プロローグ
不定期・短期連載です。
お気軽にどうぞ。
氏族の長は、このところの日々を振り返る。
辺境の暮らしは厳しい。
それは、ひとえに自然の脅威によるものだ。
大小多種多様な魔獣や危険生物、予測が困難で過酷な気候、限られた天然資源。
平原で覇を争っているという封建領主達も、その合間を縫うように奪い尽くす盗賊の群れも、このような地には目も向けない。
太っているとは言えない家畜を連れ、食い尽くさぬようほんの少しずつの採集を重ね、大地にへばりつくように幕営を繰り返す暮らしは、それらの災厄の目こぼしの中で、辛うじて息づいているものだった。
一人の少年が、その力に気付くまでは。
最初に、部族の寄る辺に唯一生えていた細い広葉樹を少年が引き倒したと聞いたとき、長ウティモは怒りと悲しみにうち震えながら、この幼い者に与えるべき仕打ちを考えあぐねていた。
少年がその枝と木片を使って農耕の民が使うような道具のおもちゃを作り、それでもって土のようなものを粘土混じりの荒れ地の地面から捏ね繰り出したとき、皆は首を傾げた。
枝葉を何本か取って地面に差すのを見て、哀れな目を向ける者もいた。
木の道具で石をやすやすと砕き、その石を使ってまた新たな道具を作り出した時には、何か大きなことが始まっているのに気づく者が出てきた。
長達は、もうしばらくこの少年の様子を見守ることとした。