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第6話

 栄邑の街から錦香まで行くには、途中険しい山道を越えなければならない。特段先を急ぐ必要もなかったので、二人は徒歩にて旅をしていた。・・・と言うのは表向きの話で、実際のところは、普段から酒が手放せない張載風が酩酊した状態で騎乗し、落馬した場合を慮った結果として徒歩を選んだのだった。

 当の本人は今までに酩酊した事など一度も無いと嘯いており、それは許尤施も認めるところではあったのだが、一緒に旅する許龍峨としてはそれをそのまま鵜呑みには出来なかった。一度栄邑の街を離れてしまえば、お互いだけを頼りにしなければならないのだから。

「さて、龍峨。とりあえずこうして二人で旅に出ることになった。お前は初めて旅に出るんだから、これからは俺の言う事をきちんと聞いて余計な面倒を起こすんじゃないぞ!」

「載風兄さんこそ、お酒を飲みすぎないでくださいね。“酒入れば舌出ず”って言いますし。」

「ほほぉ〜、尤施殿から教わったのか。栄邑の酒徒にとってみれば、そんな言葉なんぞ丸めてポイッだ。それにな“酒は白薬の長、嘉會(かかい)の好なり”ってな。」

「それを言うなら“百薬”じゃないんですか?」

「分ってないな。いくら酒でも『至心丹』には劣るだろ?だから“白薬”なんじゃないか。百から一を引いたら白だろ?」

「兄さんの為を思って言っているのに・・・ちょっとは真面目に聞いてくださいよ!」

「まるで俺の嫁にでもなったみたいな口振りだな。そういうヤツは一人いれば十分だ。」

「へ〜。ふ〜ん。そうなんだ〜。」

そう言うと、張載風の顔をジロジロと見つめ始める許龍峨。

「なんだ、気持ちの悪い。変な声を出すな!」

「いや、てっきり載風兄さんってそういう事にはあまり縁が無いのとばかり・・・意外にやる事はやっているんだなぁと思って。」

「別にそういう訳じゃないんだが・・・まぁあれだ、そういう口うるさいヤツがいるって事だ。そんな事よりお前の方はどうなんだよ!」

 張載風に尋ねられ、許龍峨の脳裏には黒馬に跨った少女の姿が浮かぶのだった。山道で落ちていた白凰双龍佩を拾った時は、単に善意でしたつもりでいたのだが、自らも気付かぬうちに少女との繋がりを途切れさせまいとする思いがあったのかもしれない。

(何であの娘の姿を思い浮かべたんだろう。孟家から白凰双龍佩を盗んで不影で逃亡しているところを、一瞬擦れ違っただけの見ず知らずの少女なのに。)

「へ〜。ふ〜ん。そうなんだ〜。」

今度は先ほどの仕返しとばかりに、許龍峨の顔をジロジロと見つめ始める張載風。

「お前の方こそ、やる事はやっているじゃないか。隅におけないな。しかし、栄邑にそんな年頃の娘なんていたか?」

「そういうんじゃなくて、ちょっと気になった娘がいるだけですよ。・・・おや、あそこに店があるみたいですね。ちょうど良かった、ちょっと休憩していきましょう!」

「話を逸らしたつもりだろうが、まあ良い。あの店にもどんな“薬”が置いてあるか分らないからな。薬作りは日々の研鑽が物を言うんだ。それじゃあ先に行っているぞ!」

 まるで天命に導かれるかのように、辿り着くべき場所に辿り着く事になりそうだ。

(載風兄さんを関才雲と思ったのは、やっぱり勘違いだったんだな。)

「ちょっと、待ってくださいよ。もう、余計な面倒だけは起こさないでくださいよ!」

そう言いながら先を走る張載風の後を追いかけていくのだった。



 許龍峨が店に着いた時には張載風は既に席を取っており、こちらに向かって手招きしていた。店内は綺麗に掃除が行き届き、備えられた机や椅子も磨き上げられていたので、旅の疲れを癒すには最適の場所であった。街道沿いに他の店が無いため、旅行く人々はここで足を留めることだろう。そう考えると、かなり儲かっているのかもしれない。

 許龍峨が到着するのを奥から見ていたかのように、店主が現れた。

「オヤジ、とりあえず・・・」

「お茶と饅頭を二人前お願いします。まだ陽が高いですから、良いですね?」

張載風の意図を察した許龍峨が、先に別の物を注文してしまった。言外の意味は改めて確認するまでも無い。恨めしそうに許龍峨の方を向きながらもひとますは引き下がった様子の張載風。しかし、油断は出来ない。

「ところで、前からこんな場所に店なんてあったか?おい、オヤジ。聞いているのか?」

「・・・はい、すみません。お茶と饅頭を二人前でしたね。すぐに持ってきます。」

店主の様子に不自然なところはあったが、しばらくしないうちにお茶が運ばれてきた。

「と、とりあえずお茶です。饅頭は今、蒸しておりますので後ほどお持ちいたします。」

「どうしたオヤジ、体が震えているぞ。体調でも悪いんじゃないか?」

「な、なんでもありませんよ。ちょ、ちょっと風邪をこじらせていまして・・・。」

机の上に二人分の湯飲みを並べお茶を注ごうとするが、手元が震えてお茶を零してしまった。机から零れたお茶は、地面に滴り落ちていく。

「も、申し訳ありません。すぐに布巾を用意しますので。」

「もういいですよ。後は勝手にこちらでやりますので、奥で休んでいてください。」

「顔色も悪いし、すごい汗だ。相当ひどい風邪みたいだな。これでも飲んでおけ。」

張載風は荷物の中から『至心丹』を取り出すと、店主に手渡した。店主は礼を言って薬を受け取ると、奥へと引き下がっていった。

「さあ、さあ。不貞腐れていないで、お茶でも飲みましょうよ。」

「お茶なんか馬鹿らしくて飲んでいられるか!こうなったらやけ食いだ。饅頭はまだか?」

 しばらくするうちに、店の奥から饅頭の良い匂いが漂ってきた。それにつられるかのように野良犬が一匹、店の前にやって来ていた。

「あら〜、今日は珍しくイイ男が来ているじゃない?それも二人も。」

 先ほどの店主とは違い、店の奥から姿を現したのは妖艶な雰囲気を持つ女だった。こんな店にはそぐわない煌びやかな衣装を纏い、微かに白粉の匂いがした。出来たての饅頭を載せた皿を手に持っているところからすると、この店の者なのだろう。

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