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スノーフレーク  作者: 猫人鳥
episode5 貧乏人の虚言編
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目まぐるしい1日

愛依視点です。

 少し考え事をしていたら、思ったより長湯をしてしまった。

 お父さんももう帰って来てるかもしれない!


 急いで部屋へ戻ると、


「おう、愛依。ただいま」


と、丁度お父さんが帰って来た所だった。


「お父さん! おかえりなさーい」


 2人で一緒に部屋へ入り、少し冷めてしまった卵とモヤシ炒めをよそう。


「あ、お父さん。そこに野菜ジュースあるから飲んでね」

「ん? どうしたんだ?」

「さっき綾瀬さんにもらったの。ほら、前に鶏肉くれた人」

「あぁ、愛依のは?」

「私はもらってすぐに飲んだから」

「2本くれたのか?」

「そうそう。いい人だよねー、綾瀬さん」


 お父さんは私の方を見ていて、なかなか野菜ジュースを飲んでくれない。


「愛依……」

「大丈夫だよ、分かってるって! 今度また綾瀬さんにちゃんとお礼言っておくから」

「いや、そうじゃなくて……」

「ほらほら、食べるよ」


 こういう時は押し通す!

 これが一番だ。


「ほら、今日は卵も買えたんだよ!」

「特売か?」

「うん! 本当は野菜とかも色々買えたから、今日の夜ご飯はもっと豪華にする予定だったんだけど、綾瀬さんに会ったから」

「ん? 綾瀬さんに会うと変わるのか?」

「え? そりゃあ質素にしてた方が、色々と貰えるって……お父さんが前に言ってたんだよ?」

「あ、あぁ、そうだったな」


 なんだろう?

 お父さんは何か悩んでいるような感じだ。


 私が心配していると、


「愛依。実はな、俺も今日野菜ジュースをもらったんだよ。でも1本だったから飲んじまったんだ。だからこれを半分づつにすれば、俺も愛依も1本半づつで同じだろ?」


と、お父さんは言ってきた。


「……もう」


 何が野菜ジュースをもらっただよ。

 嘘ついてるのがバレバレ。

 まぁ、お互い様か。

 お父さんは、どうやって私にも野菜ジュースを飲ませるかを考えてくれていたみたいだ。

 今日の所は私も素直にやられておこう。


「ほら、愛依のコップ」

「うん。ありがとう、お父さん」


 お父さんが野菜ジュースを注いでくれるので、私は自分のコップを手渡した。

 でもその時、腕の擦り傷が少し見えてしまった。


「おい愛依! お前怪我してるじゃないか!」

「あぁ、ちょっとコケてね。大丈夫だよ、これくらい」

「痛くないか? ちゃんと消毒はしたのか?」

「大丈夫だって! 全然痛くないから」

「無理してないか?」

「うん!」


 あーあ、こうなるから怪我は隠しときたかったのに。

 本当にうかつだったな。

 私はちゃんと大丈夫だって言ったのに、まだ何かを悩んでる様子のお父さん。


「愛依……その、そんなに頑張らなくてもいいぞ?」

「え?」

「いや、媚を売ったり、特売行ったり、愛依はちょっと頑張り過ぎじゃないかと思ってな……そんなに無理に媚びなくてもいいんだぞ?」


 今度は何を言い出すかと思えば、頑張らなくていい?

 しかも、特売はまだしも媚を売らなくていいって……


「ちょっとお父さん大丈夫? どこか悪いんじゃない?」


 お父さんさんからそんな言葉が出るなんて思ってもなかった。

 そりゃもちろん私を本当に大切にしてくれるから、私の事を思って色々と言ってくれるけど、それでもいつもお金の事をいうお父さんから、媚を売らなくていいなんて言われるとは……

 お父さんは"世の中金"っていつも言ってるのに……


「俺は大丈夫だよ」

「いや、絶対におかしいよ。媚びなくていいなんて、お父さんらしくない。私達は金がないんだから、金持ちに媚びてなんぼでしょ?」

「そ、そうなんだけどな……」

「何かあったの?」


 私が聞くと、お父さんは少し悩んでから、


「今日な、現場にお偉いさんが来たんだよ」


と、言った。

 媚びを売らなくていいって話に繋がるのかな?

 でもお偉いさんが来たんなら、それこそ媚びなきゃじゃん。


「そのお偉いさんをちゃんと褒めれた? 褒め称えれた?」

「いや、なんか、ちょっと変な奴でな……」

「変な奴?」

「まだ若いんだが、皆からもかなり慕われてて、嫌味な感じもしないお偉いさんなんだよ」

「へぇー、でも何が変なの?」

「そいつはな、昔上司と喧嘩して仕事をクビになってから、今の仕事に就いたらしいんだ。お偉いさんと喧嘩してからお偉いさんになったんだぞ? 変だろ?」

「ん? んー、そうだね」


 何かちょっとよく分かんないや。

 ようは、お偉いさんに媚びらずにのしあがる事が出来たって事でしょ?

 確かに珍しいかもしれないけど、別に変って言うほどじゃないよね?


「何か媚びても意味がなさそうというか……だから愛依、お前もあんまり頑張って媚びを売らんでもいいぞ」


 そういう事か。

 お父さんは媚びる事が当然だと思っていたから、媚びても意味がなさそうな奴の登場にビックリしたんだね。

 でも世の中広いんだから、そんな奴もたまにはいるよ。

 ハズレを引いちゃったんだね、お父さんは。


「何言ってるのお父さん。媚びといた方がいいって。まぁそりゃたまにはそういう変な奴もいるかもしれないけど、世の中全般で考えたら、媚びといた方がいいに決まってるんだから」

「そ、そうだな……うん、やっぱりそうだよな。明日もあのお偉いさん来るらしいから、俺も頑張ってみるさ」

「私も頑張るよ」


 お父さんは少し様子がおかしくて、悩んでいたみたいだけど、ちゃんと解決出来た。

 いつものお父さんに戻ってきた。

 よかった、よかった。

 これでやっと落ち着けるってもんだ。


 はぁ、それにしても今日は急がしかったな……

 詩苑君にアピールもしたし、ガキ大将を追い払ったし、高坂さん達も上手くかわせた。

 その上スーパーの特売も行って、綾瀬さんにも会って、お父さんの悩み相談。


 色んな事があって少し頭がごちゃごちゃになりかけたけど、私は大丈夫……

 明日は、明日こそは、詩苑君に私が唯一の仲間だと分かってもらえるといいな……


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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