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閑話―――ゴースト

設定回です。

苦手な方はサラッと。

次からまた冒険の旅に戻ります。


「ここまで説明した内容は、特に守秘義務等は発生しません。

ただし、採用試験以降の内容については、写真の撮影やデータの持ち出し等は一切禁止しております。

SNSや掲示板等での投稿も、内容によっては法的責任を生じますのでご注意ください」


「では、本日採用試験を受けていかれる方はこちらへどうぞ。

それ以外の方は、受付へ…」


さっさと立ち上がったのは先ほど質問した男、それに村雨と隣の女性、あとは後ろの方に座っていた背の高い女性が一人で、合わせて四人。

残りの四人は、自分のゴーストを提供するという話に驚いたのかは分からないが、少なくとも今日は引き上げていくようだ。


スタッフの後ろに従って、村雨達四人はオフィスエリアの奥の開発セクションに向かう。


「皆さんは、この社内ではハンドルネームで管理させていただきます。

お互いに自己紹介をするのは自由ですが、会社側としては就業中に本名を扱うことはしません。

苗字部分はゴーストと共通で、本人は名前にオリジナルであることが連想できるものを、あとのゴーストには数字的な名前を付けます」


「ちなみに、私はハジメ・スザキです。

スザキを含む名前を持ったゴーストを見かけたら、それは私のゴーストということです」


「本人の名前は、採用試験の最初に入力しますので、今から考えちゃってくださいね。

浮かばなければ、あだ名と01などのナンバリングくらいで問題ないですよ」


いやいやいや、それは悩むだろう!?

村雨は深刻な問題に対面していた。


ハンドルネームの設定。

しかもリアルで対面済みのメンバーの前で。

いや、このメンバーについては特に何かが発展する気配はないが、この会社はVRやネット小説やマンガを軸に集められた人間の集合体だ。

冒険やロマンスを求めている人種のるつぼと言ってもいい。


社内や他のグループのバイトの中には、何かの関係が発生する可能性を秘めた人物が存在する可能性もあるだろう。

思わず二度、「可能性」について言及するほどに、村雨の頭脳は回転していた。


村雨は、悪い人間ではない、いやむしろ良いヤツではあるのだが、残念な何かを克服するにはまだ足りないものがいろいろあるのであった。


「んで、君らの名は? 俺はカタカナでタチカワって決めたんだけど。タチカワ・ワンからフォーってとこか」


前を歩いていたイケメンが振り返りながら問いかける。

ちょっとした仕草だけでなんかカッコいい振り付けみたいだ。くっ。


「あたしはミシマ。そうね、私もカタカナ表記にしておくわ。ヒト・ミシマ、フタ・ミシマみたいにしようかな」

「私はカワハラです。識別は、壱式、弐式、参式と。」

残る二人も即答である。


スーツの女性はシンプルに、背の高い女性は割とこじらせた感があるか……?

って、え、ちょっ、みんな早すぎるだろ!


タチカワ氏と川原さんの視線がこちらに向かう。

ミシマさんは前を向いたままだ。なんか俺の扱い軽くない…?


いやそれは今はどうでもいい、俺の名は、俺の名は…


「じゃあ、俺はハ、ハルサメで……。数字は、じゃあアイン、ツヴァイ、ドライとか……」

ははは、と頭に手をやって愛想笑いをしてみせる。


誰もなにも言わずに、前を向き直して歩いていく。

何だよ、わざわざ注目したなら突っ込むなりしろよ!


学校の教室くらいの大きさの部屋に、ディスプレイモニタやヘルメット、グローブにたくさんの計測機器が配置された机が並んでおり、数人が装置を身につけて作業をしている。


VR開発キタコレ!


いかにもサイバーを予感させる光景に、村雨はニヤニヤとした表情を浮かべてテンションを上げ直していた。

スザキはその内の一人の女性の近くに歩いていき、村雨たち四人を呼び寄せる。


「試験の前に、ゴーストがどういうものかお見せしますね。

こちらの女性はギルガメシュ・ジオリジンさんです」


そんな名前もアリなのかよ!と衝撃を受けたのは村雨だけだったようで、他の面子はふんふんとうなずきながら興味深そうに装置やディスプレイの中身をのぞきこんでいる。


その女性は、改めて挨拶から始める。

「初めまして、ギルガメシュ・ジオリジンです。長いのでギルと呼んでください。

私も皆さんと同じでこの会社でゴースト関係のバイトをしてます。

先輩面して解説しますが、半年くらいのことなので、至らないことがあれば気軽にご指摘ください」


程よいジェスチャーの愛くるしさと爽やかな笑顔で、そばにで聞いているだけで幸せな気分になってくる解説者である。


「私の場合、ゴーストの出来にちょっと問題があったんですけど、それはそれでゴーストの説明をするのにちょうどいい状態だったみたいで、シミュレータで稼働させるより本体の私とセットで解説っぽいことが中心業務になってます」


手慣れた感じで説明が続く。

村雨の口元はますます緩んでいた。


「それはそれとして、私なんか単なるいちバイトに過ぎないのに、取引先とか役所の偉い人相手の説明までさせられてて、これってどーなんですかスザキさん、って感じなんですけどね」


ため息をついて見せるが、そんな仕草もキュートすぎるぜギルさん!というのは村雨の心の声である。


「さて、それでは肝心の、ゴーストのお話に入りましょうか」



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