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ケーキとチキンと妹とメリークリスマス。

作者: 新名天生


「何がクリスマスだ! そもそもイブに盛り上がってどうすんだ!」

 クリスマス……要するにキリストの誕生日なんだろ? 知らんけど……


「ケーキ屋に踊らされやがって、お前ら皆25日に教会行ってお祈りでもしてこいや!!」


「ちょっとお兄ちゃん! ぶつぶつうるさい!」


「いや、だって、ケーキ買うのにこの行列っておかしいだろ?」


「お兄ちゃんが予約するの忘れたからでしょ!」


「良いじゃん、今日はそこらのコンビニで買ってこの店のは別の日にしたら」


「駄目! 絶対に駄目!」


「何でだよ、味は変わんないだろ?」


「駄目なの、クリスマスはここのケーキって決めてるの!」


「いや、そもそもクリスマスで兄妹二人でって、最悪だろ? お前いい加減彼氏作れよ」


「ふん! 彼女いない歴が年齢と一緒のお兄ちゃんに言われたくありませーーん」


「な! お前だって同じだろ!!」


「そ、それは……そうだけど……私はお兄ちゃんと違ってモテるもーーん」


「お、俺だってモテモテだぞ! こないだ告白されたんだからな」


「え! 嘘!」


「本当だぞ!」


「だ、誰! そんな人いるの!」


「ああ、いるぞ、隣の奈乃葉ちゃんが俺の事を好き、結婚してえって」


「奈乃葉ちゃんて……小学生じゃない! しかも今年入学したばっかでしょ!?」


「な、なんだよ、小学生でも俺を好きって言ってくれたんだ! ほらモテるだろ!」


「はいはいロリコン乙」


「うるせえなーーそもそもお前だってモテるって言ってるけど、結局毎年クリスマスは俺と一緒じゃねえか」


「そ、それは……お兄ちゃんが一人でいたら可哀想かなって」


「ああ、はいはい……随分と兄思いの妹ですな」


「な、何よ! 本当の事じゃ……」


「ほれ、進んだぞ」


「もおおおお!」




 悲しいかな毎年恒例となった妹と二人きりのクリスマス。

今年こそはと色々俺なりに頑張ったけど、結局はいつもの通り妹と二人きり……何でだよ全く。


 いつものケーキを買い、いつものチキンを買う。これは必ず決まっている。

小さい頃、二人で買いに来て以来いつも同じ店、同じ商品……毎年恒例の事。




◊◊◊◊◊◊




「良かったああああ、後一個だったあああ」


「何でいつも同じなんだ? たまには他のケーキも食べたいんだけど」


「だ、駄目、絶対に駄目!」


「こだわるなーー、美味しいけど普通のイチゴのホールケーキだろ?」


「駄目なの! ほら、後はいつものチキンを買いに行くよ!」


「はいはい」

 

 クリスマスイブ、寒々とした冬の景色の中イルミネーションが所々で光っている。恋人達が寄り添い歩く姿を見ると、やはり独り身の寂しさは募る……ま、妹でもいてくれて良かったよ。

 傍ら見たら恋人同士に見えるのかな? 身長の低い妹は一見中学生に見え、いや、今日みたいにコートを着てなければ小学生にしか見えない。

 

 やっぱり妹だよな……客観的に見ても……

 一緒に歩きながら妹をみていると、視線を感じたのか? 不思議そうに俺を見上げ、首をかしげる。

 俺は何でもないと首を振り再び前を向き歩いて行く。


 話さなくてもある程度の意志疎通が出来てしまう。その、当たり前の事を当たり前と考えている自分に今更ながら少し驚きを感じてしまう。

 

 そんな事を考えながら、妹と二人並んでケーキ屋から歩いて行く。


 毎年恒例の事だが、今年はちょっと違った。そう、ついこの間まで俺と妹は喧嘩をしていた。いや、喧嘩ではないか……妹が一方的に怒っていた。

 

 妹が怒っていた理由は、俺がケーキとチキンの予約をし忘れたのが原因。妹に散々言われたにも関わらず、俺は予約をすっかり忘れてしまっていた。


 かなり怒り、しまいには泣き出してしまった妹。俺は散々謝ったがずっと機嫌は悪く、さっきケーキが買える迄不安だったのか、口数も少なく表情も険しかった。


 今はいつものケーキが買えて安心したのか、楽しそうにイルミネーションを見る妹。その妹の表情を見て俺もようやくホッとした。



 ケーキ屋から歩くこと20分、某有名チェーン店でいつものチキンセット、まあこっちはケーキ屋と違って大手なので問題なく……



「え! 無いの?」


「あ、はいスミマセン、売り切れてしまって、こちらのパーティーセットはいかがですか?」


「え、駄目……す、すみません作って貰えないんですか?」


「申し訳ございません、本日は全て完売してしまったので、そのクリスマスセットは作れないんです」


「そ、そんな……」

 愕然とする妹、いや、でも、それほど変わらないし、同じチキンも入ってるし……


「良いじゃんそっちで、チキンは同じなんだし、中身が少し違うだけで」


「駄目! 絶対に駄目!!」


「お、おい……」


「駄目、絶対に……」


「お客様? 申し訳ありません後ろの方が……」


 早くしろという後ろからの視線、俺は周りにペコペコと謝り呆然としている妹の腕を取り列から外れ店の外へ連れ出す。さらに人通りの多い道から人気の無い路地に連れていった。


「どうしたんだ? っていうかケーキといい、何でそこまでこだわってる?」


「…………」

 妹はうつ向いている。 何も言わずにうつ向いていた。


「良いじゃないか、いつものじゃなくても、もう一回並んで買おうよ、な?」


「いや……」


「おい」


「いや、絶対に嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌なの!!」


「おい!」

 いつもはこんな我儘を言う妹じゃない。なぜこんなにも異常なまでにクリスマスに、いつもの物にこだわるのか俺にはわからなかった。


「嫌なの…………」

 妹は顔を上げる、その瞳には涙が……なぜ? たかがチキンじゃねえか?

 一体なんなんだろ? 妹は何を考えているんだ?


「……わかったよ……行こう」

 涙ぐむ妹を見たら、なんか俺も絶対に買わなきゃならない気がしてきた。こうなったらやるだけやろう。


「……何処へ?」


「隣の駅、無かったらまた隣、見つかるまで探すぞ!」


「お、お兄ちゃん……いいの?」


「いいも何もお前がそうしたいんだろ? じゃあ俺は付き合う迄だよ、そもそも俺が予約を忘れたんだから……行くぞ」


「うん!」


 妹の手を取り駅に向かう。冷たい手……でもなんか手を繋ぐとポカポカしてくる。そうだ……初めて二人きりだったクリスマス、親が忙しくてお金だけ貰って二人でこうやって手を繋いで買いに来たっけ?


 あれから今年で10年……



「申し訳ございません」

「あ、そちらは売り切れました」

「こちらでしたら、まだまだございますが」


 行く店行く店売り切れましたと言われる……一体どうなってるんだ?


「畜生、ここも駄目か……後は……」

 スマホで検索をかけ次の店を調べる。電話をして確認すれば早いんだが、何処の店も忙しいのか全く繋がらない。


 どんどん時間が過ぎていく、このままだとクリスマスイブが終わってしまう……


「お兄ちゃん……ごめんね……もう……」

 

「いや、まだ時間はある、行くぞ」


「でも……」


「どうしても欲しいんだろ! 行くぞ!」


「うん!」

 スマホで調べ、二駅先の店に向かう、最後のチャンスかも知れない……

 駅を降りてすぐ再び妹の手を取る。閉店迄はまだまだ時間はあるが、ここも売り切れの可能性が……俺は妹と一緒に走った。


 そして

 


「あった……あったよお兄ちゃん!」


「おおやった!」


 ここまで10店舗以上、ようやく見つけて喜ぶ俺と妹。事情が分からずポカンとしている周りに構う事なく手を取り合って喜び続けた。



◊◊◊◊


 チキンセットを抱える妹、小さな身体で抱える大きな入れ物はまるでサンタクロースが抱える袋の様に大きく見える。


 チキンとケーキ、今夜はこれでいい、未成年の二人、お酒はまだ早い。

 コンビニのケーキを横目に飲み物とお菓子を何点か買い、サンタ帽子の店員さんに渡す。今から妹と一緒にいつもの通り、毎年恒例の二人きりのクリスマスパーティー。


 急いで家に帰って、チキンセットをテーブルに並べ、お菓子とジュース、最後にケーキを出し蝋燭に火を……



「あ……」


「ご、ごめん……」


 箱から出したケーキは無惨にも崩れていた……イチゴは散乱ケーキは半分に割れ生クリームはケーキの内側にベッタリとくっついている。


「さっき走った時か……ごめん」

 ケーキを見て愕然としている妹……ごめん、折角買ったのに……折角買えたのに……

 俺がしっかり持っていたら、走らなくても、そもそも予約をちゃんとしていれば……


「ううん、いいの……大丈夫……」


「でも」


「大丈夫だよお兄ちゃん、ケーキもチキンも同じだから、形は違っても同じだか

ら、ずっと同じ、まだまだ続く、続けられるから」


「同じ?」


「うん……10年間続いている私とお兄ちゃんの唯一のイベント……二人きりのクリスマス、この先いつまで続けられるか分からないけど……」


「それで同じ物にこだわったのか」


「うん10年前に一緒に買いに行った思い出……お兄ちゃんと私の思い出、今も続いている、来年も、ずっと……いつまでも……」


 誕生日祝い、家族旅行等妹と過ごすイベントは色々あったが、二人きりのイベントはこれだけ、親の仕事の関係で、10年間続いている唯一の二人きりのイベント、クリスマス。


 二人きりの、兄妹だけのクリスマス。


「そうだな、よし! 食べよう、味は同じだもんな!」


「うん!」


 もうすぐイブが終わる、終われば正式なクリスマス、でも俺と妹はイブの日にケーキを食べ、チキンを食べるのが恒例、だから急いで食べなければ。


 キリスト教を信仰していない俺と妹にとって、クリスマスはただの日。でも年に一度の大事な日。


 恐らく俺に彼女が出来ても、今後も妹との二人きりのクリスマスパーティーはやるだろう。イブの日に、1時間でも、1分でも、この日には必ず一緒にいる、一緒に居たいって思っている。

 

 ケーキ屋が無くなってしまうかも知れない、同じチキンのセットも変わってしまうかも知れない、でも続けられる限り続けよう。


 恋人とは違う一生の関係、一生の繋がり、誕生日と共に今後も一緒に祝いたい、そしてクリスマスは二人きりで、これからもずっと……


 

 クリスマスイブ……俺の大事な日、俺と妹の大切な日……大切な思い出……


 メリークリスマス!


チキンバー○ルが10年前にあったっけ?とか、色々ありますが、全部フィクションです。

実在する、白髭おじさんが立っている大手チキン販売店とは一切関係ありませんのでご了承下さい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 兄と妹のほのぼのとした光景いいですね^^
2018/12/22 19:50 退会済み
管理
[良い点] 兄と妹のほのぼのとした交流、良いですね。 そして、ケーキとチキンセットへのこだわり(^_^;) この先お互いに恋人や家族が出来ても、たとえ一分でもこのイベントはずっと、続けていく、というお…
2018/12/22 19:29 退会済み
管理
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