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洞窟

翌朝、アイン達は長老に声を掛けてから大渓谷に向かっている。


イッシキがアインに尋ねる。

「そういえば、長老さんと話すとき、なんであんな口調なんですか? 精霊の守り人だから?」


「え? なんのこと?

子供っぽく振る舞ってるつもりだったけど、不自然だった?」


「子供っぽく? ……良い子キャラみたいなもの?」

「良い子? ……と言われればそうかも」


二人とも少し不思議そうな顔をしていたが、アインが掘った横穴に到着したのでこの話はそのままになった。


「さて、探索に入るとしますか」


アインを先頭に、松明をかざして進んでいく。

イッシキはここに入るのは初めてだが、おびえた様子はない。


アインのツルハシで掘り進めた洞道は、最初からなめらかな掘削面となっており、暗ささえ気にしなければ遊歩道のようなものとなっている。


少し行くと天然の洞窟につながり、でこぼこしながら天井が高くなる。

以前に集落の人と一緒に探索した際に、行き止まりや危険そうな道は入り込まないよう目印が設置されており、大渓谷に向かう最短ルートは前回の作業で歩きやすく整備してある。


石材を採集するついでに、狭い場所は削って道を広げておく。

前回掘削して道のわきに積み上げてあった土砂からも、イッシキが使いやすそうなものを回収している。


重いのであまり熱心に集めていなかった石炭も、小精霊化できることが分かったので見つけ次第に採集している。

ただ、ツルハシの傷みがかなり進んでしまっているのも事実で、本格的に採掘することはできない。


「よく一人でこんな道を整備しようなんて思いましたねぇ」

イッシキは素直に感心している。


「上の方から、隙間が見えてはいたんですよ。

洞窟があるなーって。

下に掘り進んで落ちたら出られなくなるかもと思って、横から掘ってみたんです。

思っていたより洞窟が大きかったり、大渓谷に通じてたってのは、後からの話で」


「そういうことですか。

集落の人達が話してたことには、『その者、大いなる水の源への導きが……』どうとかこうとか。

水場があると知ってたわけじゃないんですね」


「ああいう昔からの伝承って、話作るのが上手な人が、即興でネタぶっこんでるよね、絶対」


渓谷との接続点に近づいたので、いったん足を止める。

採集しながらだったが、一時間も経っていない。

「俺はわりと疲れにくい体になったみたいなんだけど、イッシキは?」


「わたしも大丈夫ですよ。

というか、そうでもなければこんな子供の体で探索に出ようなんて思いません」


そうなのだ。

普段は特に意識していないのだが、端から見れば小学生二人組なのだ。


女の子は空から落ちてきたわけではないが、転生はある意味そうか?

一切れのパンはあるが、ナイフもランプも持たずに出かけてしまっている。

剣と松明なら上位と下位で互換できないか?

もしもトランペットが吹けたなら……

いろいろな想いが浮かんでは消える。


「この先が大渓谷ってことですね。

何か動き回る気配が幾つかありますね」


妄想にふけるアインを放置して、周囲の確認を行っていたイッシキが戻ってくる。

あれー? それは俺の役割では。


「前にも、ゾンビに遭遇したんだ。

下まで降りられる道は崖に沿って回廊っぽく掘っておいたんで、不意討ちみたいなことはよっぽど避けられるはずだけど」


「有りがたいです。登山だのパルクールだの、前世じゃ興味なかったですからね。

この体なら出来そうって思うんですけど、精神的にキツいんですよね。

しかし、この道を集落の人達が見たら、また新たな伝承小噺が出来そうですよ。

精霊の守り人が歩み寄るにつれ、洞窟の奥の封印が解かれ、神秘の洞道がどうとか」


「伝承小噺ってのやめて。一応うちの氏族の由緒あるなんたらなんだから。

大体、そんなペースで伝承インフレ起こったら、最後はこの大渓谷そのものが俺のせいとかそんなことになりかねないよ」


「それいいですね。メモっときます。

『その者のもたらしたる聖なる大地の裂け目に導かれ』くらいですかね。

修正、修正っと」

インフレの元凶がここに居た!


「冗談ですよ」

何を信じたらいいか分からないよ。

いや、信じたくないけど。


いつまでもグダグダとしていられないので、大渓谷に進入する。

改めて見ると、本当に大きな裂け目だ。松明ではとても照らしきれない。

絶壁はところどころにキラキラと光を反射する部分もあり、鉱物の結晶のようなものもありそうだ。


裂け目は両側にどこまでもうねるように続いており、対岸までの距離は、狭いところでは数メートルだが、広いところは100メートル以上ありそうだ。

上方から差し込んでいる光の筋が、緑碧色の地底の水脈を、スポットライトのように照らしている。

水脈に沿って地面を白い結石が覆っており、水底からの乱反射が複雑な模様を水面に浮かび上がらせていた。


「奇麗だね……」


思わず呟いて脇を見ると、すでにイッシキはかなり先まで降りていた。


グダグダとしていられないので、俺も水場に向かって速足で歩いていく。


後ろから見ていると、サクサクと進んでいるようで、イッシキは視線をあちらこちらと細かく動かしている。

前世で読んでいたサッカー漫画を思い出す。

ヘッドアップ、周辺視野、敵だけでなく味方の位置も常時把握。


イッシキは独りで何日も荒野を移動してきたのだ。

自分を狙う盗賊の群れや夜にうろつく獣、怪物を避けながら。

腕力はないかもしれないが、危険に対するサバイバルにかけては、俺よりも遥かに経験を積んでいるのだろう。


「採集してみたいものがそこら中にありますけど、道具が限られるのがホントに悔しいですね」

むしろ獲物を探す側だった。


やがて水辺までたどり着く。

少し離れた場所で動くものの気配はあるが、こちらに近づいてくるものはなさそうだ。


水を汲みやすそうな小さな浅い支流に道をつけてあったが、今回は釣りが目当てである。

深さがあって、生き物が潜めるような淵を探す必要があるだろう。

一番大きな流れに沿って、歩いていってみる。

洞窟との接続部には松明を置いて目印にしているし、イッシキも松明を持っているので、開けた場所なら、多少離れてもお互いの位置は分かるだろう。


しかし、地下水脈といって、湧水が水源だったら生き物は少ないよな。

餌になるものもどれだけあるか。

そのまま飲んでも平気なくらい澄んでるしな。


あ、ところどころ地上とつながってるんだから、その近くなら地上から入り込んだ餌とかあるかもしれないな。洞窟にはクモとかいたし、その餌もいるってことだもんな。

光が射し込んでいる穴の下を目指して歩いていく。


穴は、近づいてみると意外と大きく、数メートルありそうだった。

地上に出てみたかったが、なんせ高さは数十メートルあるので、ジグザグに道を刻んで行くにはツルハシがもたないだろう。


いろいろな物が落ちてくるようで、下の流れには地上の石や砂のほかに、獣の骨や流木のようなものもたまっていた。


流木のようなもの!


俺は、思わず走り出していた。




初ブクマ、ありがとうございます(笑)

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