決着
「危ない!」
イッシキの前に飛び出しつつ、石の柱を積み上げる。
訓練の中で積み上げてきた、最速のタイミングだ。
が、紫の光が抜けてきている。
間に合わなかった…
石柱は!
ドン、というわずかな音と、予想外の衝撃に驚きつつ、俺は吹っ飛ばされていた。
「アイン!」
イッシキが派手に石壁を展開し、結界のようにドームを形成する。
石のドームの暗闇の中で、イッシキが俺にしがみついている。
僅かな隙間から、光が射し込んでいる。
砂ぼこりがキラキラと輝き、光の筋を無数に浮かび上がらせて。
「アイン、アイン…」
「イッシキ、大丈夫だ、問題ない。俺が作った装備ですよ。精霊の加護は伊達じゃないんです…」
「でも! あんな魔法の弓で撃たれて、こんなに吹っ飛んで」
「大丈夫ですってば」
「なら、アインだけでも早く逃げてください。いえ、アインが逃げる必要なんてないんでした。二人のうち、どちらかが消えればいいだけなんですから。
そう思うと腹が立ってきました。
何をしているんですか、アイン。
貴方は、わたしにとって最大のリスクだと前にも言ったじゃないですか。
貴方を失うことは、わたしの全てを失うに等しい、いやそれ以上だと」
「そんなセリフは知らないな……
けど、大丈夫って言ったら大丈夫なんですよ。
ですよね、ニシキさん!」
よいしょ、と立ち上がると、ツルハシを取り出し、石の結界を切り裂く。
ニシキは、ドームの上部に腕組みをして立っていた。
「ふん。まだ話は終わってないってことよ、イッシキ」
「ど、どういうことですか。アインはわたしが守ります」
「アインは、関係ないんだけどね。いや、あるのかな。まあ、いいわ。
わたしとあんたは、リストラの対象になってるのよ」
「結局、どちらかのクビが掛かってるってことですか」
「リストラをそう狭く考えないで欲しいわね。リストラクチャリング(再構築)よ?
まず、わたしはアドベンチャーモードの日々にうんざりして、もう生きる意志を無くしかけてた。あんたも分かるでしょう、河原だった頃は確かに色々なゲームをやっていたけれど、やっぱりホームはスローライフ系だったって。
で、スローライフやってたはずのあんたは、自分のリスポーンを知ったせいで、アインと自分が違う存在なのかもしれないと思って、ひどく不安定になっちゃった。
わたしを転移させてる神様は、あんたを転生させた神様と同じかお仲間みたいで、どっちも困ったことだとお考えになったわけよ。」
イッシキは、目を丸くして聞いている。
俺は、眉間にしわを寄せて聞いているが。
「で、こっちの世界に私を飛ばしたのは、しばらくはスローライフやらせてみるかってとこかな?
異動かなー、休職かなーって、考えてみたら、わたしにはアイテム化のスキルがもらえてない。わたしの仕事、ないじゃん、って。
で、あんたのココロを安定させるのに、幾多のマップを繰り返し渡ってきたわたしが、その身に絡みついた因果の重みで、円熟の理を提供します、って感じね。
つまり、わたしはこの肉体を保持する必然性は低い。
そこで、イッシキ、わたしと契約して、……何になるんでしょうね?」
「お受けします」
イッシキの即答。
「……条件とか聞かなくていいんですか?」
一応、俺も確認してみる。
「始まりがゼロ認識の転生である時点で、わたし達には交渉権なんてなかった気がしますけど」
「それもそうですね。そのリストラとやらは、ニシキさんの方で条件を変えたりできるものなんですか?」
「いいえ。なんというか、まずわたしが受け入れたら再構築が始まるみたいね。次に、イッシキにわたしの一部が流れ込む感じなんでしょうかね。具体的なことは何にも」
総じて雑にも程がある、って感じだが、俺たちがどうこうできるものでもなさそうだ。二人の好きにしてもらおう。
「それじゃ、始めるわよ」
現れた時のように、ニシキは唐突に姿を消す。
外していた装備や荷物は、そのまま残っている。
しかし、さっきまでいた空間で何かが起こっている気配があり、重圧のようなものを感じる。
イッシキは、壁にもたれて座っている。
薄目をあけているが、意識はないようだ。
重圧のようなものが、空間からイッシキの周りに移る。
しばらく無表情の時間があったあと、ふっと表情が戻ってくる。
「イッシキ、イッシキはイッシキのままなのか?」
「……どうやら、さらなる上部構造へシフトする時が来たようです」
「大丈夫なのか……?そのまま昇天とか、人でなくなるとか、ないですよね」
「冗談です」
元は同一人物なわけだし、リアクションとかボキャブラリーとか、あんまり変わらないのか?
「あまり融合感ないんですね。やっぱり元が同一人物だからでしょうか」
「ていうか、融合なんてしてないんだけどね」
イッシキの肩の上のあたりから、声がする。いや、声というよりは念話というかメッセージというか。
これは……ニシキの亡霊がイッシキに憑りついている……みたいな状況か?
「ニシキ…だったもの、ですか?」
「そうね。なんていうか、FPS(一人称視点)がTPS(三人称視点)にって感じね」
「TPSって言っても、イッシキの体に乗っかってるだけですよね」
「それがそうでも。切り替えスイッチ的な何かが」
イッシキが白目を剥いて立ち上がり、手をひらひらさせている。
「何を切り替えられるんですか……って聞くまでもなさそうですね」
「そうね」
イッシキの目が正常に戻る。
「あれ、わたし、どうなったんですか」
「えーと、ニシキに聞いてみてください。あとはお二人で話し合って、って契約は済んでるんでしたっけ」
まあ、なんだ、これからも、よろしくお願いします。
「ニシキ、なぜ撃った」
「テイムもゲットも、HPは減らさなあかんやろ」




