着眼点
愛依視点です。
今日の私は本当に忙しかった。
移動教室の時には詩苑君と共に歩き、
「移動教室って、面倒だよね」
「……」
「荷物持とうか?」
「……」
と無視され、休憩時間は、
「詩苑君は何が好きなの?」
「……」
「折角の休み時間だよ、勉強もほどほどにしないと疲れちゃうよ」
「……」
「さぁ、ノートを書くのを一旦止めよう! もっと遠くの景色を見た方が……」
「いい加減にしてくれっ! 本当にうるさいんだよ!」
と、突き放された。
それでもめげずに放課後、詩苑君と一緒に帰ろうと声をかけると、やっぱり無視されてしまった。
勝手に後ろをついていくと、詩苑君はまだ帰らないようで、図書室に入っていった。
図書室の席に座って、本を読みながらノートを書いている詩苑君。
周りの席には誰も座らない。
図書室は同学年だけじゃなくて、他の学年の人もたくさんいる。
それでも皆が詩苑君の周りを避けているという事は、詩苑君は学校中で相当に有名なんだろう。
態度の悪い、嫌な金持ちとして……
そりゃあれだけ普段から孤立してたら、急に現れた私を味方だと思うのには時間がかかるか……
いや、普段から孤立してるからこそ、私みたいに構ってくる奴は珍しいはず……
どれくらいの関わり方が丁度いいのかはまだ分かんないけど、あまり一気に距離を縮めようとするのは多分無理だし……
とりあえず、今日はこれ以上はいかない方がいいかな?
今日はずっと詩苑君に話しかけに行っていたからか、高坂さんとは喋らなかったな……
なんか高坂さんも詩苑君の周りには来ないようにしていたし……
まぁ、全然いいけどね!
高坂さんより詩苑君の方が金持ちだろうし!
そんな事も考えながらシェアハウス(仮)に帰ってきた。
今日も昨日と同じで、一番にお風呂に入りにいく。
昨日とは違って、今日は誰にも会わなかった……
お父さんも言ってたけど、確かに広いお風呂を貸し切りにしているみたいで、気分はよかった。
お風呂の後はご飯を作るために調理室へ行く。
綾瀬さんは……残念ながらいないな。
「あら、こんばんわ」
「こんばんわ!」
また初めて見る人がいた。
優しそうなおばさんだ。
「私、新しくここに住む事になった早瀬愛依です。よろしくお願いします」
「昨日娘から聞いたわ」
「え?」
「うちの娘に、昨日お風呂で会ったでしょ?」
「あぁ、あのお姉さんですか?」
「ごめんなさいね、無愛想だったでしょ?」
「いえ、大丈夫です!」
「もしよかったら、仲良くしてあげてくれるかしら?」
「もちろんです!」
「ありがとう」
特に何かをくれたりはしなかったけど、おばさんはたくさん話をしてくれた。
娘さんがあんなに無口なのに対して、とても賑やかなおばさんだった。
やっぱり変わった人が多いな……
料理を部屋まで運び、お皿によそっていると、
「ただいま、愛依」
と、今日もグッドタイミングでお父さんが帰ってきた。
「お帰り! お父さん!」
「愛依、今日はな、お父さんも職場で食べ物もらったんだよ」
「え? なになにー?」
「ほらっ! 駅前のドーナツだ!」
「えぇーっ!? 凄い! 凄いね、お父さん!」
「あぁ、差し入れだってもらったんだ」
本当に凄い!
駅前のドーナツなんて、初めてみた!
これは高坂さんに話したら、盛り上がれるかな?
……いや、高坂さんはターゲットじゃないんだ。
別に盛り上がる必要なんてないか……
「愛依、どうした?」
「あ、ううん。なんでもないよ! そういえばお父さん! 私、金持ち見つけたよ!」
「お、そうか! どんな感じの奴なんだ?」
「なんか、自分以外の人を見下してる感じの男の子。プライドも高そうなの」
「そうか、媚売っとくんだぞ」
「うん!」
詩苑君とはまだ全然仲良くなれてはいないけど、まだまだ初日なんだからそれも仕方ない事だ。
でも詩苑君って、凄い無視してくるし、私達みたいな金持ちじゃない人を見下してる感じはあるのに、子分にしようとはしてないみたいだ。
荷物持とうかって聞いたのに、持たせようともしなかったし……
あれかな……
親が、"関わる人間は選びなさい"とか、そういう事をいうタイプなのかな?
でもそれだったらなおさらに、詩苑君は友達を欲しているはず。
だから私の行動は今のままで間違ってない……よね?
「お父さん、金持ちは褒めまくればいいんだよね!」
「おう、そうだ! でもあんまり無理はするんじゃねぇーぞ。本当に嫌な奴もいるからな。褒めどころのねぇ奴とか」
「うんっ! 大丈夫だよ! 字とか褒めといた」
「流石は愛依! いい着眼点だ!」
「でしょー!」
金持ちは見つかったし、ドーナツも食べれた。
今日は忙しくて大変な日だったけど、結果的にはいい日だったかな!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)