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スノーフレーク  作者: 猫人鳥
episode5 貧乏人の虚言編
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荷物の持ち方

愛依のお父さん視点です。

 仕事から帰ってくると、愛依の様子がおかしかった。

 話を聞くと、金持ちの家の置物を壊してしまったのだという……


 最初は驚いた。

 流石に、いくらかも分からねぇ代物を弁償出来る訳がないからな、終わったと思った。

 でも、その金持ち達は愛依が泣いて、話が出来る状態じゃないからと、家にまで送り届けてくれている。

 つまり、話の分からないやつじゃないって事だ。


 それならなんとか話し合いで……

 と、俺はその置物とやらの弁償について考えていたというのに、愛依はまだ違う事に悩んでいるみたいだ。


「どうした?」


 俺が聞くと、愛依はかなり思い詰めた様子で、なかなか答えなかったが、


「私は置物を壊したの! でもその責任を違う子に押し付けて逃げようとした! その子が、その置物を一番大切にしてる子だったのにっ! 私は、自分が助かるためにって、あの子を傷つけたの……」


と、勢いのままに言いきった。


「愛依?」

「お、お父さん……わっ、私、自分がっ本当に……本当に最低な人間だったって、分かっちゃって……」


 急だったので、俺も反応が遅れてしまった……

 愛依は涙を流しながら、どんどん自分を責めていく……

 正直、どういう状況なのかは全く分からないが、それでも間違いなく分かる事はある!


「こんなに優しくて、家族思いで頑張り屋の愛依が、最低な人間な訳がないだろっ! いくら自分でも、そんな事は言うもんじゃねぇ!」


 俺は愛依を抱き締めながらそう言った。

 愛依が最低な人間な訳がない!

 そんな言葉、たとえ愛依の口からでも聞きたくはない。


「お父さん……」

「大丈夫だ、大丈夫だぞ、愛依」

「でも……」


 今の愛依は、自分を責めすぎている……

 なんか責任を押し付けたとか言ってたが、その結果でこんなに反省して苦しんでいるんだ。

 愛依は本当に優しい子だ……


 それに、確かに置物を壊したのは愛依かもしれないが、愛依だって壊したくて壊した訳じゃないんだ。

 話し合えば分かってもらえるかもしれないし、解決策が絶対にないなんて事はあり得ないはずだ!


 ん? 俺ってこんなに前向きだったか?

 あの若社長の明るさがうつっちまったのかもしれねぇな……

 そういやあいつ、今日も色々言ってたな……


「いいか愛依。困った時はな、人に助けを求めればいいんだ。何でもかんでも1人で背負う必要なんてないんだ」

「……え?」

「重い荷物を1人で持つより、皆で持った方が運びやすいだろ?」

「うん……」

「そりゃ世の中には色んな人がいるからな、中には協力してくれない人もいるかもしれない。でもだからって、どうせ協力してくれないって決めつけて、お願いもしないっていうのは違うんだよ」

「……お父さん?」

「ってな、今日言われたんだ」


 愛依はかなり困惑しながら聞いていた。

 俺だってそうだ。

 今日これを言われた時は、何言ってだこいつはと思った。


 でも、若社長なのにも関わらず、下っ端の俺の仕事を手伝ったり、皆に声をかけてくれたりしているあいつは、本当に皆からも慕われていて凄いと思う。

 だからか、あいつの言葉は俺の中に残るんだ……


 1人で悩んで、自分を責めて……

 愛依は今、重い物全部を1人で背負っている。

 あいつが言ってた状況だな……


「その愛依が傷つけたっていう子は、愛依の事を怒ってるんだよな?」

「……うん。怒ってるっていうか、置物が壊れた事に絶望しちゃって、心ここにあらずって感じだったの……」

「そうか……まぁ、何が言いたいのかは、俺にも分かんないんだけどな、ようはその子が怒ってるとか、話を聞いてくれないとかって決めつけて、許してもらう努力をしないっていうのは、違うと思うって事だ」


 愛依が傷つけたっていうその子に関しては、確かに許してはくれないかもしれない。

 愛依がいくら反省していたって、その子の怒りも大きいだろうから……

 それでも、愛依は許してもらう努力をしないといけないし、たとえ許してもらえなくても、それを受けとめて背負っていかないといけない。


 それは間違いなく愛依が背負わないといけない愛依の荷物だし、愛依が1人で持つべき物なんだろうけど、俺だって一緒に持つことは出来る。

 愛依が協力してほしいと頼めば、きっと来てくれる人は俺以外にもいるはずだ。


「それにな、その置物が何円の物なのかなんて分からねぇし、一生かけて払っても弁償できないような物かもしれねぇ。でも、そういう困った時に、協力してくれる人はいるんだ」

「協力してくれる人? 世の中お金が全てだよ。お金のない私達に協力してくれる人なんて……」

「ごめんな、愛依。それが間違ってたんだ……」

「え?」

「世の中はお金が全てじゃなかった」


 愛依は俺に似てる、俺の子だからか……

 いや、俺が洗脳のように、言い続けてきてしまったからだろう。


 "世の中金"


 ずっとそう思って、言い続けてきた。

 だから愛依もそう思ってる。


 でも、今ならあの女の言ってた言葉が分かる気がするんだ。


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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