お友達
高坂さん視点です。
はぁ、早瀬さん……大丈夫かな?
もうそればっかりが気になって、なかなか眠れない……
今日、早瀬さんは詩苑君の家に遊びに行った。
早瀬さんにはまだちゃんと詩苑君の事を話せてなかったし、きっと早瀬さんは詩苑君の事を勘違いしたままだ。
だから詩苑君の家を見て、ビックリするんだろうな……
ただビックリするくらいならいいけど、"家見たんだから帰れ!"とか、冷たい言葉を言われてないかな?
いや、絶対に言ってる。
最近の詩苑君は機嫌悪かったし……
なかなかいい作品が出来ないからって、機嫌が悪くなるのはわかるけど、ちょっと皆に冷た過ぎるんだよ。
特に早瀬さんは転校してきたばっかりだったから、もっと気を使うべきなのに、あの態度。
もっと早くに怒っておけば良かったのかな?
はぁ……それにしても、何でもっと早くに言ってあげられなかったんだろう……
最初にレンの話を聞いてくれたのが嬉しくって、ついレンの話ばかりをしてしまった……
言うチャンスは結構あったし、将大君にも言われてたのに、今日の早瀬さんの様子を見て、てっきり誰かから聞いたんだと思っちゃった……
はぁー、本当に、私がもっと早くに詩苑君の事を話していれば……
早瀬さん、傷ついてないかな……
あー、考えてたってしょうがない!
早瀬さんはいつも朝早いし、明日は私も早く学校へ行って、ちゃんと早瀬さんに謝ろう!
と、昨日の夜、そう意気込んで今日は学校に急いで来たのに、早瀬さんはちっとも来ない……
今日学校に来てくれるといいんだけど……
詩苑君もいないな、いつも早いはずなのに……
まぁ、詩苑君がいると話もややこしくなりそうだし、今はいなくていいんだけど……
色々考えながら廊下の方を見ていると、早瀬さんが登校してきた。
でも足取りは重そうで、いつものあの明るい早瀬さんからは想像出来ないくらいに暗い顔をしている。
やっぱり昨日、詩苑君に酷い事を言われたんだ!
「は、早瀬さんっ! おはよう」
「高坂さん……」
「あ、あの、あのねっ、本当にごめんなさいっ!」
「……は?」
「私、早瀬さんとレンの話が出来たのが嬉しくって……もっと早くに詩苑君の事を話すべきだったのに、どんどん遅くなっていっちゃって……」
「あぁ……」
早瀬さんは、私の話をあまり聞いてくれている感じがしない。
心ここにあらずというか、私と会話なんてしたくなさそうな感じ……
「本当にごめんなさい……あの、早瀬さんが誤解してるって知ってたのにちゃんと話さなくて……私の事、嫌いになったかも知れないけど、出来ればまた、レンの話とかで一緒に盛り上がってほしいなって……」
「高坂さん。私、レンの事なんて好きでも何でもないよ。別に格好いいとも思わないし、あれは適当に高坂さんに合わせた事を言っただけ」
「え?」
「高坂さんと仲良くなっておいた方が、得だと思ったから」
口調もとても冷たくて、本当に私とは会話なんてしたくなさそうな早瀬さん……
それに、レンを好きって言ってたのは、私に合わせただけって……
私と仲良くなるのが得だって……
ちょっと意味が分からない……
「早瀬さん? 得って、何が?」
「私の家、貧乏なの。テレビもないからレンなんて知らないし、駅前のドーナツだって、貰ったから食べた事があるだけで、そんな高価な物なんて買えない。スーパーの特売で怪我しながら安い食材買って、物くれそうな人に媚売って生きてるの」
「は、早瀬さん……」
「だから、高坂さんと仲良くなっておけば、何かくれるかと思って近づいてただけ」
本当に別人みたいに話す早瀬さん……
でも、今にも泣き出しそうなのを必死にこらえているようにも見える……
「ついでに言うと、高坂さんは勘違いしてるよ」
「私が勘違い?」
「確かに私は詩苑君が金持ちの家の使用人だとは知らなかった。皆に避けられてると思ってた。でもそれを利用しようとしてたの」
「利用?」
「詩苑君こそが金持ちだと思ってたからね。自分だけが詩苑君と仲良くなって、色々と恵んでもらおうと思ってたの。だから私は別に、高坂さんが思ってるような仲間外れ反対精神の行動をしていた訳じゃない」
「……そっかぁ」
早瀬さんの話を聞いて、私が言えた言葉はそれだけだった。
なんだろう……
とても複雑な気持ちだ。
何て言葉をかけるべきなのか、よく分からなかった。
私や詩苑君と仲良くなろうとしてくれたのは、仲良くなりたいからだけじゃなかった……
近づいて、媚売って、恵んでもらおうって……
早瀬さん……凄く苦労してるんだ……
でも、それはきっと早瀬さんの隠していたかった事なんじゃないのかな?
それをこんな堂々と話してしまって……
私以外の皆にも聞こえちゃってるし、もう隠す気もないって感じなのかな?
きっと昨日、詩苑君と何かあったんだ。
それでもう自分を偽るのはやめたのかな?
何があったのかは分からないけど、きっと今のこの早瀬さんが、素の早瀬さんなんだ。
変に自分を偽ってなんていない早瀬さん……
つまりこれは、今度こそちゃんとお友達になれるって事だよね!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)