自分にとって
愛依のお父さん視点です。
「確かに世の中はお金なのかもしれません。ですが、そのお金の使い道が家族の為であるのなら、世の中家族とも言えるのではありませんか?」
あの時、あの女はそう言った。
正直、理解できなかった。
だってそうだろ?
世の中には家族を大切にしないクズもいるんだ。
本当に世の中家族だってぇなら、家族の為に苦しんでる奴を皆が助けてくれるはずだろ?
少し前に若社長が言っていた、
「これはあくまでも、僕の考え方です。早瀬さんには早瀬さんの考え方がありますよね? 無理に僕に合わせる必要はありません。ですが、我々は1つのチームです。考え方は違えど、協力し合っていきましょう」
っていう言葉も、ただの綺麗事にしか聞こえなかった。
でも合わせて考えれば、少し変わってくる……
俺には俺の考え方がある。
でもまわりの奴等も同じ考え方を持ってる訳じゃねぇ。
あの女の言う世の中ってぇのは、俺にとってのって意味だったんだ。
確かに俺にとって、世の中は家族だ。
何より一番大切なのは愛依だ。
「なぁ、愛依。俺は今まで、散々お前に世の中は金だって言ってきたよな?」
「うん……」
「いいか愛依、世の中は金だ。でもじゃあなんで金が必要なんだ?」
「え? そんなのお金がないと、私達は生活していけないからじゃん。お金がないと服も買えない。ご飯も食べれない。住むところもない。何もないんだよ!」
俺の質問に必死に答えてくれる愛依を、もう一度抱き締める。
「そうだ、だから世の中金なんだ。でもな、それは全部俺達が暮らしていくために必要だって事なんだよ」
「ん? うん、そうだね」
「金は家族のために必要なんだ」
「うん?」
「つまりな、世の中は金が全てじゃねぇ。家族が全てさ」
「そんな訳ないじゃん。だったら家族で苦しむ人なんていないよ」
全くもって同意見だった。
でもそれは、誰もが皆、同じ考え方をしていると思ってたからこそなんだ。
「それは、考え方が皆違うからなんだよ」
「考え方?」
「俺にとっては世の中家族でも、違う奴にとったら世の中が何かなんて変わってくるものだったんだ。人にはそれぞれ、違う考え方があるもんなんだから」
「よく、分かんないよ……」
「愛依にとって世の中が何なのかは俺と違っていい。金じゃなくても、家族じゃなくてもいい。これから変わっていっていいものだって事だ」
「私の考え方……?」
俺は今まで、自分の考え方を愛依に押し付け続けていた。
だから愛依は、金を第一に考えちまうようになった。
「愛依は今まで、よく頑張った。頑張り過ぎた」
「そんなこと……」
「仲良くしたいと思った友達だって、本当はいたんじゃないのか? それを今まで全部、金持ちじゃないからって、友達にならなかったりしてただろう?」
愛依の人を判断する基準が、金持ちかそうじゃないかしかなくなってるのは、前から分かってた。
そうなっちまった原因は全て俺にある。
「金持ちか金持ちじゃないかなんて、どうでもいいから。だから、もう無理に金持ちに気に入られる自分を作らなくていい。まわりに媚を売らなくてもいい。愛依は愛依の、好きなように生けていけばいいんだ」
「な、何を言ってるの……お父さん?」
「そうだよな、すぐには分からねぇよな。愛依はずっと頑張ってくれてたから……」
「……」
「明日は学校へ行って、ちゃんと謝ってくるんだ。愛依の気持ちをそのままに、余計な事は考えなくていいから。全部素直に言えばいい」
「……うん、う……うっ、うぁぁああ……お、お父さん……」
そのまま泣きつかれて寝てしまった愛依を、ベッドに寝かせる。
明日、愛依が何をどう言われるのかは分からねぇし、解決策も何もない。
でも、全ての原因が俺にあることだけは間違いないんだ。
だから俺が解決してやらないといけない。
色んな考え方の奴がいるから、合わない奴もいる。
でも色んな考え方があるからこそ、俺達だけじゃ解決出来ない事も解決出来たりする。
もちろん解決なんて出来ないかもしれない。
でもだからって、どうせ解決できないって決めつけて、何も考えないってぇのは間違ってるんだ。
俺1人で悩んでたって、変な答えを出しちまうのがオチだ。
明日、若社長に相談してみよう……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)