標的
愛依視点です。
ご飯を作り終えたので、台車にのせて、エレベーターを使って部屋まで持っていく。
部屋の前に台車は置いて、持ってきたご飯やお皿を部屋に入れ、お皿によそって……
「ただいま……」
「あ、お父さんっ! お帰りなさい!」
よそい終わったくらいのタイミングで、お父さんが帰って来た。
お父さんの帰宅と夜ご飯の時間がピッタリだ!
「お父さんご飯出来てるよ!」
「おぉ、ありがとうな。ん? これは鶏肉か?」
「うん。さっき調理室で綾瀬さんって人に会ってね、お近づきのしるしにってくれたの!」
「そりゃあ良かったな。また会ったらちゃんとお礼を言うんだぞ。あと、美味しかったっていう味の感想と……」
「分かってるよ。愛想よくして、仲良くなるんでしょ?」
「そうだ」
もしかしたらまた何かくれるかもしれないし、綾瀬さんとは絶対に仲良くなっておかないと!
「おいおい、折角の鶏肉が愛依の皿に全然入ってねぇぞ」
「いいの、いいの。お父さんがたくさん食べて」
「俺は大丈夫だから。気にしなくていいんだぞ。ほら」
「違うの、私は味見してた時に食べたから!」
「お前はそうやって……」
「ほんとにほんとだから! ねっ、お父さんが食べて! 新しい仕事、大変でしょ?」
「愛依は育ち盛りなんだから、たくさん食べないと……」
「お父さん? そんなに私が作った料理、食べたくないの? 一生懸命作ったんだよ? そりゃあ、味は微妙かもしれないけど、それでも頑張って……作ったのにぃ……うっ、お父さんが……食べてっ、くれな……」
私が、目を擦りながらそう言うと、
「いや、愛依の料理は最高だ! ほら、ほらな! 完食だから!」
と、お父さんは凄い勢いで完食してくれた。
「美味しかった?」
「あぁ。本当に、ありがとうな、愛依」
「うんっ!」
お父さんが沢山食べてくれて良かった。
あと何回位この作戦使えるかな?
小学生までが限界だよね……
「じゃあ俺は風呂に行ってくるから!」
「あ、うん。そういえばさっき、お風呂で他の住人の人と会ったよ」
「そうか。ちゃんと仲良くなれたか?」
「ううん。でもちゃんと挨拶とかはしたから。お父さんもご近所付き合いはしっかりね」
「おう。じゃ、行ってくる」
お父さんがお風呂にいったので、その間にお皿とかを片付けておこう。
毎回調理室まで片付けに行くのは面倒だけど、こういうのをみんなでシェアしてるから、この家は安いんだろう……多分。
お皿をある程度部屋でためてから洗おうかとも思ったけど、あの狭い部屋に皿がたまっていくのは困る。
一応調理室の横に食堂があるし、そっちを使って食べてもいいらしいけど、仕事で疲れてるお父さんに食堂まで来てもらうのは嫌だからな……
ちょっと面倒だけど、毎回片付けておくのが一番だ。
お皿を片付け終わって、部屋に戻る。
そんなに遠い距離でもないし、台車とか、エレベーターも使えるので、慣れてしまえばそんなに大変じゃないだろう。
総合的に考えてもいい家だ。
部屋に戻ってきて今日の宿題をしていると、お父さんがお風呂から帰ってきた。
「おー、片付けもありがとうな」
「うん。お風呂どうだった?」
「特に誰にも会わなかったな。あの広い風呂が貸し切りだと思うと、ちょっと気分がいいな」
「そうだね」
お父さんは宿題をしてる私の邪魔にならないようにと、ベッドの方に行ってくれた。
けど、すぐにイビキをかきはじめて寝てしまった……
よっぽど疲れていたのかもしれない。
いつもなら私の学校の話とか聞いてくれるのに……
相当大変な仕事をしてるのかな?
ちょっと心配だな……
お父さんに布団をかけ直して、私は宿題の続きをする。
それにしても、今日は質問攻めだらけで、あまり金持ちが見つけられなかったな……
まぁ、初日からそんなに上手くはいかないか。
それにあのクラス、何か違和感があったんだよね……
今までの学校とは何か違う雰囲気というか……
何よりリーダー的な子が見当たらなかったのが不思議だ。
本当に皆にリーダーと思われているかはさておき、大体どこのクラスにも存在すると思うんだけどな……クラスの代表を気取ってる奴が。
でもあのクラスにはいなかった気がする……
授業中も率先して手をあげる子ばかりで、リーダーを気取ろうとしている優等生みたいなのもいなかった。
私が気づかなかっただけかもしれないけど……
それと気になった子が1人いた……
教室の一番前の窓側の席の男の子。
授業中も休み時間も、ずっとノートを書いていた。
私という転校生が来ているにも関わらず、一切の興味がないというあの感じ……
それにあの男の子には誰も話しかけてなかった。
休み時間もずっと1人でノートを書いていたし、なんならあの子の回りの人は、あえて席を外していたようにも感じた。
あのクラスでいじめられている子なのかとも思ったけど、そういう感じもしない。
よく分かんない子だったな……
まぁでも、そんなクラスの事情より、こっちの家庭の事情の方が優先だ。
金持ちを探さない事には始まらない。
とりあえず高坂さんは家が3階建てみたいだし、多分金持ちだ。
このまま仲良くなれるといいんだけど……
でも高坂さんの家は、両親共働きでいつも家に1人って言ってた。
それだと私の理想とする、夜ご飯をごちそうになる計画は難しくなってしまう……
家に親がいないんじゃ、夜ご飯も用意してもらえないから。
親の帰ってくる時間にもよるけど、あまり遅すぎると親が来る前に帰らさせられるし、夜ご飯をもらえる時間まで遊ぶのはちょっと無理がある……
まぁ、高坂さん以外にも金持ちはいるだろうし、明日は今日ほどは質問攻めもされないはずだ。
もっとよく観察して、仲良くなるべき金持ちを見つけないと!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)