表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/26

閑話―――ゴースト・トークス(後)

次から再び探索話です。


タチカワが再度質問する。

「逆らったら消去するぞ、といったメタな脅しをされたら?」


「逆らったら殺すぞ、というのと同じようなレイヤーに落として解釈されますね。そうそう、この解釈というのは、ゴーストにとって結構重要な意味合いを持ってます。

ゴーストは一見普通に会話しているように見えますが、世間で使用されているインターフェイス型のAIと違って、まともな言語機能を持っていません。

抽象化された概念のやり取りだけを行っていまして、概念を受け取った側で解釈して、必要に応じて言語化しています。

今のギルフォースさんとのやり取りも、ゴーストの外部に用意してある言語エンジンを使って概念化をしています」


ん? んん?

村雨の眉間にしわが寄っているのを見て、ギルさんが言い換えてくれる。


「オンラインゲームのチャットで、発言のショートカットを設定しておくようなものです。

例えば、『出発の挨拶』とか『魔法A』『攻撃支援要請』といった感じで、ある程度共通の概念を網羅しておき、受け取った側がそれを言語表現に変換するのです」


定型メッセージが充実したチャットの仕組みにしておけば、情報量が圧縮できるってことか。


「VRを本当にリアルに再現した場合、権力者に処断される勇者や冒険者が大量に発生するでしょうし、色々なキャラを演じてみたいのに、リアルで口調を練習しなければならないのもおっくうですよね。

受け取った側が、相手の立場などにふさわしい表現で解釈するようになっています。

ただ、第三者から聞いていると、急に口調を変えたように見えることがあるという副作用もありますけどね。


言語だけでなくて、大半の動作や見た目についても同じような処理にしています。

プレイヤーがいる場合の表現で言いますと、プレイヤー側が設定したキャラのスキンやテクスチャに合わせて、世界全体の雰囲気が描かれる感じですね。


極端なケースでは、マルチプレイしていても、あるプレイヤーにとってはダークファンタジーな風景で、あるプレイヤーにとってはほのぼのキュートな風景に見えることもありえます。

ただ、極端に世界観がずれると、プレイヤーでもゴーストの運用でも、たまに支障がでることがありますけどね」


再びタチカワ。

「そういえば、複数のゴーストを作るって言ってましたよね。どういうバリエーションなんでしょう」


「ゴーストイメージにも非常に多くのバージョンや規模がありまして、皆さんから作るシミュレーション向けのゴーストについては、現在はメタ認識のレイヤーで区分してます。

自分がゴーストであることを知らないし現実空間にいると思っている、自分がゴーストであることは知らないが仮想空間に置かれている認識がある、自分がゴーストであり仮想空間に置かれていることを知っている、そして最終段階として、こちら側の状況も知っている、という4レイヤーです」


「すると、このギルフォースさんは…」

「そうですね、四段階目、こちらの状況も知っているゴーストです。

なので、ギルフォースさんやギルサードさんに対しては、消去するぞという文句はその通りに伝わりますが、ギルファストさんやギルセカンさんに対しては、殺すぞみたいに変換されて伝わります。

もっとも、ギルフォースさんみたいな四段階目以外のゴーストに、人間が直接対話することは基本的にありません。

認識が違うとどのように振る舞いが変わるか、その差を分析するためのレイヤー区分なので、人間が外部から関与したらデータがコンタミ扱いになります」


村雨には聞き覚えのない言葉だ。

「コンタミ?」

「あ、コンタミネーション、実験サンプルが汚染されてしまってデータ採集に使えなくなるってことです、はい。」


川原さんも質問する。

「コンタミ起こしてしまったら、どうするんですか?」

「コンタミもいろいろな場合がありますけど、ごく単純な環境で単独行動中ならバックアップデータで巻き戻しの上書きをすることもあります。

他のゴースト等との同期で支障がある場合は、個別介入をかけますね。認識に齟齬が生じないように新たなシチュエーションを設定して、物語的に解消してしまいます。

ゴーストの個々の記憶を改竄したり消去するようなことは、出来ないんです。


幸いなことに、最近のゴーストの提供者は基本的にファンタジックな展開が好きなので、ゴーストもむしろ積極的に受け入れてくれます。

環境設定の漏れやバグで大規模な矛盾が生じて合理的な解決ができない場合、全く違う環境にゴーストを移してしまって、『転生』とか『転移』『ゲーム世界に入り込んでしまった!』なんてことにしてしまいます。

元の世界の最後の場面の、そのまた少し前のことを細かく気にするゴーストは、ほとんどいません」


心なしか、4人とも、名状しがたい微妙な表情を浮かべていた。


珍しくミシマ氏も質問する。

ギルさんのことは何だか敵視しているような雰囲気だ。かわいすぎるから?

「先ほどのレイヤーの件だけど、下位のレイヤーのゴーストが上位のレイヤーの存在に気づいてしまったらどうするの」


「コンタミと同じですが、『気づいてしまう』タイプのゴーストの場合、巻き戻しても遅かれ早かれまた同じような展開を迎えることが多いので、そのままゴーストを凍結して運用停止するか、引き継がせたい経験内容があればそのまま上位レイヤーのゴーストにスライドさせるかします」


「つまり、あなたの場合」

「お察しの通り、差分分析作業用のゴーストとしては、失格となってしまったのです」

ミシマ氏が軽く呆れたような顔をしている。


え?どういうこと?

左右を見回すと、タチカワが答えてくれた。

「ギルさんのゴーストたちは、第一段階の……ギルガメシュ・ザファーストからして、第四段階、世界の真相に到達しちゃったってことだろ」


ギルさん、優秀すぎぃ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ