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スノーフレーク  作者: 猫人鳥
episode5 貧乏人の虚言編
119/424

修復

詩苑君視点です。

 夜、23時を過ぎた頃、お嬢様がご帰宅された。


「詩苑君、行くよ」

「はい」


 神園さんに声をかけてもらって、神園さんと一緒にお嬢様の執務室へと向かう。


コンコンッ


「どうぞ」

「失礼致します」

「し、失礼致します……」


 神園さんに続いて、僕も執務室へと入った。

 今までに入った事がないわけではないけど、こんなに緊張して入るのは初めてだ。


 部屋の一番奥のデスクで、お嬢様は書類を書いていた。

 視線は書類で、右手に万年筆を持ち、見ているのとは違う書類に何かを書きながら、左手でデスクの上にいるプルルスを撫でている……


「奏海様、先の件についての説明に参りました」

「連絡は受けています。ですが、詩苑。もう遅いでしょう。あなたは早く寝なさい」

「あ、いえ……」


 お嬢様は僕には休むようにと言って下さる……

 でも、僕が自分からちゃんと話さないといけないと思うから……


「あの、お嬢様……僕からちゃんと説明させて下さい」

「早く寝ないと大きくなれませんよ?」

「うっ……いえ、大丈夫です」


 僕はどちらかと言えば身長が小さい。

 だから、身長の事を言われるのはあまり好きじゃない。

 とはいえ、今はそれを気にしている場合じゃないな……


「あの、お嬢様。今日僕が招いた客人が、プルルスの置物を壊してしまいました……」

「そのようですね。災難ね、プルルス」

「みゃぁ……」


 お嬢様は視線をプルルスへと移し、書類を書いていた手を止めて、両手でプルルスを抱き上げてから、自分の足の上へとプルルスを移動させた。

 そのまま、プルルスを撫でてあげている。


「ほ、本当に申し訳ございませんでした」


 僕が頭を下げて謝罪すると、お嬢様は、


「詩苑が反省している事は、もう十分に分かっています。顔をあげなさい」


と、言って下さった。

 そして、顔をあげた僕をじっと見つめてこられた……


 お嬢様は基本的にいつも無表情に近い。

 プルルスと遊んでいる時でさえ、ほんの少し口角が上がっている位だ。

 だから表情からはあまり分からないけど、今のお嬢様は怒っている訳ではなさそうに思う。

 でも凄く怖い……


「それで、その客人はプルルスに謝りましたか?」

「え……あ、はい! 謝ってもらいました。当人も大変後悔している様子でした」

「そう……」


 お嬢様の質問にそう答えると、お嬢様は僕を見つめるのやめて、プルルスへと視線を移した。

 そして、プルルスに、


「それならプルルス、もう許してあげなさい。プルルスが私の贈ったあの置物を大切にしてくれていて、私も嬉しいわ」


と、プルルスとの話を始められた。


「みゃあ」

「また同じ物を買ってきたとしても、プルルスは納得できないものね。それはプルルスにとっての思い出の品ではないから」

「んみゃあ」


 こういう時に、すぐに同じ代わりの物を用意しようとかしない辺りが、お嬢様の凄いところだと思う。

 ちゃんとプルルスの気持ちを考えてあげているんだ。

 それは家族間でだって、なかなか出来る事じゃない。

 父さんだって、なにかあるとすぐに別のものを買ってやるからって言うし……


「たった1つの大切な宝物を壊されて、辛いのはわかる。でもね、プルルス。どんなものでも、形あるものはいつか必ず壊れる日が来てしまうのよ」

「みゃぁ……」

「それでも、それが人が作ったものなら、また作り直す事ができるから。全く同じには戻らないけどね」

「みゃ……」


 お嬢様はプルルスを撫でながら、視線を神園さんの方へと移して、


「藤雅さん。空音を呼んでもらえますか?」


と、仰った。

 それに対して神園さんは、


「既にお呼びしております。お疲れのご様子でしたので、現在はお休み頂いておりますが」


と、即答している。


「そうですか、流石ですね」


 本当に凄いと思う。

 僕は執事を目指している訳ではないけど、こういう先を見通して行動出来る大人になりたいな……

 神園さんは、憧れの人だ。


「プルルス。置物は空音に直してもらうから。そうして新しく生まれ変わった物を、また愛してあげてくれないかしら? 見た目は変わってしまうかもしれないけど、思い出は引き継いでくれているはずだから」

「みゃあ~」

「そう、ありがとう」


 ずっと元気のない鳴き声だったプルルスが、少し元気に鳴いてくれた。

 それにしっぽも本当に少しだけだけど、振ってくれている。

 お嬢様のお陰で、プルルスは落ち着いたみたいだ。

 本当によかった……


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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