現状報告
愛依視点です。
私は今、家にいる。
あの後どうやって帰ってきたのかは、あまり覚えていない。
あの置物……いくら位の置物だったんだろう……
うちのお金で弁償なんて出来る訳がない。
これはもう夜逃げするしか……
折角お父さんも新しい仕事が調子良かったのに、私は何て事を……
はぁ、またこれだ……
さっきから私は自分の事しか考えていない……
本当は一番の被害者であるプルルスの事を、心配していないといけないのに、自分の心配ばかり……
本当に最低……
「ただいま……っと、どうしたんだ?」
「あ、おとーさん……おかえり……」
お父さんが帰ってきた……
「ご飯……作ってなかった……」
「愛依は食べたのか?」
「あ……私はいいや……」
「いいわけあるか! ご飯は食べないとダメだ!」
「うん……」
お父さんと一緒に調理室へ行き、夜ご飯を作った。
一緒にご飯を作ったのなんて、いつぶりだろう……
「さ、食べるか」
「うん……」
「で、学校で何があったんだ?」
「……」
「言いにくいか?」
「……あの、あのね……学校で金持ちかと思った子、金持ちじゃなかったの……金持ちの家に住んでるだけだった……」
「それで? そんな事でそこまで落ち込んだりしないだろ?」
そんな事……?
まぁ、確かにそれぐらいの事では落ち込まないのが私だけど、お父さんがそんな事とか言うなんて……
金持ちじゃなかったのかぁ……って、いつものお父さんなら残念がるはずなのに……
「愛依?」
「あぁ……うん。それだけじゃなくてね……その、その子が住んでる金持ちの家に行ってきたんだけど……」
「お、おう……」
「その家の置物、壊しちゃったの……」
「っ! ……そうか」
お父さんは目を見開いて驚いたのに、無理に平然を装ってる……
金持ちの家の置物を壊したなんて、そりゃ驚くのも当然だよね……
「べ、弁償しろって言われたのか? いくらだ?」
「……言われてないの」
「あ?」
「私が泣いちゃって、話なんて出来なかったから……そのまま家に帰されたの。だから……明日、言われるかも……」
「それで学校に行きたくないのか?」
「う、うぅ……それだけじゃなくて……」
「どうした?」
私は弁償しろって言われるのが怖いの?
それは確かに怖い……
だって家じゃそんなお金は払えないから。
でもそれだけが怖い訳じゃない。
詩苑君にどんな顔をして会えばいいのかか分からない。
プルルスはどうしてるかなんて、そんな酷いことも聞ける訳がない。
何より、私はあの時嘘をついたんだ……
自分が助かるために、プルルスに責任を押し付けて、逃げようとした、最低の人間だったんだ。
それが分かったのが、怖い……
情けなさすぎて、辛いんだ……
「私は置物を壊したの! でもその責任を違う子に押し付けて逃げようとした! その子が、その置物を一番大切にしてる子だったのにっ! 私は、自分が助かるためにって、あの子を傷つけたの……」
「愛依?」
「お、お父さん……わっ、私、自分がっ本当に……本当に最低な人間だったって、分かっちゃって……」
話していると、また涙が溢れてきてしまった。
あれだけ泣いたのに、私の涙はまだ残っているなんて……
そんな私にお父さんは、
「こんなに優しくて、家族思いで頑張り屋の愛依が、最低な人間な訳がないだろっ! いくら自分でも、そんな事は言うもんじゃねぇ!」
と、抱き締めてくれた。
折角作った夜ご飯もほったらかして……
「お父さん……」
「大丈夫だ、大丈夫だぞ、愛依」
「でも……」
「いいか愛依。困った時はな、人に助けを求めればいいんだ。何でもかんでも1人で背負う必要なんてないんだ」
「……え?」
「重い荷物を1人で持つより、皆で持った方が運びやすいだろ?」
「うん……」
「そりゃ世の中には色んな人がいるからな、中には協力してくれない人もいるかもしれない。でもだからって、どうせ協力してくれないって決めつけて、お願いもしないっていうのは違うんだよ」
「……お父さん?」
「ってな、今日言われたんだ」
お父さんが急に何を言い出したのかと思ったら、今日言われた事だったのか。
でもそれが今、何か関係ある……?
「その愛依が傷つけたっていう子は、愛依の事を怒ってるんだよな?」
「……うん。怒ってるっていうか、置物が壊れた事に絶望しちゃって、心ここにあらずって感じだったの……」
「そうか……まぁ、何が言いたいのかは、俺にも分かんないんだけどな、ようはその子が怒ってるとか、話を聞いてくれないとかって決めつけて、許してもらう努力をしないっていうのは、違うと思うって事だ」
プルルスに許してもらう努力……
確かにしてない……
許してもらえないって決めつけてる……
「それにな、その置物が何円の物なのかなんて分からねぇし、一生かけて払っても弁償できないような物かもしれねぇ。でも、そういう困った時に、協力してくれる人はいるんだ」
「協力してくれる人? 世の中お金が全てだよ。お金のない私達に協力してくれる人なんて……」
「ごめんな、愛依。それが間違ってたんだ……」
「え?」
「世の中はお金が全てじゃなかった」
私の頭を撫でながら、とても落ち着いて話してくれているお父さん。
でも、お父さんは一体何を言ってるんだろう?
さっきから、意味が分からないよ……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)