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彼女の飼っている雄鶏が言った

作者: 黒実 音子

伯母さんが死んだ。


伯母さんは広い世界へ飛び出して、自由を得る為に、愚かな男に束縛などされない為に英語を勉強した。

だけど、家の金庫には彼女に使う分のお金が無かったので(お爺さんがアサリを沢山買ってしまったのだ!!)、彼女は大学に行く事ができなかった。

彼女の飼っている雄鶏が言った。「教養がない!!」

そうだ。教養が無いと人生を楽しく生きる事は到底不可能なので、彼女の人生はそれはひどいものだった。

人々の扱いも彼女には不当なものだ。辛く当たるのだ。

彼女は英語を沢山勉強したけれど、大学で学ぶ事が出来なかったから、それは実に惨めな英語だった。

大学に行き、様々な素晴らしい男性と出会い、可愛らしい(でも落ち着いていて上品な)服を着て、モリエールを学ぶ女達は彼女を見下して、馬鹿にした。「教養がない!!」

ある女性は(勿論、大学に行っている)朽ちた端材をペットにしている素晴らしい女性だったが、彼女に優しくしてくれた。だけど、彼女がその女性に心を開こうとすると、飼っている雄鶏が言うのだった。「教養がない!!」


ある四旬節(クアレスマ)に伯母さんは目が見えなくなってしまった。

それはまぁ、無理もない事だ。彼女は大学に行っていないのだから。

辺りが全て真っ暗闇になって、何処に進めばいいのかもわからず、ただ彼女は途方に暮れるだけだった。

そうして何十年が経ち、その間も周囲の人達は彼女を救おうと、様々な救援物質を届けたり(でも、その救援物質は化粧品だった)、彼女に暗闇の出口を教えようとしたが、大学に行っていない彼女には全く世の中の出口などわからなかったし、偶然、手探りで出口に辿り着きそうになると、飼っている雄鶏が言うのだった。「教養がない!!」


暗闇の中で彼女は長い間、様々な事を考えた。だけど、他の人達は暗闇の中でもすぐに光を見つけて、出口へ進んでいけるのに(それこそ、端材をペットにしている様な女性達は)、彼女にはそれができないのだった。

あの出口の向こうには素晴らしい世界が広がっているに違いない。出口を見つけたい。

そう最初は彼女は実に強く切望したものだが、あまりに長い時間が経ち過ぎて、もう彼女は英語も忘れてしまい、自分が何を望んだのかさえ、わからなくなってしまったのだった。

だけど彼女の足元には沢山の腹足類がいて、それらはいつもポルトガル語で話をしていたので、彼女はその話を聞いては孤独な時間を紛らわしていた。


やがて、彼女は老いて、もう動けなくなってしまった。

その時、彼女は大学にいた。

大学の広間のテーブルで本を広げ、それは実に流暢に英語を話すのだった。

余りに流暢に英語を話すものだから、端材をペットにしている彼女がやってきて、こう言った。

「そんなに素晴らしい可能性があったのなら、あなたは大学に行くべきだったのに」

叔母さんは答えた。

「お爺さんがアサリを沢山買ってしまって。でも、あなたの優しさって、ちょっと下心があって歪んでいるわ」

すると彼女は笑って言った。

「下心の無い優しさなんてあるもんですか!!それを学ぶ為に大学に行く必要があるのよ。なぜならいくら流暢に英語を話せても、それがわからなかったら人は生きていけないからです」

伯母さんはハッとして、そして自分が実は暗闇の中にいて、もう動けなくなっている事に気が付いた。傍にいるのは雄鶏だけだった。

雄鶏が言った。「教養がない!!」

彼女は力なく目を閉じた。「ふふふ・・・そうね。確かに教養が無かった。でも、本当に恐ろしいのは英語が話せない事ではなくて、この世に正しい形の善が、純白があると信じてしまう事。あるいは全く無いと絶望してしまう事。それが本当の無知で、それはこの暗闇ではわかりにくい事なんだわ。そもそも人は誰もが暗闇にいるのだけれど、まるで光の中にいる様に振る舞うフリをすればいい、と教わる為に大学があるのだわ」

その時、まぶしい光が差し込み、そこに天使がいた。

「ああ、お迎えが来たのね。天国へ連れて行って下さるの?」

天使は言った。「あの天国ですか?あれはサラマンカ大学を卒業した者しか入れないんですよ」

「では、わたくしはサラマンカ大学を卒業した風に振る舞う事にします」

すると天使は微笑んで言った。「そうです。ちなみに私にはあの雄鶏はずっとクィクィレクィと鳴いている様にしか聞こえませんでしたよ?あなたには一体、何と聞こえたんですか?」

その時、雄鶏が言った。「A(エー)の次は?」

彼女は微笑んで答えた。「B(ビー)です。ああ、やっとわたくし、光が見えましたわ。だってサラマンカ大学を卒業したんですもの。生きるってこういう事なのですね!!」

天使は言った。「ねぇ、あなた。魂の装い(Alma Brilhante A→B)こそが本質ですよ。」

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