10 1-10 取り引き
赤い羊視点です。
依頼人に挨拶をしてから本題へ。
「前金をお支払い頂けないとのことですが、それではこちらも貴方を信用する事ができません。ですので貴方の前にいる男に、前金のお支払いをお願い致します」
「でも100万も関係無い奴に渡して、それで結局アイツを消してもらえないんじゃ何の意味もないわ。このお金、このままコイツが受け取って終わりなのでしょう? あなたに前金が渡っていないから依頼を受けない、なんていうのは御免よ」
「その意見も分からなくはありませんが……」
「関係のないバカとは関わりたくないの。あなたが直接会いに来られないというのなら、依頼達成で500万でも構わないから、前金は無しにしてくれないかしら?」
お金を渡したくないと言うよりは、確実に聖人ちゃんを消して欲しいという様子だな。
「なるほど、では達成後に500万でも構いません。しかしこちらとしましても、達成後にお金が無いから払えない、では困ります。失礼ながら葵さん? 貴方はまだ高校生。どこにそのような大金が?」
「あら? 3日もかけて私の事を調べたんじゃないの? 私、親いないのよ。そしてお金がかかるような趣味も無いわ」
調査結果、依頼人はスノーフレークのバイトではそんなに儲けておらず、帰りが遅いのも夜に町を徘徊しているからだった。
では生活費等は何処にあるのかと調べたところ、依頼人の親が子供達の将来の為にと貯めていた金や、事故の保険金等を利用しているのだと分かった。
「親御さんの残してくれたお金があると? 一応調べはしましたが、それはこんな事に使っていいお金ではないでしょうに?」
「これはお父さんとお母さんが残してくれた、私達が幸せになるための軍資金なのよ。だから使い方は間違っていないわ。どう? これで支払える事は証明されたでしょ?」
私達というのは、モテ男君の事も含んでいるのだろう。
まぁ、仕事後に依頼人達の関係がどうなろうと、俺の知った事ではないが。
「分かりました、お受け致します」
「ありがとう」
どちらかというとクール系の依頼人は、笑顔でありがとうと言った。
その"ありがとう"という言葉は、本当に心の底から喜んでいるようだった。
この子は聖人ちゃんが消えれば、自分が幸せになれると信じて疑わないんだな……
「この携帯は貴方との連絡用になります。盗聴器と発信器が内蔵されておりますが、可能な限り持っていて頂けると助かります」
「分かったわ」
「ではとりあえず、貴方の前にいる男に一度変わっていただけますか?」
諸々の可能性の為に使った手下だったが、コイツ……どうしようか?
まぁ、とりあえずまだストックとしておくか。
「お、おい……約束の金はどうなるんだ?」
「私が貴方の家に送りますよ。この携帯は彼女に差し上げて下さい。それと、貴方が少しでも私の邪魔をするようなことがあれば、貴方にも消えていただきます。ご理解を」
「分かってるさ、俺もまだ死にたくはないんでな。金さえ貰えればいいんだ……じゃ、じゃあな」
そしてそのまま電話は切れた。
盗聴器を通して手下が携帯を依頼人に渡し、彼女が店を出たのも分かった。
さて、依頼人は女の子なんだし、それなりにデリカシーのある盗聴を心掛けるとしよう。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)