シフト4
振り向くと葉子さんが立っていた。
「あれ?葉子さん何処に行ってたんです?」
「え?何処にも行ってないわよ私」
「ぇえ?」
葉子さんはセンターにずっと居たと云う。
それより私が戻ってきたのに気付かなかった事を不思議がっていた。
さほど広くも無いセンター、陰になる場所も無い。お互い気付かないなんて。
「変な事もあるもんね~」
「そう云えば、婦長さんは?」
「……エッちゃん。ずっとそこに居るじゃない、ほら」
葉子さんの指差す方、婦長の席に彼女は居た。
(え!?……だって)
打ち合わせの後、婦長は何処かへ行って……
……ずっと居た?
「最近変な事ばっかりよね?患者さんや瀬川さんはコッチ無視するし、目の前に居るのに気付かなかったりするし」
私も疲れてるのかしらね、そう葉子さんは呟く。
彼女が喋っている間、私は婦長を見ていた。
婦長は……
……新聞を机に広げ、一点を凝視している様だった。
私達の会話も聞こえていない様子で読んでいる。
ずっと……新聞をめくろうともせず、一つの記事だけを注目しているらしい。
私は婦長の傍に寄って新聞を覗いてみた。
【連続不審火 一週間で市内五件】
この近くで最近頻発する火事の話だった。
「……怖いですねぇ。ウチも気を付けないと」
私同様婦長の脇から記事を読んだ葉子さんが声を出す。
その声に婦長は我に返った様だった。
「あ……あら、貴女達何処に行ってたの?」
「いや、私はずっと居ましたよ」
「私は結構前に見回りから戻りましたけど」
三人が三人ともお互いの顔を見渡し、しばし無言になる。そこから乾いた笑いが誰からともなく始まった。
「いやぁねぇ……皆ボケるには早いわよ」
「ホント」
私もまた二人につられて笑った。笑ったが……
……なんだか妙な気分だった。
私がセンターへ戻った時、確かに誰も居なかった。
二人ともここに居たと云う。
既視感。
最近、こんな事が増えている気がする。
他にも、何か思い出しそうで思い出せなかったり。
何か気付きそうで、結局解らなかったり。
奥歯にものが挟まった様な、もどかしさを時折感じるのだ。