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夜間勤務  作者: CGF
6/9

シフト5


消灯時間になり、館内照明を落とす。


と、云っても入院患者達がすぐに眠る訳でも無い。皆一日の大半をベッドで横になって過ごしているのだから、なかなか寝付けないのだろう。




「さて、と。じゃあ館内を見回ってきます」


「いってらっしゃ~い」


「よろしくね」



婦長と葉子さんに声を掛け、私は廊下へ出た。


照明の消えた廊下は暗く、窓の外、街灯からの明かりがうっすらと射し込んでいて、壁の輪郭をぼんやりと照らしている。



「あれ?齋藤さん?」



病室の中、齋藤のお婆ちゃんが車椅子に座って俯いていた。


自力でベッドに上がれない訳では無いはずなのだけど。



「消灯時間ですからお休みしましょうね。さ、立って」



私は齋藤さんが立つのを手伝いベッドに寝かし付けた。



「……むい。……むい」


「え?」



お婆ちゃんはまたぶつぶつと呟いている。


私は耳を寄せて聞き取ろうとした。






「……けむい」






けむい?


何がけむいのだろう?


私は部屋の空気を嗅いでみた……特に臭いは感じられない。



「齋藤さん、何も臭わないわよ?」


「……」



齋藤のお婆ちゃんは天井を見詰め、それきり口を閉じた。



(お歳だから……)



少し呆けが始まっているのかもしれない。入院という環境の変化は年輩者には精神的に負担が大きいと聞く。



「じゃ……お休みなさい」



ベッドの齋藤さんにお休みの挨拶を告げ、部屋を後にする。


齋藤さんは応えず、虚空を凝視し続けていた。






エレベーターを使わず階段で二階へ上がる。


寝ている患者さん達を起こさない様に、足音を忍ばせて廊下を進んでいると、向こうから明かりが近付いて来た。




(……誰だろう?)



明かりが近寄って来ると同時に、人の声が聴こえてくる。



「やっ■怖■ぇな、さすが■■■■の心■■ポット」


「■■?しかし■■火事の■っ■■って■■■なん■■」




……なんだろう?近付いて来る声は妙にくぐもっていて、よく聞きとれない。


ずいぶん大きい声なのに……



(いったい誰?患者さんじゃないみたい)



勝手に入って来たのだろうか?どんな理由であれ常識知らずな人達だ。


あんなに大声を出されていては患者さん達の安眠妨害だ。注意しないと。





「すみません、どちら様でしょうか?面会時間は過ぎていますが」



近寄って来た二人の男性を呼び止める為、少しキツい口調で話し掛けた。



「あの!すみませんが……」



聞こえていないはずが無い。だけど二人はこちらを無視して喋っている。



「ちょっと!いい加減に」





「……ん?■■■聴こ■■■?」


「いや、でも■■■変な■■■だ」



何故だろう、彼等の声は雑音が入ったラジオの様に上手く聞き取れなかった。


彼等は相変わらずこちらを無視し続け、そのまま私にぶつかりそうになる。



その時。



「……ぅ、うわ■■■!?」


「ひ!ば、■■■■!?」



二人は顔をひきつらせ、きびすを返してもと来た方へ走って行った。







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