高坂さんに合わせた事を言っただけ」
「え?」
「高坂さんと仲良くなっておいた方が、得だと思ったから」
高坂さんは私の言葉に驚いている。
そりゃそうだよね。
「早瀬さん? 得って、何が?」
「私の家、貧乏なの。テレビもないからレンなんて知らないし、駅前のドーナツだって、貰ったから食べた事があるだけで、そんな高価な物なんて買えない。スーパーの特売で怪我しながら安い食材買って、物くれそうな人に媚売って生きてるの」
「は、早瀬さん……」
「だから、高坂さんと仲良くなっておけば、何かくれるかと思って近づいてただけ」
これが私の素だ。
性格は悪いし、金の事しか考えてない。
高坂さんにだって、利用できるかもと思ったから近づいただけ。
別に友達になりたかった訳でもなんでもない!
……そう、お金のため……
友達なんてもの……私には必要ないと思ってる……
だから、ちゃんと高坂さんに現実を教えてあげよう。
もう私は、孤立するべきなんだから……
「ついでに言うと、高坂さんは勘違いしてるよ」
「私が勘違い?」
「確かに私は詩苑君が金持ちの家の使用人だとは知らなかった。皆に避けられてると思ってた。でもそれを利用しようとしてたの」
「利用?」
「詩苑君こそが金持ちだと思ってたからね。自分だけが詩苑君と仲良くなって、色々と恵んでもらおうと思ってたの。だから私は別に、高坂さんが思ってるような仲間外れ反対精神の行動をしていた訳じゃない」
言った……言いきった。
これで高坂さんも、金持ちを利用しようとしてた、性格の悪い奴だって分かっただろう……
「……そっかぁ」
私の言葉に対し、高坂さんはそれだけしか言わなかった。
まぁ、普通に何も言えないよね……
なんならもう、話したくもないよね……
関わりたくなんてない……
周りの他の人達にも聞こえたはずだ。
これでよかった……
よかった、はずなのに……何で、辛いんだろう……
「早瀬さん。ううん、愛依ちゃん!」
「……は?」
「今度から、愛依ちゃんって呼んでいい? いいよね?」
「……何で?」
「んー? なんとなく? 私の事は、里香でいいよ」
何を言ってるんだろう?
何で急に名前の話なんて……っていうか、高坂さん……
「高坂さんって、里香って言うんだ……」
「そこからー? もう、これからはちゃんと覚えてよね! 愛依ちゃん!」
「……だから、何で?」
「なんとなくだってば」
意味わかんない……
会話が成立しない……
混乱する私に、さらに追い討ちをかけるように、
「あぁ、早瀬。高坂も。話があるんだ」
と、詩苑君が近づいてきた……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)