資料室
愛依視点です。
猫と遊ぶのをあきらめて、詩苑君についていく。
3階の角の辺りについた時、
「ここが僕の部屋だ」
と、詩苑君が扉を開けてくれた。
私はついに、詩苑君の部屋に足を踏み入れた。
「おぉ~! ん?」
「これで、来て満足か?」
どんな部屋でももちろん褒めるつもりでいたし、褒め言葉も沢山用意していた。
でもこの部屋には、私が用意していた褒め言葉は全部使えそうにない。
まず褒めるつもりでいた広さ。
広い部屋で凄いって言おうと思っていたのに、この部屋はそんなに広いとは言えない。
いや、決して狭くはないんだけど、沢山の本棚や床に積まれた本があちこちに置いてあって、部屋は広いはずなのに狭く感じてしまうほどだ。
次に褒めるつもりでいたのは、部屋の窓から見える景色だ。
絶対に景色が綺麗な所を自分の部屋にしているだろうと思っていた。
なのに、窓から見えるのはただの山。
特に綺麗だと思う要素のないただの山……
まぁ、もしかしたら山が好きなのかもしれないけど、こんな山を部屋から見るよりは、さっきの廊下の窓から見えていた景色の方が、まだ良かったと思う。
少しだけど、綺麗なお花が沢山の、庭園のような場所とか見えていたし……
それと、部屋に飾ってあるものに対して、何かしら褒めようと思っていた。
置物とかが何かあればと考えていたのに、何一つとして置物が置いてない。
置物どころか、家具もほとんど置いてない。
布団がふかふかそうなベッドが1つ置いてあるけど、その上にも本が積まれている……
勉強机と思われる物にも、大量に本が積んである……
クローゼットと思われる場所の手前だけは、唯一本が置いてないけど、他の場所は本当に本だらけだ。
これだけ本があちこちに積んであったら、お世辞にも部屋が綺麗とは言えないし、綺麗というのが嫌みみたいになってしまう……
本の事を褒めようにも、何の本かも分からないのに下手な事は言えないし……ってこれ、全部が本かと思ったら、半分くらいはノートだ。
いつも詩苑君が書いてるあれじゃん……
「おい、どうした? 何か言えよ」
「あ、あー、本がいっぱいで凄いね」
「そうか。で、来て満足したのか? 来たかったんだろ?」
「う、うん……」
「なら、もう帰れ。僕は忙しいんだ」
さっきはちょっと優しいと思ったのに、詩苑君はまた冷たくなってしまった……
私を帰らせたくて仕方ないみたいだ。
……あれ? これってもしかして、私を早く追い返すために、本当は詩苑君の部屋じゃない場所に案内したんじゃ……?
だってこんな場所、どう考えたって物置だもん!
「ねぇ、詩苑君。ここ、本当は何の部屋なの? 詩苑君の資料室?」
「はぁ? 僕の部屋だって」
「え、でも……さすがにさ……」
「ったく、ほら、これで分かったか? ここが僕の部屋だって事」
詩苑君はそう言って、クローゼットを開けて見せてくれた。
中には詩苑君が今までに学校に来てきた事のある服が入っていた……
「え? じゃあ、本当に、ここが詩苑君の部屋なの?」
「そうだよ。まぁ今はちょっと散らかってるけど」
「いや、これはちょっとってレベルじゃないでしょ! すぐに片付けた方がいいよ! 私も手伝うから!」
私が床に積んであった本を触ろうとすると、
「やめろっ! 勝手に触るな! どこに置いたか分からなくなるだろ!」
と、詩苑君に怒られた。
「もう十分に分からなくなってるじゃん!」
「なってない! これは全部、あとで片付ける予定なんだよ!」
うわっ! 出たよ!
あとでとか、予定とか、片付けない人の決まり文句じゃん!
本当こういう人って、人に片付けさせて当たり前だと思ってる奴ばっかりだ。
片付けてくれる人に感謝もしない。
まぁ、金持ちはやってもらって当然なんだろうね、あー、腹立つ!
「そういう事を言ってる人は、絶対に片付けをしない人なんだよ!」
「するさ! "今の"が終わったら、全部片付けるんだよ!」
「"今の"って何? 何が終わったら片付けるつもりなの?」
「は? だから、今考えてるこの、今度"お嬢様にお出しする予定のデザート"だよ!」
「……は?」
「ん? 何驚いてるんだ?」
苛立ってた事もあって、少し詩苑君と言い合いになってしまった。
そこで詩苑君が言った言葉……
"お嬢様"? 何それ?
「お嬢様……? お嬢様って何?」
「は? お嬢様って言ったら、桜野奏海様に決まってるだろ?」
桜野奏海……?
それって、超大金持ちの人の名前だよね?
この私でも知ってるくらい、有名な……
でもそんな人……今、何の関係あるの?
「な、何で、桜野奏海様が……?」
「お前、何言ってんだ? 高坂達から僕の事を聞いたんじゃないのか?」
「え、何を?」
「僕はこの、桜野家で働いてる使用人の息子だぞ?」
え……えっ、え?
この桜野家? ここ、桜野家なの!?
しかも、使用人の息子?
は? 詩苑君のお父さんが、桜野家の使用人って事?
まだ混乱中で、全く状況が理解できていない私に、
「僕の父さんは、桜野家の料理長だ!」
と、詩苑君はとても誇らしげに言った。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)