1.コレクション
僕は今、家出中だ。
昔から両親が大嫌いだった。国会議員の父は頻繁に失言や女性関係の事で問題を起こし、僕は父が問題を起こすたびに学校でからかわれて転校をしなければならなかった。そして、父は機嫌が悪いと僕や母に理由もなく暴力を振るった。昨日も父は週刊誌に『失言ばかりの国会議員、今度は秘書に暴言暴力!!』という記事を書かれた事で機嫌を損ねていて、僕と顔を合わせた途端「子供は早く寝ろ!」と頭を2、3発殴られた。
母は父に暴力をふるわれるストレスを僕にぶつけてくるから嫌いだ。母のストレスが溜まっているときに僕が勉強もせずにのんびりテレビを見ていると、「あんたは、人間の欠陥品、私の子供じゃない。私の子供を返せ」と意味不明な嫌味を言われる。
大人二人して小学四年生の子供に当たり散らして大人げないとは思わないのだろうか?とにかく僕は今の家庭環境に嫌気が指して、お小遣い全額と家にあった非常食のフルーツの缶詰を持って家を飛び出した。お小遣いは全部で5000円あったし、当分は公園なんかで寝泊まりをして食料は缶詰で何とかなると思った。しかし、僕の思い通りにはならなかった。
缶詰はカンヌキが無くて開けられず、僕の活動資金の5000円はカンヌキや野宿のためのレジャーシート、毛布代わりのひざ掛けを買ったら無くなってしまった。持ち金がなくなるまで3日も掛からなかった。
僕は途方に暮れて、駅前のベンチに座っていた。駅前のデジタル時計には22:35と表示されている。冬ではないから凍えることは無いが、9月下旬の夜は意外と寒い。
僕の前にはまばらながらも通行人がいたが、彼らは僕に気がついても怪訝そうに見るだけで何も声をかけずに通り過ぎていく。1人くらい僕を一晩泊めてくれる人が居てくれてもおかしいのに日本人は冷たいものだな、、と自分勝手な事を考えていたその時だった。
さっきから僕の方をジロジロと見ていたおじさんがこちらに近づいてきて言った。
「君、もしかして家出かい?良ければおじさんのお家においでよ。」
僕は先程までの考えを撤回し日本人もまだまだ捨てたものじゃないと思い直した。僕はなんの疑いも持たずに首を縦に降ったを僕は後にこの時の自分の判断を酷く後悔した。
おじさんの家はとても大きかった。マンションに住んでいる僕の家の3倍は広そうだ。おじさんは、僕のためにオムライスを出してくれた。母が作るオムライスよりも、なぜか少し苦い気がしたけど、美味しかった。
「ごちそうさまでした。」
僕がオムライスを食べ終わった時、おじさんはお手洗いに行っていた。トイレから「うーん、こりゃ完全にお腹を壊した…。やれやれ、しばらくトイレから出れそうにない」と聞こえたので多分しばらくトイレから出てこれないのだろう。
僕は、空腹が満たされて家に入ったときには気にならなかったある匂いが気になり始めていた。どこからか薬局で嗅ぐ匂いーーつまり薬の匂いがしてくるのだ。
おじさんはトイレから出てきそうに無いし、僕は嗅覚を頼りに匂いがどこからしているのか退屈しのぎに確かめることにした。
クンクン…クンクン…
どうやら匂いは地下室からするようだ。僕は一般家庭に地下がある事に驚き、そして強まる好奇心を満たすために地下室に入った。そして、、そして、、入らなければよかったと思った。
地下室にあったのは、大きな培養機が10機。そして、その中には僕と同じくらいの少年少女が何体か入っていた。培養機に衣服も身に着けずに入っている様子はまるで理科室にあるホルマリン漬けの動物みたいだ。
僕は、吐き気を覚えて後ずさりする。
ドスン!!
何かにぶつかり後ろを振り向く。そこにいたのはトイレに入っていたはずのおじさんだった。
「私のコレクションはどうだい?良いだろう?君も間もなくそこのコレクションに追加されるんだよ、ムフフ」
小学生の僕でも分かる、このおじさんはやばい人だ。
僕は、おじさんの脇を走り抜けて逃げようとした。しかし、おじさんに腕を掴まれて逃げれなかった。僕はおじさんを蹴って逃げようとしたが、おじさんは左手で僕の腕を掴んだまま、右手でお尻や腰を触り、ニヤニヤしている。
「やっぱり、コレクションにするなら小学生が一番だよね。思春期になると汚らしい髭とかが生えてきて、汚れるし。君は、永遠にその姿で保存されるんだよ、僕に感謝してね。あ、そうそうさっきのオムライスには大量に睡眠薬入れておいたから。逃げようとしても、もう君は袋のネズミだよ。うーん、君は少し薬の効果が遅いな。よし、早く眠れるようにしてあげよう。」
おじさんはそう言うとどこからか注射器を取り出し、抵抗しようとする僕の腕に透明な液体を注入した……………。
おじさんは、リビングでニュースを見ていた。
「山本議員の息子の裕太君、小学四年生が1週間前から行方不明になっています。警察は誘拐と、失踪の疑いで捜査していましたが身代金の要求が無いことから失踪事件と判断し、公開捜査に踏み切りました。」
画面には裕太くんの顔写真が表示されていた。
おじさんはこの前新しくコレクションに追加した少年が誰なのか確信を持った。おじさんは、テレビを消して地下室に続く階段を振り返りニヤリと笑った。
幽霊や妖怪による怖さというよりは人間の怖さ…と言うか気持ち悪さを描いてみました。