虚偽
愛依視点です。
気が抜けてふらついてしまったら先で、飾ってあった置物を落として、壊してしまった。
そこにタイミングがいいのか悪いのか、現れた猫……
「今の何の音だ!?」
と、慌てて出てきた詩苑君に、私は、
「ね、猫がっ! 猫が台に飛んで、置物を落としたのっ!」
と、猫を犯人に仕立てあげてしまった……
「置物って、それ……」
詩苑君はかなり驚いたような、困った顔をしている……
「何の音ですかっ、まぁ!」
「どうしました……あっ!」
「これは……」
さっきすれ違ったメイドさん達がどんどんとやってくる。
かなりの大事だ……
やっぱり相当高級な置物だったんだろうか?
そんな凄い物を、私の家じゃ弁償は出来ない……
猫には本当に申し訳ないと思うけど、私の罪を被ってもらわないと……
猫の様子を見ると、何故かこの場から離れないで、割れた置物の方を見てる……
さっきみたいにぴょんぴょんと台の上を移動して、ここから離れてくれた方がいいのに、なんで離れてくれないの……?
「本当の事を言ってくれないか?」
「え?」
私が離れて欲しい思いで猫をみていると、詩苑君は私に本当の事を言えといった……
とても静かな、落ち着いた声で……
「本当の事って……わ、私は、嘘なんて……」
「プルルスは、こんなことしない」
何それ? 何で? 何で私が嘘を言ってるって思うの?
この猫はさっきから、台をぴょんぴょんと飛んでたじゃん。
あんな感じで置物を落としたんだって、何で思わないの?
何で猫を信じて、私が嘘だって決めつけるの?
「早瀬、ここに置いてあったその置物はな、プルルスの宝物だったんだよ」
詩苑君は困っていて苦しそうな、とても悲しい時のような顔をしている……
「たから……もの?」
「あぁ。お嬢様がプルルスのために買ってきたものなんだ。お嬢様は忙しくてあまり遊べないから、プルルスにとってこの置物は、お嬢様の代わりのような物だったんだよ」
「お嬢様の代わり……?」
「毎日これを見に来て、お昼寝する時もいつも囲うように寝て……プルルスにとって、本当に大切な宝物だったんだ」
「大切な宝物……」
さっきからずっと微動だにせず、ただ呆然と置物の破片を見ている猫……
この置物はこの猫にとって、とても大切な宝物だったんだ……
それなのに私は……
私は宝物を壊した上に、その罪を被せようとした……
最低な人間だ……
「ご、ごめっ、ごめんなさい……わっ、私が……私が落として壊したのっ! 本当に、本当にごめんなさぁぁ……」
「うん……早瀬。謝るのは、僕にじゃなくて、プルルスにだ」
「プルルスに……プルルス、あの、本当に、本当にごめんなさい……ごめんなさいっ!」
プルルスは目を見開いて、かたまっている……
私の言葉が届いている様子もない。
「破片が危ないので、すぐに片付けます」
「御足元、失礼しますね」
「プルルス様も、危ないですから。さぁ、こちらへ」
メイドさん達が割れた置物を回収しはじめて、プルルスはメイドさんに抱えられて連れていかれてしまった。
抱えられる時も、しっぽすらも動かなかったプルルス……
まだ宝物が壊れた現実が理解できていない、受け入れる事が出来ない、そんな感じだった……
「う、うっうゎ……わあぁぁぁぁああ!」
急に涙が込み上げて来て、泣いてしまった……
それもこんなに声をあげて……
一体なんで私は泣いているんだろう?
置物を壊してしまったから?
弁償しないといけないから?
詩苑君が私を信じてくれなかったから?
自分が、自分の罪を他の人に被せるような、最低な人間だということを、理解してしまったから……?
本当に泣きたくて、苦しいのはプルルスの方だ。
私には泣く資格なんてない……
それは分かっているはずなのに、どうしても涙を止めることは出来なかった……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)