鶴のお返し
「大丈夫かい? ほら、これでもう飛べるだろう」
若い男性は足を怪我した鶴の治療をして野生に返した。
普段はこんな優しい性格ではないが、鶴の恩返しという昔話を思い出して助けてみようと思ったのだ。それともう一つ、大衆の中での出来事だったため、好感度や信用度を得るために鶴を抱き上げて古く小さな家へ帰った。病院へ連れて行くお金が無いため、自宅での応急処置をした。
その数日後のことだ。丁度人通りの少ない道を歩いていると一人の若い女性から声をかけられた。スラリとした体型で白く美しい肌、それから艶のあるサラサラした髪わをしていて、あたかも鶴を思わせるような美女である。
彼女は言う。
「数日前に助けていただいた鶴です。あなた様に恩返しをしたくてやって参りました」
まさか本当にこんな非現実的な事が起こるなんて予想していなかった男性は驚いた。しかし、これはチャンスだと思い、家へ誘うことにする。
「じゃあ、家に来るといい。あなたのしたい事を好きなだけ恩として返してくれれば私は満足だ」
もっと強欲になれば良かったと少々後悔するが、まぁいいやと割り切った。
その夜、鶴は「この部屋を使わせていただきます」と言って物置部屋へ入る。もちろん、部屋を勝手に開けるなという忠告を受けた。
男性は好奇心だけでその部屋を覗くことはしない。どんな恩が返ってくるのか楽しみで眠れず、気がつけば朝になっていた。
物置部屋へ近づいて耳を澄ましてみたが何も聞こえない。
どうしたのだろうと思い、ドアをノックしてみる。返事は無い。嫌な予感がしてドアを開けようとするも、内側から鍵がかかっている。鍵を引き出しから取り出してドアにはめ込む。
回すと、カチャッという音を立てる。ドアノブを捻りドアを開けた。すると、そこには誰もおらず、窓から流れてくる風にカーテンが揺れているだけである。
その物置部屋に置いてあった盗品のほとんどが無くなっていて、ようやく思い出す。
鶴を助けるほんの数日前、男性はある家に侵入して金目の物を盗んだ。たしか、その家の主が妻のことを『鶴』と呼んでいたのだ。