下ロス凶刃ハ誰ヲ裂ク
活人剣という言葉がある。
江戸時代の侍達の思想だ。
俺は幼い頃から彼らの思想に憧れ、かつて剣道業界から剣聖と呼ばれた祖父から剣を習っていた。
今更だが、家族について話そう。
祖父は元剣聖。
父はルーン魔術師。
母は元巫女。
祖母は陰陽師。
こんな異常な家庭で俺は育った。
おかげで日々の生活は苦労してない。
俺が開発した呪術とルーン魔術を組み合わせた術式を使えば森羅万象を司る力を得ることができるからだ。
火を起こせる。
水がだせる。
電気も自分で作れる。
...ガスや電波はどうしようもないから契約している。
とにかく俺は侍にしても異常だし、魔術師としてもかなり異常なのである。
よって俺の存在は禁忌とされ、決して一族の名簿に載ることは無いのである。
壁に対して両手両足を思い切り叩きつけることで衝撃を殺す。
だが、それでも1m近く体がめり込んだ。
「ガッ――!」
血液が逆流し、口から零れ出てくる。
「クッ...『Show me my health.』!」
この魔術は自分の身体や内蔵の損壊率を数値化し、網膜に投射するという魔術である。
(内臓損壊率...25%。だが、この程度なら戦闘続行に支障はない...!)
大太刀を握りしめ、ゆっくりと起き上がる。
「おいおい、ボウズ」
顔を起こすと、
、、、、、、、、、
目の前に首相がいた。
「宣言するぜェ。オレはおめぇを、
、、、、、、、、
4発目で必ず殺す!」
「ッ―!」
後ろに飛ぶが少し遅かった。
ゴォッ!!という風切り音と共に常人なら一撃で殺せる拳がとんでくる。
大太刀でいなしつつ反撃しようとする
が、
ガギンッ!!
弾かれた。
刀が人の拳に弾かれた。
この事実は社を動揺させた。
「んじゃ、もう1発喰らっとけや。青二才」
ドガァァン!!という爆音と同時に社の体が文字通り再び吹き飛ばされる。
「ゴフッ―!?」
口から血が溢れ出る。
肺をヤったらしく自分の血液で窒息しそうだった。
息をする間もなく、首相が追撃してきた。
「『Protect me by everything.』!!」
社の目の前に『結界』と書かれた表示が現れ、首相の拳を防がんとする。
ゴギャッ!!ベキベキッ!!
インパクトの瞬間空間が震えたのがわかった。
辺りにとんでもない衝撃が生まれたが、なんとか防ぎきったようだった。
ヒュ〜、と口笛を吹く首相に対し、社はまだ地面に這いつくばったまま。
現状は変わらない。
このままだと残り2発をあっという間に叩き込まれ、社は死に至るだろう。
が、
「...気が変わった」
社は初め首相が何を言っているのか分からなかった。
「...お前...な、に...言って...?」
「だァーかァーらァー、気が変わったっつってんだろうがよォ」
そう言って奴はぶらぶら手を振り出す。
「じゃァーなァ、魔法剣士。また殺し合ぉゼェ」
スタスタ、と官邸の外に首相が出た瞬間、社の意識は途絶えた。
私は混乱している。
ついさっきまで愛しの先輩と殺し合いをしていたと思ったら、いつの間にか彼の家に治療の為運び込まれていたことに。
(うわ、うわ、どうしよう?)
かぁ〜、と顔がちょっと赤くなるのがわかる。
だが、私は感情表現が苦手のため表に出ることはないだろう。
校内のポーカー大会(非公式)では負け無しという伝説も持っている。
しかし、なぜ彼と殺し合いをしてたかというと...
まあ、物凄く身勝手極まりないのだが。
先輩との距離を縮めたかったからである。(無論、そのことは彼に言わないつもりだ)
彼女――藍は何かとアタックが強いと言われたことがある。
彼女に好かれた人は、彼女に飽きられるか殺されるかしないと決して逃れることができないという...
それにしても...。
戦っている時の先輩は私が知っている普段の先輩とは違う気がした。
いや、違った。
人に銃器や刃物を向けることにあまり躊躇していなかった。
私はおぶってくれている先輩を改めて見る。
どうみても普段と全く変わらない自分が大好きな先輩だった。
だが、
それでも、
この人はいつかどこか遠いところに行ってしまう、
そんな気がした。




