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俺の名はアイン

俺の名前はアイン、アイン・ハルサメだ。

何がきっかけだったのかは分からないが、気が付いたら、この世界に来ていた。

赤ん坊の体で。


これが小説なんかでよく見た転生ってヤツか!と認識できたのは、この世界で九歳をすぎた頃だったか。

前世の俺は日本人で、ごく普通の大学生だったという記憶が唐突に浮かんできたのだ。

それまでは、どうということもない氏族の子どもの一人だった。


だが、この世界は地球ですらなく、おそらく俺には英雄に届くであろう何かの力の可能性がある。

そんなふんわりとした感覚だけがあった。


とはいえ、色々試してみたものの、体の中にあるスキルか何かと思われる感覚の大半はまだ発動出来そうもない。

おかしな動作を繰り返していたら親や兄弟に奇妙な目で見られるようになったので、しばらく封印しておくことにした。


前世の記憶はおぼろげで断片的過ぎ、そもそも生活環境が違いすぎてほとんど役に立たない。

ちょっと出来の良い子として振る舞うのが精一杯であり、逆に言えばそれで十分だった。


しかし、スキルのようなものが何かあるとして。

それらを発動できるような存在が、敵に回れば。

あるいは、それらのスキルを産み出す必要があるくらいの危険が、この世界にあったのだとすれば。


だが、そんな危機感めいたものは日々の暮らしの中に薄れていき、むしろ時おり浮かぶ幻のような贅沢な暮らしの記憶に苦しめられるのだった。


そして十歳になった頃。

今度もまた、唐突に、自分の脳裏に閃く、いくつもの「手順」があった。

ついに、本当の異世界生活が始まったのだ。

そう、これは、アイン・クラフトの世界なのだと。



◇◇◇



少年が断崖を見上げながら石のツルハシを振るい続けると、その穴は、やがて小さな洞窟につながった。

岩肌から時折採掘される真っ黒な炭の石は、いったん火が着けば、何時間も光と熱を失うことがなかった。

明りを得て少年と共に途を進めた部族の者は、二日の旅路ののち、大いなる割れ目に至り、その地下の大渓谷には、清廉な水が滔々と流れていた。

いずれも、この地に長く暮らす者でも見たことも考えたこともないような出来事だった。


地上に戻ると、少年は、三日掛けて畑となるべき土地を広げたのち、長老に申し出た。


「長老、古くから我らと共にあった彼の木を打ち倒したことをお許しください。

彼の木は、私に道を与えてくれる一本の木でありました。

土と、石と、暗闇を歩むための光を授かる助けとなりました。

彼の枝葉は、新たなる苗木となり、いずれは我らに森の恵みをもたらすでしょう。

私はこれより、しばしの旅に出たいと思います。

必ずや、この地の皆の役に立つものを集めて持ち帰ります。

旅立つ私に、アインという名をお授けください」


長は、この少年に、一族の希望を感じた。

「よかろう、十二の成人の儀にはまだ早いが、そなたには十分にその資格があろう、アインよ。

しかし、この地に災いの種は満ち満ちている。

何よりも、まずは生きて戻るのだぞ」


「はい。といっても、まずは近場の探索から始めますので、数日おきには戻るつもりです」


「そうか、では心配は少ないな」


「危険な旅です。心配はしてください」


そして、アインの探索と製作の日々が始まる。

石と木を組み合わせた粗末なツルハシと剣、わずかな食糧を携えて。




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