振ルウ刀ハ、誰ガ為二
「何で止めたの?」
記憶をなくした少女は彼女の自殺を止めた男を涙目で睨んだ。
「ねえ、どうして?」
男は答えない。
ギリッと歯ぎしりするだけだ。
「貴方のことも私はちっとも覚えていない。あなたの思いに答えれないのにどうして...?」
「うるせぇ...」
男は低く唸った。
「例えお前が記憶を無くしていたとしてもお前はお前だ!それだけの話だ!何で2度もお前が死ぬような思いをしなけりゃならない!?馬鹿なことはしなくていい!お前は生きるんだよ!生きて欲しいんだよ!俺にとっての生きる理由に、日々人として暮らす為に!」
ああ、そうだ。
俺はかつて大罪を犯した。
たった1人の少女の為に、
数十万人殺した。
それ以外に理由もなく、やがてその理由すら忘れ
ひたすら、ただひたすら殺していた。
人殺しは良くないと言うが、
どうしても殺さなきゃいけない場面ってあるんじゃないのか?
例えば殺人鬼がナイフを持って突っ込んできた時。
そいつの殺さなきゃ世界が滅ぶと知った時。
大切な人がもう楽にして欲しい、と懇願してきたとき。
大義の為の殺人、存命するための殺人、救う為の殺人。
それらは全て正しい行為なのだろうか?
赦される行為なのだろうか?
神は答えない。神は教えない。神は与えない。
裏特殊部隊達の攻撃は激しさを増していた。
彼らの使用する89式小銃の弾丸は正確に男――社を捉えている。
だが、全て彼の持つ大太刀が弾いていた。
踏み込む、斬る、刺す、切り裂く、跳ね飛ばす。
あっという間に血の海ができあがる。
だが、裏特殊部隊の面々は一人欠けたところで、態勢を崩すことなく決まったフォーメーションで攻撃を続けてくる。
負傷した仲間など目に入っていない。
彼らの目は対象のみを捉える。
まあ、見るが最後、顔面に刃を突き立てられ絶命するのだが。
「大したことないな。裏特殊部隊とはいえどやはり所詮ただの軍人の集まりだ。」
裏特殊部隊は呆気なく全滅した。
だが、同時に違和感がある。
人員が少なすぎる。
一人とはいえ、彼は魔術剣士と呼ばれたことがあるような猛者である。
30人の配備で勝てるわけがない。
「そう、こいつらはただの囮だ」
「ッ!?」
気配がなかった。
話さなければ恐らく気付くことすらなかっただろう。
反射的に背後の男にナガンM1895を構える。
「お前が首相か?」
「『お前が首相か?』ハッ!」
鼻で笑われた。
「ンなもん見りゃあわかんだろーが。おめぇーの目は節穴かっつーの」
ゲラゲラ笑う男。
...とても総理大臣には見えない。
こいつは丸腰だ、殺れるか...?、
「おいおいボーズ、余所見はよくねーし見縊るのはもっと良くねぇ」
こちらの心境を読んでいたのか、首相は苦笑している。
刹那、社の視界から首相が消えた。
「!!」
遅れてドゴォッ!という音とともに彼の腹部に拳が突き刺さっているのがみえた。
「殺れるもんなら殺ってみろよ。クソガキ」




