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イッシキの村

「逃げてきたんですか?」


「わたしの生まれた村の人達は、大勢殺されてしまいました」


「殺された? 事故で亡くなったって話は聞いたけど…」

「物騒な話を広めても、パニックを起こすばかりですからね」


「な、何があったか聞いても?」

「盗賊団に目をつけられて、集落を乗っ取られたんです」

「盗賊団に? この辺りの集落に、盗賊が狙うような物なんて……」


「わたしが作ったんです。調子にのって、目立つ砦みたいなものを」


どう応えていいか分からなかったので、しばらく黙った後、能力の話に無理やり戻った。

動揺していたのか、その後の話はうろ覚えだ。


イッシキは、精霊魔術と名付けた技を使えるようになると、いろいろな実験と訓練を繰り返し、使いこなしていったらしい。

原始的で閉鎖的なこの辺りの集落で、異能の力を突然に振るい始めたら、どんな扱いを受けるか予測が出来なかったから、皆には内緒にしていたという。


そして、集落の役に立ちたいと思い立ち、皆には内緒で集落のそばに土壁で小さな平城のようなものを作っていた。

いざという時にそこに逃げ込めば、魔獣や砂嵐から皆を守れると考えたからだ。

ところが、それがたまたま道に迷って通りかかった盗賊の目に入ってしまった、と。


逃げ出したあとは、その能力を秘密にして使わずにいたようだ。

盗賊団にバレたら何処までも追ってくるだろうし、と。


すぐさま全力公開していた俺とはえらい違いだ。


で、この集落で何だか俺が持ち上げられてるのを聞いて、ここなら、と思ったわけだ。

……人柱乙! ってヤツか。


イッシキの精霊魔術は、先ほど見せた土や木の小精霊化の他にも、色々なものがあるらしい。


手の内を晒していいのか、と尋ねたら、貴方に騙し討ちに会うような状況なら、とっくに詰んでるってことだから、と流された。

言葉は悪いが、信頼されていると考えておくか。


いや…舐められてる? っていうか現在進行形で馬鹿にされているのか?


「一応、貴方のことは信頼してるんですよ、アイン」


そう言ってもらえるなら、そういうことにしておこう。

なんせ、頭脳は大人でも体は7歳の子供だ、俺が兄貴分ってことだな。


「そういえば、俺は10歳になるんだけど、イッシキは7歳なんだっけ?

転生した時期が違うってこと?」


「わたしも10歳くらいですよ」

「あれ、そうなの?」


イッシキが、少し唇を尖らせている。

「この辺りでは、12歳で成人しますね」

「おう」

「成人したら、結婚なんかしちゃうわけですが」

「なるほど」

「10歳っていうと、その相手選びにいきなり巻き込まれることになるってことです。

前世の記憶がよみがえってから、ちょっとしたパニックですよ。この身体で、いきなり夫探しが始まるなんて。

つまり、単なる時間稼ぎですね」


にしても、いろいろ考えてるんだな。

っていうか、俺が考えなさすぎなのか?


緩い空気になってしまったが、そろそろ聞きにくかったことを聞いておこう。

「家族の人も、皆やられちゃったのか」


「とにかく逃げてきたから、生きてるかどうかは分かりません。

ただ、この土地の食料事情では無駄に生かしておくことはできないし、奴隷を使って開拓しようなんて気の長い連中なら、盗賊なんてやってないでしょうね」


「復讐とか助けに行くとかは考えてるのか」

「まず、そんな戦力がありません。

それに、ショックのせいなのか、今は何だか記憶もあいまいで。

なんていうか、何年も過ごしてきたはずなのに、家族の思い出みたいなものも全然浮かんで来ないんですよね……。


ちょっと申し訳ない気はしますが、自分が生き残ることを考えたいと思ってます」


残念ながら、今の俺たちには大勢の人間を相手に立ち回る力なんて、ありゃしない。

助けを求める先も。

「まずは、俺たちに何ができるかやってみるってとこか」

「そう。それじゃ、貴方の力も教えてよ」


イッシキも、落ち込んでいるばかりではないようだ。

一人で無人の荒野を何日も抜けてきたんだ。並みの子供とは違うってことだ。


「了解。イッシキに試してもらいたいことも色々あるんで、よろしく」


俺は、自分の力が道具や素材を作り出すものであることを説明し、次にその道具の不思議な効果を実演して見せた。


「えっ、何ですか。

ツルハシで石の塊を削り出すとか。

鍬で荒れ地を引っ掻くだけで柔らかい土になるとか。

というか、その道具も、一瞬で作りましたよね。

どこかから出したって訳じゃないんですよね?」


「俺は道具や素材を小さくしたりは出来ないな。

あ、でもイッシキが小さくしたものはどうなんだろう?」


ひとしきり実験したところで、お互いの能力がある程度連携可能であることが判明し、思わず二人で感嘆の声を上げてしまう。


「「おおー」」


俺が作った道具なら、硬い石でもまとまった形で削り出すことができ、しかもイッシキは小さくできる。

イッシキも俺の道具を扱えること、いったん小さくした後なら俺もそれを持ち運んだり元のサイズに戻すことができることもわかった。


また、イッシキは俺の作った道具自体も、ある程度小さくすることができた。

素材に余裕さえあれば、たくさんの道具を作って持ち歩くこともできそうだ。


大量の素材を集めたり運んだりできるようになったし、掘ったり並べたりする作業は二人で行えば、単純に速度は2倍だ。

これは土木作業がはかどるな!


……なんだろう。すごいんだけど、何かもうちょっと足りない気がするな。

イッシキも、同じことに思い至ったらしい。


「結局、素材が足りないんですね。

畑を作っても種がない。

道具を増やそうにも木材がない。

遠くに行こうにも食料がない」


「イッシキは、ここに来るまでに貯めてきた素材は何かないんですか」

「大したものはないですね…

ちょっとした便利のために土や石ころは持ってますけど、旅の準備をする暇はありませんでしたし、前にいた集落も資源の少ない土地でしたからね。

役立つ木材みたいなものは貴重でしたから、まとめてくすねたりしたら大騒ぎになっちゃいます。


もっとも、ここよりはマシでしたけどね。

というか、ここよりキビシイ集落は多分ないと思いますけど」

「そうなんだよなー、ホントに資源がなー、って、なんかうちの集落、ひどい言われ方だよ?」


二人で顔を見合わせて、苦笑する。

イッシキは、そのちょっと堅い喋り方も元々の癖だというけれど、俺の方は気楽な口調でしゃべることにした。

カッコつけられるような状況でもないしね。


「では、手っ取り早く食料を確保できそうな道具は何かないんですか」

「今持ってる材料で作れそうなので、釣り竿ってのがあるんだ。

ただ、水場が大渓谷にしかないから、そんな地下水脈で魚が釣れるのか……。釣り自体もやったことないだよね。

木材の残りがもうないので、釣り竿が役に立たなかった場合、苗木が育つまで極貧生活一択ってことになる」


「結構な博打ってことですか。

それでも、ほかに案もなさそうですね。

大渓谷というのも見てみたいので、行ってみることにしましょう」


なんだかんだとやっているうちに、すでに午後も遅くなっていた。

イッシキは拠点の洞窟で寝泊まりするらしい。

ドアを作る材料がないので、入り口は土で蓋をしている。


中は真っ暗になっちゃうんじゃないか? と不思議に思っていたら、岩の隙間から光が漏れている。

隙間から覗いてみると、天井に明かりを設置したようだ。


イッシキは、さらに何かを麻袋から取り出して、ぽん、と大きくしている。

コットというんだろうか、木と布地で作った簡単なベンチのようなものだ。

毛布のようなものも取り出している。


「……何か、割とよさそうな寝床とか、持ち歩いてるんですね」

「レディの部屋を、覗かないでください」


ぽん、と隙間が土で埋められた。



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