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二話

「いくら大臣の推薦状があろうとも最低限の資格を有していない者を雇う余裕などウチにはありませんよ。さあ、お引き取りを」


ゴウウウウン


商業ギルドと書かれた立派な看板のある建物。

その重厚そうな扉から追い立てられるように外に出てきたのは遼一とカレンの二人だった。


「信じられん!仮にも王宮からの推薦状を持っての訪問だぞ!それが何だこの扱いは!」


「仕方ないだろ。スキル持ちでないとギルドの戦力にならないと言われれば納得するしかないんだから」


あれから、カレンの付き添いで様々なギルドを回っては面談を受けた遼一だったが、返ってくる返事は最初に訪れた冒険者ギルドと似たり寄ったりの取り付く島もないほどの拒絶だけだった。


「ぐぬぬぬぬ、こうなれば次のギルドではこの剣にかけてでも必ずや……!」


「オイオイオイ!物騒過ぎるだろ!ていうかこんな道の真ん中で抜くな!」


これまで拒否されてきたのは実は俺じゃなくてこの暴力騎士見習いが原因じゃないのか?


そんな疑惑を思い浮かべながら、我を忘れて路上で抜刀しようとするカレンを必死で抑える遼一。

本来怒る権利を持つ遼一から窘められたとあって、ハッと我に返るカレン。


「こ、こほん……すまない、取り乱した。リョウイチに免じてあの無礼な奴らは許してやるとするか。それにしても……」


「ん、なんだよ」


「いや、私が言うのもなんだが、よくリョウイチは平気だなと思ってな。怒り出すかどうかはともかく、普通はあれだけ拒まれれば少しは気分が落ち込むものではないか?」


「ああ、そういうことか。まあ、経験済みって言うか、慣れてるからな、霊能力者にとってこんなふうに軒並み断られるっていうのは」


そう、幼いころから見えてはいけないものが見えていた遼一にとって、奇異な目で見られたり拒絶されたりする状況というのはむしろ日常茶飯事だった。

今でこそそれなりに折り合いをつけてはいるものの、子供時代には無理やり普通の人間扱いを夢見て現実と理想の狭間で苦しんだりもした。


「あの人たちはまだ良い方さ。なにしろ俺の目を見てちゃんと話を聞いてくれるんだからな」


「むう、なんだかよく分からん話だが、リョウイチが納得しているのに私だけが怒っているわけにもいかないか」


「そういうことだ。俺のために怒ってくれるのは嬉しいけど、終わったことをいつまでも引きずっていてもしょうがないだろ?」


遼一の言葉に若干不満げな顔を見せつつも不承不承頷くカレン。

だが、懐から取り出した紙片に目を落とすと、再び難しい顔に逆戻りしてしまった。


「よし、そうと決まればさっそく次の……」


「どうしたんだ?早く次のギルドに行かないと、そろそろ日が暮れてきちまうぞ」


大分傾いた太陽の位置を確認しながら急かす遼一だったが、当のカレンは紙片の見つめながら再び難しい顔に戻ってしまった。


「……リョウイチ、残念だが次が最後のギルドだ」


「そうか。まあ、どんなものにも必ず最後ってやつはあるからな、その最後のギルドとやらで雇ってもらえるように精一杯アピールするだけだろ」


「その心意気は私としても大いに買いたいところなんだがな……その、なんだ、あまり気が進まないというか……」


「なんだよ、もったいぶらずに早く言えよ。一体なんて言うギルドなんだ?」


いつもとは打って変わって口ごもるカレンだったが、さすがに言わないわけにもいかないと観念したのか、遼一の言葉に背中を押されるようにようやくそのギルドの名を口にした。


「……オカルトギルド。通称『依頼の墓場』と呼ばれているギルドだ」





「なあ、本当にここで合ってるのか?」


「……住所もあってるし、そのはず、なんだがな」


そう言い合う遼一とカレンが疑問に思うのも無理はない。

王宮に登録された場所に建っていたのは、これまで訪れたギルドとはまるで様子が違った建物だった。

というより、はっきり言ってボロかった。


「と、とにかくだ、中に入ってみなければここがオカルトギルドなのかどうか確認しようがない。行くぞ」


そう言ったカレンが、普通の民家よりちょっと大きい程度の扉を開けた先、そこには本があった。


「こ、これは……」


「……マジか」


こう表現すると、ギルドなんだから本棚の一つや二つくらい玄関先から見えてもおかしくはないと思われることだろうが、今遼一とカレンが見ている光景はそんな生易しいものではなかった。


前を見ても本、左右を見ても本、上も天井際まで本、極めつけに猫の通り道程度の隙間以外の床もすべて本の山。

中から見たら、この建物自体が本でできているのかと錯覚しそうなほど異常な光景が、遼一とカレンの目に飛び込んできた。


「ここは、本屋か?」


「いや、本なんて貴重品を扱う店なら、騎士の巡回コースに入っていないとおかしいのだが、聞いたこともないぞ。ましてや、この建物はスラム街の入口ともいえる場所に建っている。ますます怪しいのだが……」


「誰も出てこないな」


これまで二人が訪れたギルドは例外なく、玄関に入った時点で職員が応対に出てきていたのだが、こうして会話をしている間も職員の姿どころか気配すら感じられなかった。


「どうするカレン、このまま待つか?」


「いや、そろそろ日も暮れてくる頃だし、スラム街に近い場所にあまり長居したくはない。明日また出直そう」


カレンのその言葉に頷いた遼一が本で埋め尽くされた建物に背を向けようとした瞬間、腰のベルトに差していた愛用の木刀が独りでに震え出した。


カチャカチャカチャカチャカチャ


「な、なんだ!?」


ベルトの金具に当たる音が鳴り響いて、カレンがぎょっとして足を止める。

だが、同じように不意打ちを食らったはずの遼一は驚きの表情を見せることなく、何の気配もしないはずの本の山々に鋭い視線を向けていた。


「どうしたんだリョウイチ。というか、い、今、その腰の木刀がかかか勝手に……」


「しっ、ちょっと静かにしてくれ。間違いなくどこかに……そこだ!」


そう叫んだ遼一が指差した先には、さっきは一直線に積まれていたと思っていた本のタワー群の中に、一つだけ崩れている箇所があった。


「多分あそこだ。急ぐぞカレン!」


「急ぐって何をだ、リョウイチ?それよりも、さっきの音の説明をしろ!」


「そんな悠長なこと言ってる場合か!早くしないと手遅れになるぞ!」


「だから何がだ!?」


「あの本の下に人が埋まってるって話だよ!」


「はあ!?」


半信半疑ながらも、遼一の剣幕に押されたカレンが他の本のタワーを崩さないように苦労しながらもようやく信じる気になったのは、「助けて~」とくぐもった弱々しい声が本の雪崩の隙間から聞こえてきた後の話だった。

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