到着
愛依視点です。
車内では日下部さんがたくさん話しかけてくれた。
もともと緊張とかはそんなにしない方だけど、日下部さんは気さくな人だからか、とても話しやすかった。
詩苑君は車内でずっと今日の宿題をやっている。
でも日下部さんがたまに話を振るとちゃんと返事をするし、いつものノートを書いている時の不機嫌な感じもない。
宿題のノートの文字はいつものノートとは全く違って、御世辞でも何でもなく、本当に格好いい字で読みやすかった。
「お前も宿題終わらせといたらどうだ? まだ少し距離があるぞ」
「そうだね。気分が悪くならないのなら、終わらせておくといいよ」
「ありがとうございます。でも宿題はもう終わってますから」
「そうなのか?」
「うん。学校で出来る限りは終わらせてるの。その方が家でゆっくりできるからね」
ゆっくりできるっていうか、ご飯作ったりとかしないといけないから、宿題なんて家でやってる時間があまりないだけだねどね。
まぁ今の家は、お風呂を準備しなくてよくなった分、今までよりは大分楽になったと思うけど……
「ふーん、お前も効率重視なんだな」
「え? うん、そうだね」
意外にも詩苑君も結構話しかけてくれる。
学校での詩苑君とは、本当に別人みたいだ。
喋っていたせいもあって、どれくらい走ったのかは分からないけど、気が付くと回りに建物はほぼなくなっていた。
外の景色を見てみると、今は森の中のような場所を走っている。
森のような場所と言っても、周りに生えている木は綺麗に並んでいて、自然に生えたきた感じはしない。
それに車が全く揺れないから、多分道もちゃんと整備されている場所なんだろう。
これは、どう考えても森じゃなくて、金持ちの庭だ……
ここはもう、詩苑君の家なんだろうか?
こんなに広い森みたいな庭があるって事は、詩苑君は私の想像の遥か上をいく金持ちなのかもしれないな……
ん? 今なんか、木の隙間からお屋敷が見えた。
すごく立派なお屋敷だ。
あれが詩苑君の家かな……?
「わぁ、あのお家。凄い綺麗なお家だね」
「そうだな」
家を褒めても詩苑君の表情は特に変わらない。
何を当たり前の事を言っているんだ、こいつは……とでも言いたそうな感じだ。
もっと、ここはこうだとか、あそこはああだとか自慢してくれたら褒めやすいのに……
でも今からあそこへ行くのかと思うと、ドキドキする……
それからまた少し走ると、ついにお屋敷が近づいてきた。
やっと、ついに! と、思っていると、何故かお屋敷を通りすぎていく……
あぁ、駐車場へ行くのか……って、いや、そんな訳ないよね?
駐車する前に、家の前で詩苑君が降りた方がいいに決まってる。
それなのに、なんでお屋敷の前で止まらないんだろう?
「さて、着いたよ」
訳が分からずに悩んでいると、車はさっきのお屋敷よりも少し小さい建物の近くで止まった。
「ありがとうございました」
「あ、ありがとうございます?」
詩苑君が降りたので、私も続いて降りる。
今度の日下部さんはドアも開けてくれなかったし、それどころか車から降りる事もなかった。
詩苑君が自分でドアを開けて、自分で閉めていた……
「早瀬さんの帰りは、どれくらいかな?」
「え?」
日下部さんに、私の帰りについて聞かれた。
急でビックリしちゃったけど、確かに帰りも送ってもらわないと帰れないんだから、聞かれて当たり前か。
でもなんて言えばいいんだろう?
ご飯の時間までいたいけど、そういう訳にもいかないし……
「いいですよ、日下部さん。帰りは歩かせれば」
「こらこら、友達になんて事を言うんだ」
「はぁ、すみません……あの、帰りはちょっと、こいつ次第というか……」
「んー、そうか。じゃあまた呼んでくれればいいよ」
「本当にすみません。ありがとうございます」
詩苑君の私に対する態度は一旦置いといて、日下部さんに対する態度に違和感しかない。
何で詩苑君がこんな下からお願いしてる感じなんだろう?
でも私が帰る時間に合わせてくれるって事は、やっぱり詩苑君の為に動く運転手さんなんだよね?
「おい、僕の部屋に来るんだろ? こっちだ」
「え? うん……」
詩苑君はお屋敷の方じゃなくて、近くの建物の方へ入っていく。
この建物もその辺の普通の家とかと比べたら立派な建物だけど、あのお屋敷と比べちゃうと、大したことないように思えてしまう。
でも詩苑君は入って行っちゃったし、私もついて行こう……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)