12 1-12 相関性
赤い羊視点です。
俺は、依頼人に渡した盗聴器から聞こえてくる音を聞いていた。
近所の主婦と思しき人物からの挨拶には、特に返事を返さない依頼人。
会釈程度はしているんだろうが、昔からの知り合いに対してこの対応というのは、あの主婦達が心配するのも頷ける。
「おー葵、おはよ」
「おはよう、葵ちゃん」
「空音、おはよう……」
しばらくガヤガヤと、人の声や車の音等の雑音が聞こえていたが、ついに依頼人に挨拶をする声が聞こえた。
依頼人も空音と呼んだ事からして、この声の主はモテ男君と聖人ちゃんで間違いないだろう。
モテ男君は、彼女ではない女の子の事も下の名前を呼び捨てにして呼ぶタイプなんだな。
好きな男から名前で呼ばれているのに、彼女にはなれない依頼人……
モテ男君も罪作りな男だ。
挨拶の後、聖人ちゃんが依頼人にスノーフレークの仕事を誘ったが、依頼人は断った。
それも即決だ。
だが何故断ったのだろうか?
聖人ちゃんがいるとはいえ、モテ男君も参加するというのに?
図書館での仕事とか言っていたし、自分が行かなければ2人の図書館デートを許してしまうようなものだと思うが……後で確認しておくか。
ずっと聞いているのが馬鹿らしいと思える程に、依頼人は何も喋らない。
そのお蔭で周りの声がよく拾えているから、まだ盗聴1日目だというのにこの3人の学校での様子が十分に分かった。
聖人ちゃんは依頼人と仲良くなりたいらしい。
だから図書館での仕事に依頼人を誘ったのだろう。
あんな変な子には関わらない方がいいと言われているのも聞こえたが、聖人ちゃんはそれを否定していた。
依頼人に嫌われている自覚はあるようだが、その理由は分かっていないようで、自分が依頼人の気に障る事をしてしまったのだと考えた結果、依頼人との関係修復に尽力しているみたいだ。
あまり関係ないが、英語の授業での聖人ちゃんの発音は完璧過ぎて気持ちが悪かった。
さすが帰国子女と言ったところか。
昼飯はモテ男君の作った手作り弁当を周りにからかわれながらも、2人で一緒に食べているようだ。
聞こえてくる聖人ちゃんの声は、常に笑っていて楽しそうだった。
誰にでも笑顔で対応しているんだろう。
そんなに笑ってばかりいるのも疲れるだろうに……理解出来ない人種だ。
あれが演技とも思えないし、素でああいう性格なんだろう。
人を恨む脳がないのかなんなのか……
まぁこの子はどうせ消す子なんだから、そんな事を考える必要もないんだが。
そもそもそんな事を考えていたら仕事にならない。
……ん? 静かだな。
時間的にも放課後か?
一度も依頼人の声も聞いていないし、しっかりとこの携帯を所持しているのかの確認も兼ねて、依頼人に電話をかけた。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)