第三話 デートの行き先はメイド喫茶?
【今日のメモ】キャラクター紹介 その3
プリシア
圭斗が創作で描いた女魔導士のオリキャラ。
肩まで伸びる銀髪。透き通るような蒼色の瞳。
銀髪美女最高です! 二つの果実は林檎よりも大きい。
(ファンアート提供:なかはら様)
「ケイトさん、先ほどはすみませんでした! 私、神様に酷い事を……」
「ははは、大丈夫だよ、これくらいどうって事ないから」
打たれた頬を押さえながら並木道を歩く俺とパーカー姿の女子。尚、今はパーカーを閉じているため、下着は見えていない。すれ違う人々の視線がこんなにも気になるものなのか。『隣に居るのが俺の彼女だぜーいいだろー!』という気持ちになるかと思いきや、むしろ絶世の美女の隣に居る場不相応な俺とをつい見比べてしまう。
きらきらと瞳を輝かせ、キョロキョロと街の様子を見渡すエリナさん。いや、そんなにキョロキョロしていると余計目立ちますよ? ほら、今すれ違った学生も振り返ったよ。パーカーの隙間からちらっと見える若草色の髪も目立つからなぁ……。
「ケイトさん、凄いですー。見た事ない建物がいっぱいですー!」
「いやぁ、喜んでくれてよかったよー」
いや、とりあえずまだ歩いているだけで何もしてないんだけどね。住宅地の街並みが珍しいらしい。駅前の商店街まで来ると、さすがに大勢の人々が行き交っている。さて、どうしたものか……?
「先生ーー! デートってどこに行けばいいんですかー? 神様ー? 女神様ーー?」
―― そんなもの自分で考えなさいよ
ん? 今空から何か聞こえたような……。
「ケイトさん? 神様はケイトさんですよ?」
エリナさんは俺を未だに神様扱いだ。だいたいデートに行くならココ! って、学校では教えてくれないからね。普段は学校とバイト先と家の往復しかしていないのだ。後はたまに漫画やゲーム買いに行く位で……。
「あ……」
「どうしました?」
いや、あそこなら、問題ないかなと……。思いついた俺が向かった先は……。
「「お帰りなさいませーーご主人様! お嬢様ーー!」」
色とりどりのメイド服にフリフリの清楚な純白のエプロンにヘッドドレス。可愛らしい声で出迎えてくれた侍女達。『メイド喫茶、ファンシーラブ』。あ、いえ、自分、決して常連ではないですよ? あ、誰も聞いてないですね。
「ケイトさんー、神様の世界にもメイドさん居るんですねー!」
メイド喫茶なら、エリナさんも馴染むかと思い、入ったのは正解だったようだ。ちなみに今、パーカーのフードは被っていない。美しい若草色の髪とピンと尖った耳がエリナさんの美しさをさらに引き立たせる。
「ご注文はいかがなさいますか? エルフのお嬢様!」
淡い水色のメイド服を来た女の子がお水を持って駆け寄って来る。他のメイドさんや椅子に座った他のお客さんからも『あれ、ヤベーな』『凄いー本格的ーー』『隣の野郎爆発しろー』なんて声も聞こえて来る。メイド喫茶内ならコスプレと思われるからね。完璧だ。
「私がエルフって分かるんですね! 注文……ケイトさん、どうすれば?」
メニューを逆さまにしたままの状態でじーっと眺めているエリナさん。あ、会話は変換されても、文字までは読めない訳ね。
「どうしようかな……俺は女神の恵みセット、ドリンクはアイス珈琲で。エリナさんケーキ食べます?」
そう聞くや否や、先程まで嬉しそうにしていたエリナさんの表情が、急に青ざめている。
「ケイトさん……ケイトさんは私に試練をお与えになるというのですね。それがお望みでしたら私は従うまで……」
ん? 様子がおかしい……ケーキ嫌いなのかな……。メイドさんも困っているぞ。
「―― 感動しましたわ!」
「メイド長!」
困っているメイドの後ろからブロンドの髪をくるくる巻いたお嬢様スタイルのメイドさんが現れる。凄い。これは異世界のエルフとお嬢様メイドの共演だ。
「お嬢様! うちのメイドが大変失礼致しました! 私はメイド長のエリザベスと申します。その若草色の髪と尖った耳、素敵ですわ。ご主人様、失礼を承知で申し上げますが、エルフのお嬢様はケーキを食べる事は出来ないハズですわよ? お姿だけでなく、エルフとして品行方正まで完璧。お嬢様、私にお任せ下さいませ!」
「エリザベスさん、ありがとうございます!」
そうか、エルフが肉や魚、動物から産み出された物も食べる事が出来ないという事をすっかり忘れていた。目の前に本物が居るなんて経験普通ないしね。恐らくメイド長は、エリナさんの姿と様子を見て、エルフという役を演じきっていると思ったのであろう。でも、メイド長はどうするんだろうか? ケーキやパフェ、オムライス……どれも提供出来ない筈だ。
しばらくすると、エリザベスさんがケーキセットらしきお皿を運んで来た。
「お待たせしましたー! 女神の恵みセット、大地の祝福スタイルです」
紅茶から柑橘系の香りが漂ってくる。こちらはレモンティーだ。問題はケーキだが、チョコレートケーキのようにも見える。エリナさんが不安そうな表情を浮かべる。鼻をくんくんとさせ、じーっと顔を近づけてケーキを見つめている。
「こ、これは?」
「えっと、エリザベスさん、大丈夫なんですか?」
「ふふふふ……食べてみたらわかりますよ?」
「確かに、卵の香りも、クリームの香りもしません。むしろこれは……」
両手を握り、祈りを捧げるエリナさん。何か呟いている。恐らく食べる前の祈りだろう。ケーキをナイフで一口大に切り、フォークで口に含む。しばらく目を瞑り、味を噛み締めている美女。そして、頬に右手を当て、至福の表情となった。
「おいひいですぅーーお砂糖の甘みとカカオーネとココアンダーのビターな風味が相まって、ちょっぴり大人の階段を上ったような気分にさせてくれる……ケーキってこんなに美味しいものなんですね! 感動ですーー」
「あの? エリザベスさん?」
すると、エリザベスさんが小声で耳打ちしてくれた。
「本来このケーキはアレルギー対策なんですよ。エルフのお嬢様がこうして来店して下さったのは初めてですが、卵も乳製品も一切使っておりません。砂糖も三温糖や黒糖などの複数の砂糖を使い、ココアパウダーやカカオパウダーで味を整えております。彼女さんにぴったりでしょ?」
レモンティーとケーキを満足そうに食しているエリナさんはまさに女神だった。……って彼女さんという言葉に顔が赤くなってしまう俺。
「お気に召していただけて光栄ですわ。ご主人様、お嬢様、ごゆっくりお寛ぎ下さいね」
メイド長の口調に戻り、エリザベスさんがお辞儀をする。この後ゆっくり俺とエリナさんは至福のひと時を楽しんだ。
「「行ってらっしゃいませー! ご主人様、お嬢様!」」
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「ケイトさん、今日は楽しかったですー! ありがとうございますー!」
「楽しんでもらえてよかったよ。俺も楽しかったし」
エリナさんは両手でやっと抱える事が出来る大きさのにゃんこクッションに顔を埋め、モフモフしながら歩いている。もう、隣にこんな美女が居るだけで幸せだ。メイド喫茶を後にした俺とエリナさんは、街をブラブラし、途中立ち寄ったゲームセンターでにゃんこクッションをゲットした訳だ。にゃんこの前で瞳をキラキラさせるものだから、ちょっと頑張ってみました。財布の中にいらっしゃった紙幣さんが何枚か飛び立っていったとかいないとか。やがて、家へ帰って来た俺達。よし、これで任務完了だ。
「ケイトさん、これからもよろしくお願しますね」
「いやぁ、こちらこそ……」
そう言って気づく……。あれ? エリナさん、どうやって還るんだ!?
「今日は少し疲れてしまいました。にゃんこさん気持ちよくて……眠くなって来ました……」
エリナさんはそのまま俺のベットでにゃんこクッションに身体を預け、そのままウトウトし始めていた。そういえば彼女、家飛び出したって行ってたっけ? ……って事は……?
「えーー!? これ、もしかして、同棲生活ーー!?」
俺の心配を余所に、萌え袖の美女はそのまま可愛らしい寝顔で眠りにつくのであった ――