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鉄壁→転生  作者: キール
第一章
6/6

-4話- ギルド→クエスト(後編)

「ふぅむ、そんなことがのぅ……。ご苦労じゃったな。礼を言う」


レセックさんの店に戻り、事のあらましを話す。

俺が立てた憶測はおおよそ正解だったらしく、レセックさんはある程度ハニーベアと共存していたらしい。

はちみつの出来を見てもらうのと、はちみつを食べさせてもらうというWIN&WINの関係だったそうだ。


しかし、それもどちらかが侵略してくれば別問題。だから、今回はハニーベアの討伐を依頼したそうだ。

ハニーベアとレッドキャップの争いの方はそれこそ本当に憶測でしかないのだが、レセックさんは納得したように大きく息を吐き、頭を下げた。


「して、リッカ殿が抱いているその仔が件の……」

「はい。流石に放っておくことも出来ないし、何より懐いちゃったみたいなので」


あの後リッカに『パンプ』と名付けられた子グマが、彼女の腕の中で愛くるしく鳴く。

俺たちがレッドキャップと戦っている間もずっとパンプを宥めていたからか、すっかりリッカに懐いた様で、親が居なくなった寂しさを埋めるように彼女に甘えていた。

リッカの方も満更ではないらしく、口に出したら怒られそうだから言わないが、大分似つかわしくない雰囲気で優しくパンプの頭を撫でる。

初めてパンプを見た時の弾けっぷりは何処に行ったとツッコミたくなるが、リッカなりにパンプに気を使っているのだろう。


ただ、問題点はコイツをどこで世話するかだ。

リッカに懐いている以上レセックさんのところに預けるのは難しいだろうし、それ以前に自分たちが拾ってきて押し付けるというのも忍びない。

その点はリッカも分かっているようだが、どうしたものか。


「んー、それならわたしの工房でお世話するの。それなら問題ないの」

「は、工房? どういうこと?」

「散らかさないなら別に問題ないの。わたしもパンプのこと気に入ってるし、賑やかになるのはいい事なの」

「いや、そうじゃなくて工房ってどういう」


俺の質問にふふんとやはりやる気の見えない表情で笑う。


「リョーくんに初めて会って、勧誘した時に言ったはずなの。『今なら家も服もあって3食におやつまでついてくる生活を保証する』、と」

「ウッソだろお前、それマジの話だったのかよ」

「アウセットに来るまで振り払ってきた火の粉共をギルドで換金しようとしたらそれはそれはお金が手に入ったの。軍資金として実家からくすねてきたお金と合わせると1軒小さなお家が買えて、実験器具を買い揃えてもお釣り来る程度には、なの」

「なんですと」

「今はミーちゃんと一緒に暮らしてるの。ねー」

「ねー」


クーとミーフィアがいつものやり取りをする。

つまりなんだ、このロリっ子はこの歳にして安定した衣食住の元暮らしているというのか。


「街に帰ったら話そうと思ってたし、この際丁度いいの。リョーくんとリッちゃん、パンプもご招待なの。それぐらいの空き部屋はあるの」


しかし、俺とて二十歳の立派な大人。流石に十三歳の女の子の世話になるというのは世間体的にどうなのだろうか。

……完全にアウトな奴だろ。現代日本じゃ社会的抹殺待ったなしだぞこんなの。


「お、すまんな。じゃあお言葉に甘えて」


それがどうした。プライドで飯が食えかってんだ。安定した生活のためならそんなことは些細な事だ――!

俺の中で何かが瓦解したような気がするがそんなの関係ない。

支度を整える意味合い的にも宿代がケチれるならそれに越したことはない!


「予想以上の二つ返事でわたしびっくりなの……。リッちゃんはどうなの?」

「クーが問題ないっていうなら、アタシも世話になろうかな。パンプのこともあるし」

「なら決まりなの。これで我が家も賑やかになるの」


むふー、と満足気に息を吐く。その顔をを見られただけでもこの誘いを受けたのが間違いなんかじゃなかったって思える。

……別に俺の不甲斐なさを正当化したいが為ではない。決して。


「ふむ、どうやら話は纏まったみたいじゃの。その仔を引き取るのも吝かではなかったが、懐いている者に付いて行った方がその仔も幸せじゃろて」


髭を撫でながら、レセックさんは優しい笑みを浮かべる。

パンプの元気な鳴き声が、店の中に木霊した。


―――

――


 あの後、パンプの食料とクーの嗜好品を兼ねてレセックさんからはちみつを買い取り、店を出た俺たちはアウセットの街に戻ってきていた。

時刻は四時。日が傾きかけた今もなお、アウセットの賑やかさは衰えていなかった。

むしろ、夜は酒場が活気付く時間帯だ。これからの方がもっと騒がしくなるだろう。


「着いたの。ここがわたしのお家兼工房なの」


そんな騒がしさも聞こえない、町外れの小さな二階建ての洋館。レンガ造りの町並みにはなかった木製の風貌は、どこか寂しさを感じさせる。

聞けば、街から離れているし、祓っても祓っても幽霊が住み着く曰く付き物件な上、こんなところぽつんとある家なんか誰も買わないってんですごく安くなっていたそうだ。


クー曰く霊的な物が宿る家は魔力も宿り研究が捗る為、即買いだったそうな。

しかし、やはり苦手なものは苦手らしく、買って初日で後悔。

苦手なものでも毎日触れ合えばそのうち慣れると思ったが、そんなことはなかったとのこと。

そんな時にミーフィアが来たものだから、家に招待するついでに除霊をお願いしたらしい。


今まで教会の人が祓っても祓っても構わず住み着いていた幽霊が来なくなった所を見るに、レイヴンの才能を垣間見る。

魔導の民と呼ばれる所以がそれだ。高い魔力と知力を持ったレイヴンは様々な魔法に精通する。それは神聖な女神の祝福とて同じらしい。

まぁ、始まりの街なだけあって、そこまでレベルの高いプリーストが居なかったというのもあるだろうが。


「さ、入るといいの。ミーちゃんのおかげでもう幽霊も出ないし、快適空間だと思うの」


誘われるがままに家に入り、家の中を探索する。

成る程、確かに思った以上に広く、快適だ。


一階に広めのリビングとキッチン、トイレ。そして驚いたのが小さいが、風呂まで完備されていることだった。

こんな世界だし、風呂に入れないのは覚悟していたのだが、こんな世界だからこそ風呂が簡単に入れるらしい。


水は魔法で作り出せるし、火も魔法で起こせる。戦闘が得意でない魔法使いも中にはいるため、そういった人たちが自身の研究の資金を稼ぐために風呂屋を経営するなんてこともあるそうだ。

あと、勘違いしていたが、ロールはこれになりたいからなる、では本来出来ず、ある程度の素養とステータスが揃っていないとなれないらしい。

その為魔法使いになれる人も自ずと限られてくるためそういった風呂屋に需要があるとのこと。


それならなんでこんな家に風呂が、と思ったがどうやら前の持ち主はその戦闘向きではない魔法使いだったらしく、それで風呂を設置していたらしい。


二階には五部屋あり、一つはクーとミーフィアの寝室にもう一つはミーフィアの私室。後は何も置いていない空室だった。


「この部屋を改装して、二人の部屋にするといいの」

「おう、ありがとうな。……ところでクーの私室はないのか? 仮にもお前が家主だろうに」

「リョーくん、流石に女の子のお部屋が気になる発言はちょっと照れるの」

「や、そういう考え微塵もないから」

「むぅ、つれないの。まぁいいの。わたしのお部屋は地下にあるの。そこが研究室兼わたしのお部屋。結構危険地帯だから許可無き侵入は厳禁、なの」

「ちなみにどれくらい危険なんだ?」

「素人が下手するとお家がボンッてなっちゃうの」

「よし、許可が出ても絶対に入らないから安心しろ」


そんな爆薬庫みたいなところ誰が入るか。女の子の部屋に入るドキドキよりも爆発物に対するドキドキのほうが勝っているわ。


「さて、早速掃除……といきたいところだが夜の依頼もあるしなぁ。どうするか」

「まだ、時間もありますし、お夕飯はわたしが用意しますので、その間にしてしまったらどうでしょう?」

「助かる。んじゃぱぱっとやっちゃいますか。ベットも何もないのが少々心もとないが、その分掃除は楽そうだ!」

「そこら辺は明日買い揃えるか。レセックさんの口添えでレッドキャップの報酬もそれなりに上がるだろうしな」


そう、帰る直前にレセックさんがギルド宛にレッドキャップの被害届を出すと言ってくれたのだ。

確かに、レッドキャップの所為でハニーベアが凶暴化。養蜂所にも被害が出ているので理にかなっている。

その報告があれば、きっとそれなりに金額が上がっているはずだ。


「ところで、パンプはどうするんだ?」

「んー、しばらくアタシの部屋で面倒見て、後で庭に小屋を作るか」

「大丈夫なのか、それ……」

「大丈夫だろ。はちみつさえ絡まなければかなり大人しい子だぞ」


いやまぁ、リッカの腕の中でウトウトしてるの見れば一目瞭然なんですがね?


「問題は寝床をどうするかだな。ベットもないし、当分適当に床とかリビングのソファーで毛布に包まることになるが」

「雨風防げる分野宿よりはマシだろ。あと、ソファー使うならリッカが使え。俺は床でいい」

「あー? リョウマが一番体張ってるんだからアンタが使えよ。ダメージ負わないとはいえ結構キツイだろ」

「そんなのいくらでも我慢できるわ。舐めんな。というか、女の子を床に寝かせといて自分はソファーで寝るなんて出来るか」

「バーカ、二晩野宿しただけで風邪引く奴のことなんざ信用できるか。いいからソファーで寝ろ」

「うぐっ、痛いところ突いてくるじゃないか。だが、フェミニスト振る気はさらっさら無いが、こればっかりは譲らんぞ」


両者譲らず。しかし俺にもプライドってもんがあるんだ。ちょっと前にかなぐり捨てた気がするけども!


「いいからリッカがソファーで寝ろ! どっちが野宿慣れしてるとか、そういうの関係なしに俺の気が収まらん!」

「いいや、アタシもこれは譲らないね! リョウマに体調崩されでもしたら仲間としても所有主としても心配だ!」

「あ、お前しれっと俺の所有権主張すんな! まだお前の物になった覚えはねーぞ!」

「うるせぇ、そのうちそうなるんだ! 今から主張しても問題無いだろ!」

「大有りだよ!? 俺にも人権ってものが有るんですー!」

「あーもう、うだうだうだうだ! アタシは床で寝る! これは決定事項だ!」

「よーしわかった。じゃあ床で寝てるのをこっそりお姫様抱っこしてソファーまで運んでやるから覚悟しやがれ」

「 !? や、やめろ! なんかすっごい恥ずかしいぞそれ! 本当にやったらぶん殴るぞ!?」

「ふははははは! リッカの拳が我が防御力を貫けるとお思いか!」

「くぅぅぅ! 畜生、敵に回すと厄介極まりないなお前!」

「なんとでも言うがいい。今の俺はリッカをソファーに寝かせるという鉄の意思を以って行動するぞ……!」


リッカが悔しそうにたじろぎ、こちらを睨む。しかし、諦めたように深く溜息をついてソファーで寝る事を承諾してくれた。


―――

――


 掃除を終えて日も暮れた頃。ミーフィアが作ってくれた料理を頂く。

率直に言うとミーフィアの料理は素晴らしく美味だった。というか一番驚いたのが、洋風系かと思ったら和風系の料理が出てきたことである。

こんなところで日本の食文化を味わえるとは思ってみなかったので感動した。

聞けばレイブンの伝統料理らしい。時系列とかどうなってんのか謎だが、レイブンの祖先は俺以前の転生者のものなのだろう。

実際日本人的特徴してるし、その線は強いかもしれん。ただ、そのことを彼女らが知らない当たり、もしかしたら違うのかもしれないが。


そんなことを思いつつ、女の子の手料理とかいう日本に居た頃には体験し得なかった素晴らしいイベントをこなした後、俺たちは最後の依頼をこなすために教会まで足を運んでいた。

勿論パンプは留守番だ。夕飯を食べてからすぐグッスリだったため、泣きつかれることも無かったのも大きい。


依頼内容は教会に蔓延る死生者たちの討伐。最近になって教会の共同墓地に死生者が現れ始めたそうだ。

簡単な話をシスターから聞いた後、共同墓地へ。

ちなみに死生者は基本、昼間は洞窟や地面の中に潜み、夜になると活動しだす魔物だ。これはレブナント以下の死生者たちに通ずる共通点だ。だから今回の依頼は夜に行う必要があったわけだ。

ワイトクラスともなると、成り立てはともかくある程度期間が経つと昼間でも余裕で行動できる上に外見が少し青白い程度で生きている人間と何ら変わりないというのだから質が悪い。


『ナイトウォーク』の効果で昼間のようにくっきりと見える墓地を見渡す。


「リッカ、『サーチサイン』に反応は?」

「結構いるな。……前方に七、左右に四ずつ。計一五体だ」

「多いな……。今回の敵はミーフィアとクーに任せっきりの戦闘になるが、大丈夫か?」


死生者は熱感知してくる魔物のため『サインブロック』は通用しない。しかも『デコイ』による囮作戦も効きづらい。

心の何処かで救われることを願っているからか、プリーストに群がる習性を持っているからだ。

その為俺のカバーが遅れるのを避けるためある程度敵の位置を把握しておく必要がある。

もっとも、セイヴァーまで俺もロールチェンジできればそれなりに引き付けることも可能であるが、まだまだ先の長い話だ。


後方に構えるミーフィアとクーに確認を取ると二人はやる気満々といった様であった。


「問題ありません。それが私達プリーストの仕事ですから」

「くふふー。数が多ければ多いほど吹き飛ばしがいがあるの」

「言っておくが、こんなところでデカイ魔法使うなよ? 近所迷惑な上に墓を荒らす訳にはいかん」

「わ、分かってるの。言ってみただけなの」

「おい、何ちょっと悔しそうにしてんだよ。お前俺が言わなかったらブッパしてたろ」


ジロリとクーを睨むも、吹けもしない口笛を吹きながらそっぽを向く。


「昼間俺ごと吹き飛ばし……いや、叩き潰した? まぁ、魔法ブッパしたんだからサポートに徹しなさい!」

「むぅ。分かったの。ただ、ある程度は逃しちゃうから、その時はお願いするの」

「分かってるわかってる。何もしない訳にはいかないからな。後ろは任せとけ」


おぉ、と女性陣から感嘆の声が上がる。というか今のセリフ結構盾職らしいセリフじゃね? なんかちょっと充足感が有るぞ。


「やっぱり後ろにリョウマさんが居るというだけで安心感が違いますね」

「だがまぁ、調子に乗るのが悪いところだな。もうちょっと謙虚になろうぜ。それ以外なんも出来ないんだから」

「あ、お前俺が気にしてることサラッと言うなよ。傷つくぞ。肉体は鋼でも心はガラスだぞ、俺」

「敵に恐れず向かう精神力はあるのに、暴言には弱い……。リョーくんてば、強いんだか弱いんだかはっきりしないの」

「なんかまたしれっと心にグッサリ来るお言葉を投げられた気がする」

「気のせいなの。誰もリョーくんの事をはっきりしない中途半端な男だなんて思ってないの」

「わぁい毒舌ぅ! 俺のハートにクリティカルダメージだぜ!」


くそぅ、いい所見せられたんじゃねとか思った途端コレだよ。

というかクー。お前ブッパ封印されたの地味に根に持ってるだろこれ。そんなに高火力魔法撃ちたいのかこの火力厨め。


「おい、そろそろ騒ぐのはよせよ? 聴覚がもう殆ど機能していないとはいえ、ある程度騒いだら気付かれちまう」

「くっそぅ、誰のせいだ誰の。……まぁいい。んじゃ手はず通り、行くぞ」


その言葉に各々託された仕事を開始する。

作戦自体は簡単だ。ミーフィアがアンデットの浄化。クーがその支援。リッカが周囲の警戒をしつつ俺に敵情報を教える。そして俺はその情報を元に全員のカバー。特に狙われやすいミーフィアの警護だ。

この作戦前にミーフィアに家に張った結界でどうにか楽にやれないかと聞いてみたが、浄化系の結界は一度発動すると止めるのに苦労する上、死生者にならない守護霊のような善良なものまでも巻き込んで天へと還してしまうらしく却下となった。


しかし、なんでまたこんな死生者になるような悪霊共が急に湧いてきたんだか。

本来であればキチンと浄化された後に埋葬されるからこんなことにはなり辛いとシスターが言っていたのだが。


「……まさかと思うがクーの家が原因だったりしないよな、これ」


俺のその言葉にレイヴンズがピタリとその作業を停止する。

……まさかな。


「クー、確か霊が住み着く家っていうのは魔力が高まるんだよな」

「間違いないの。術式が家の地下に刻まれていたから、前の家主は意図的に幽霊を寄せていたの」

「その術式って壊した?」

「んーん。壊してないの。というかミーちゃんが浄化したから大……丈…………夫」


ミーフィアはどういうことなのか理解しきっていないようだが、クーは何かに気がついたようだ。

あぁ、俺もその考えに行き着いたぞクー。


「呼び寄せてるのに入れなくしたから寄って来やすい墓地に集まってこうなった可能性が限りなく大きい」

「…………それは完全に盲点だったの」

「盲点だったの。じゃないぞこのロリっ子! 盛大なマッチポンプじゃねーかこれ! というかその術式破壊すれば万事解決だっただろ幽霊問題!」


地下室自体は隠し部屋っぽい感じだったから教会の人たちが気づかないのもまぁわかるけど、それ見つけられたんだからどうにかしなさいよ!


「術式的に霊から供給される魔力がなくなれば止まると思ったの! でもその実家にいる人からも魔力を生活に支障ない程度に吸い取る代物だったっぽいの!」

「今気づいちゃった感じか?」

「今気づいちゃった感じなの」


そう言ってシュンとしまう。……流石にちと言い過ぎたか。気付けなかった物は仕方がないし、今騒いでどうにかなる問題でもない。


「うん、ならしゃあない! 今はコレ片付けて後で謝りに行こう! 最悪タダ働きだけど問題無いだろ!」


だから、そう言ってクーを慰める。正直事後処理が面倒なことになりそうだが、今はそんなこと気にしている場合でもない。

なら、自分の尻拭いをしてから後のことを考えよう。


「あ……。うん、分かったの」

「さぁて、奴らアタシらに気付いたぞ。話が済んだなら準備してくれよ」


リッカのその声に俺たちは再び戦闘に備え始める。


視認できるのは前方にいる七体中四体のみ。後は物陰にいるか何かで確認できない。

ズルズルと引きずる音、それに合わせた怨嗟の声。

未練や恨みを持った汚れ穢れた魂が行き着く終着点。

その叫びはあまりに悲痛だ。


痛みを訴え、悲しみを訴え、恨みを訴え、殺意を訴える。

言葉に成らない叫びを上げる。言葉にならない嘆きを叫ぶ。


それは単なる呻き声。しかしそれでもしっかりと頭に残る冷たい感情。

何を言っているかわからない。しかしそれでもしっかりと、それは俺達に訴えかかる。


殺した奴が妬ましい。裏切った奴が妬ましい。騙した奴が妬ましい。

生きてるモノが妬ましい。暖かな体が妬ましい。愛したモノすら妬ましい。


そんな存在が目の前のこいつらだ。

辛うじてヒトの形をしているモノ、もはや人と呼ぶには腐敗しすぎたモノ。

あるいはもはや骨だけになった、しかしそれでも動き続ける死して尚、生ける者達。


……吐き気がする。それは彼らの腐臭や死臭。それと胸に突き刺さる氷のことばの所為だ。

腐臭や死臭は我慢ができる。慣れたくもないが、そういうものだと割り切るしか無い。

でも、この呪い妬み恨む声の合唱は、どうにも心を蝕んでいく。

あぁ、コレも死生者の厄介なところだ。精神攻撃は基本とはよく言うが、俺とは相性がマジで悪い。

何しろ、この素敵な加護は、精神力までは強靭にしてくれなかったからな。


「行きます! 『セイントライト』ッ!」


ミーフィアの掌から暖かな光の奔流が迸る。

それは、さまよえる魂を天へ導く浄化の光。あまりに強い妄執と怨念を持った死生者には効果が薄いが、低級ならばそれらに比べれば浄化するのは容易い。


目の前を引きずるように歩いていた四体は、十秒ほど藻掻いた後崩れ去り、砂になっていく。

あまりの拍子抜けさに唖然とするが、それはリッカも同じようだった。


「流石、レイヴンと言ったところか? 本来ならもうちょっと時間かかりそうだったが、こんなあっさりと浄化しやがった」

「私はまだまだ未熟者ですよ、リッカさん。本来ならもっと魔力消費を抑えられますし、もうちょっと時間の短縮もできます」

「謙虚だねぇ。……っと、十体囲むようにズラリと居るな。残りの一体は近くにいるが、動く気配は全くねえ」


辺りを見渡すと確かに動く影が確認できる。

しかし全員動きは遅緩だ。対処するにのは容易い。

しかし、一定距離離れているとはいえ、奴らの声は頭に響く。

所謂言霊というやつだろう。感情の籠もった言葉は力を持つ。

これによる俺への状態異常は発生しないだろうが、それでもやはり結構堪える。


場馴れしているリッカは少し不快そうな顔をしているだけで済んでいるが、クーは若干顔が青く発汗し、震えてもいる。それでも気丈に杖を構えている所を見るに、まだ心配はなさそうだ。

かく言う俺も、盗賊たちにゴブリン、レッドキャップと複数からの強い殺意に当てられた経験もあるし、そろそろ慣れたかな、なんて思ったがそうもいかないようで。

やはり怖いものは怖いし、こればっかりは多分しばらくは慣れられなさそうだ。

今までは恐怖を押し殺して、我武者羅に戦えたが、今回はそうもいかない戦闘だ。我武者羅になれる状況じゃない。

その御蔭で殆どクーと同じ状態だ。正直俺も震えが止まらん。


ちらりとミーフィアの方を見る。

彼女は真っ直ぐに、死生者たちを見据えていた。

救いを求める彼らに手を差し伸べるため。今自分がやれることを為すために。


なら大の男である俺が、ガタガタ震えて動けないなんてことにはなっちゃいけないだろう。

無様でいい。泥臭くていい。強がりでいい。見栄っ張りでいい。

唯一傷つくことのない俺が、傷つく彼女らを守るために動ける様になるのなら、格好良くなんて無くていい。

そもそも上手くなんてやれやしないんだから。


震えが止まる、なんて格好良く決まるはずもない。だけど、動けないわけでもない。

要は心の持ち様だって実感し、思わず苦笑する。


そうしている内にミーフィアが次弾の準備を始め、手に光が集まっていく。


「クーちゃん、次の魔法までの足止めをお願い」

「分かったの。『グラヴィティバインド』!」


クーがその魔法を唱え杖を振り下ろすと、前方の景色が微かに歪むのと同時に三体の体勢が勢い良く膝から崩れる。

昼間の『グラヴィティエンド』の魔法もそうだが、ニアから与えられた知識の中には無い魔法だ。

俺が知りうる魔法属性は火、水、土、風の四素属性に光、闇の神魔属性。

詳しいところまでは教えられなかったがある程度はニュアンスで理解できる。

一応一通りの魔法の情報を頭に叩きこまれたはずだが、重力を司る魔法なんてものは無かった。


「むぅ……やっぱり改良の余地有り、なの。束縛範囲が狭すぎるの」

「よくわからんが、後ろと横にいるのは俺達に任せとけ。奴らの動きは遅いから、退路さえ確保すれば追いつかれることはないだろ」


視認できるのは左方一、右方三、後方二。一体足りないのは視認できていないからだと信じたい。


「……おかしい。一体他のやつとは違う速度でこちらに向かってくる奴がいる」

「あぁ!? 数に違いは!?」

「無い。……これは死生者の類じゃない。もっと他の奴ってことか」

「おいおい、他の魔物まで紛れてるってのか」


しかし、そんな影は見当たらない。聞こえるのは奴らの声と風の音だけ。

空からかと思い上を見上げるもそこには満天の夜空が広がるのみ。


「……………………………」


リッカが目を閉じ、口を紡ぐ。パンプにあった時と同じ、『サーチサイン』ではなく自身の感覚による気配の察知だろう。

俺も、それに頼り切るわけにも行かず、周囲の警戒を続ける。

しかしやはりその気配も姿も察知は出来ない。


「準備出来ました! 『セイント――」

「――! ミーフィア下だ!!」

「チィッ――! ミーフィア!」


リッカが叫ぶと同時にミーフィアの真下の地面が隆起する。

突然の事態にバランスを崩したミーフィアをなんとか抱きかかえる。

が、展開していた術式は解けてしまい、掌に集まっていた光が霧散した。


「大丈夫か、ミーフィア」

「つつ……。はい、なんとか大丈夫です。……ありがとうございます」

「どういたしまして。……で、何が起こったんだ?」

「『グレイヴキーパー』だな。くそ、こいつのこと完全に忘れてた」


リッカが指差す先には穴が開いていた。ミーフィアが立っていたところとは別の箇所だ。

グレイヴキーパーは墓守と名付けられたにも関わらず、その実態は墓荒しで、他の死生者が地面から這い出やすいように地面への穴を開ける。

地面を掘り進む速度は速く、それでいて穴を掘り終え地面に上がってきてもすぐ地中に潜ることから、非常に討伐の難しい魔物である。

しかも厄介なことに、死生者が生まれそうな土地に霊が憑く、自然発生型であるため予防が難しい。

しかし、一つの墓場に一体しか存在できないらしく、コイツを討伐すれば浄化が一気に進むと言われることから死生者たちの温床である墓を守る者としてこの名が付けられたそうだ。


「コイツがいるってことは、まだ数が増えるかもしれねぇな……っと!」


リッカが後ろから迫ってきていたゾンビ二体にナイフを投げつける。

一瞬、怯みはするもののやはりその前進は止まらない。

彼らの全身を止めるのなら、四肢の切断か頭の完全な破壊が好ましい。

まぁ、それでも尚動いてくるのだが、四肢を切断すれば這いずりまわることしか出来なくなるし、頭を潰せばこちらを感知されることもなくなる為有効打だ。

彼らを完全に滅したいのならプリーストの存在は不可欠で、居ないのであれば逃げろとはこの世界での鉄則だ。

何せ体力という概念が存在しない相手と戦っても何れ殺され仲間入りするのがオチだからだ。


「ミーフィア、クーが押さえているのは攻撃しなくていい。今は後ろにいる奴らを頼む!」

「わかりました!」


左右の死生者たちの進行は緩やかだ。まだなんとか完全に囲まれないだろう。

後ろの死生者もリッカが投げナイフで上手いこと怯ませているからなんとか保っているがそろそろ限界だろう。

なら、囲まれる前に一度引いて、真ん中に集中するであろうこいつらを一気に浄化したほうが手っ取り早い。


「『セイントライト』ッ!」

「よし、一旦引くぞ! クーもその魔法解いていいぞ!」


光の奔流が二体の死生者を包み込み、その肉体を砂に変える。

全員を先に逃し、殿を務める。たとえ俺の後退が間に合わなくとも、別段問題はない。

多少予定の狂いはあるが、今のところ順調だ。後は一気に後退すれば――!


「キャ……ッ!?」

「ミーちゃん!?」


そう思い、皆を背に盾を構えた瞬間だった。

後ろでミーフィアの小さな悲鳴が聞こえる。

思わず振り向くと、彼女は転んでいた。……いや、転ばされていた。

先ほどグレイヴキーパーが開けた穴から伸びる手が、彼女の足を力強く握っているのだ。


――油断した。リッカから近くにいるが動かない奴がいると聞いていたが、まさか地中にいたとは。

いや、そもそもグレイヴキーパーの時点で気がつくべきだった。だって奴らは他の死生者が這い出るための穴を開けるのだから。


「くっ……この……!」

「この、ミーちゃんを離すの!」


ミーフィアがなんとか起き上がろうとするも、足を掴まれた状態では上手く起き上がれず、虚しく藻掻くだけとなる。

クーもなんとかミーフィアから手を離させようと杖で腕を叩いているが、死生者相手にそれは無駄だろう。

魔法を使わないのもミーフィアを巻き込む恐れがあるからか。そこらへんゲーム見たく融通利かないのが現実の辛いところか。


「おい、何してる! 大丈夫か!」


それに気がついたリッカが戻ってくる。

まだ、左右の奴らは距離がある。クーが食い止めていたのも今起き上がったところだ。

しかし、このままじゃ直に囲まれる。そんなのは考えなくても明白だ。

それはマズイ。だというのにミーフィアの足を掴むそいつの体は刻一刻と這い上がってくる。


「リッカ、クーを連れて下がっててくれ!」


気が付くとそう叫んでいた。まだ距離があるのなら、それまでに解決すればいい。

一人だけなら未熟な俺でも庇える。なら今動ける二人を包囲網から出すのが先決だ。


「わかった、クー行くぞ!」

「でも、でもミーちゃんが!」

「俺を信じろ! ミーフィアは俺が守るから! だからお前らはさっさと安全なところまで逃げやがれ!」


それでもまだうろたえるクーを、リッカが抱えて走りだす。

流石、場馴れしてるだけあってそこら辺の対応もちゃんとやってくれる。

心の中で感謝を述べ、ミーフィアの元へ駆ける。


距離は遠くない。だが、それでも一刻も早くあの忌々しい腕を叩き潰さねば。


「ッラァァァア!」


助走の勢いを殺さず飛び上がり、そのまま盾を腕へと振り下ろす。

嫌な感触が盾から腕へと伝播し、骨の砕ける音が静かな墓地に木霊する。

しかし、そんなものはどうだっていい。それでも尚力を弱めること無く掴むその手で苦しんでいるのはミーフィアだ。

俺が痛いとか、苦しいとか。そういうのは関係ない。だって俺はそういった類にはもう縁がない。

ならばそれを仲間に振るう奴を排除する。何度も何度も叩きつけ、その手を離すまで振り下ろす。

それは、力の代償によって抑圧された、俺の攻撃的な部分が一気に放出されたようで。

客観的に俺を見て、『あぁ、俺ってこんなに凶暴な一面あったんだ』なんて、心の隅で思った。


六回目で、腐敗した腕では耐え切れなくなったか、その腕が千切れる。

それと同時に手に篭っていた力が抜けたのか、ミーフィアの足から手が外れ、彼女が自由になる。


「……大丈夫か、ミーフィア」


昂ぶった気持ちを鎮め、出来る限り優しい声色で、彼女の安否を確かめる。

あっけにとられた顔で頷き礼を言われるが、若干怯えたようなその瞳に少々傷つく。

いや、まぁ仕方のない事か。俺自身ビックリするほどだからな。

気付けば震えなんか止まってた。奴らの声も聞こえなくなってた。

実際には断末魔とか、そういうのも聞こえてたと思うんだが、そんなのは全く認識できていなかった。


「立てるか?」

「は、はい。なんとか。……ッ!」


ヨロヨロと立ち上がろうとするが、再び崩れ落ちる。どうやら、掴まれていた部分が痛むようで、一人での撤退は難しそうだった。

幸い、先ほどので奴らが近づいた距離はそこまででもない。

守りながら下がる、ということもしなくて良さそうだ。


「無茶すんな。俺がミーフィアを担ぐ」

「え、え?」


戸惑うミーフィアを他所に、盾を背に掛け、ミーフィアを抱きかかえる。流石にお腹あたりを抱えて走るわけにも行かないので、少々気恥ずかしいがお姫様抱っこの形になる。

……人生初のお姫様だっこがこんなムードもへったくれもない状況というのが少々悲しいが、この際そんなことも言ってられない。


「あ、あの。リョウマさん? 流石にこの体勢は私も恥ずかしいと言いますか……」

「うっさい、俺も恥ずかしいわ! でもこれ以外に無いだろうよ! いいから黙ってしっかり掴まれ、舌噛むぞ!」

「は、はい!」


ギュッと首に腕を回され、体が固定される。女の子特有のいい匂いがして一瞬童貞拗らせそうになったが、理性で押さえつける。

……ホント、なんでこうもうちょっと、いいムードの時にやれないのかと悲しくなるわ。


意外と、ミーフィアの体は軽く感じられた。ミーフィアが気を使って全体重を預けないようにしてくれているというのもあるだろうが、予想以上の軽さに驚く。

まあ、鎧着込んでタワーシールド振り回していればそれなりに筋力も付くのだろうか。それに、ネクトに来た時に与えられたステータスも関与してそうだ。


鎧を着込んだ俺でもそれなりに速く走れるのも嬉しいところだ。正直、昼間ので体が悲鳴を上げていたが、戦闘中だからだろうか、あまりソレも感じないし。


「リョウマー! こっちだ!」


リッカの声。そのまま声のする方へと走る。

あともう少し。だが、現実はそう上手く行ってくれないようだ。


目の前の地面が微かに隆起するのがみえ、思わず足を止める。

それと同時にグレイヴキーパーが飛び出してきた。

土の付いた鋭い鍬状の腕を持った、うつろな目をした人型だ。

そいつは忌々しそうに俺たちを見ると地面に降り立ち地面に潜り始める。


大方奇襲を仕掛けようとしたのだろう。気が付かなかったら多分、俺はともかくミーフィアが危なかっただろう。

その襲撃を回避出来たことに安心する反面、また奴を逃がすという焦りも生じる。


しかし、その焦りは首元で光る暖かな光でかき消された。


「『セイントライト』ーッ!」


今までよりも魔力を込められたであろうその光が穴を掘るグレイヴキーパーを包む。

響く断末魔。強力な浄化の光に晒されたそれは、藻掻くまもなくその肉体を消失させた。


「いつの間に……」

「えへへ……。実はリョウマさんが助けに来てくれたちょっと前から練り上げていたんです。もしかしたら、と思って」

「成る程ね。ファインプレーだ、ミーフィア」


しかし、グレイヴキーパーを倒しても、後ろを追いかけられているのは変わりがない。

そのまま安心したような表情のリッカたちの方へ走り出した。


―――

――


その後は、すんなり死生者の群れを討伐することが出来た。

グレイヴキーパーを早い段階で討伐出来たからというのもあるだろうし、交代して奴らを一纏めに出来る範囲に収められたというのも大きい。


グレイヴキーパー、ゾンビ、グール、スケルトンと下級ばかりではあるが、昼間のレッドキャップ二十体と合わせると三十五体もの魔物を討伐したことになる俺たちはレベルが上がっていた。

俺は3から7レベルへ、ミーフィアが6から9レベルに。クーとリッカは変化なしだが、クーの方はあと少しでレベルが18から19に上がりそうだとのこと。

一匹一匹は弱いとはいえ、集団だと危険度が跳ね上がるレッドキャップ二十体と、プリースト以外に有効打を持てない死生者十五体はかなりの経験値になったらしい。


クエスト完了した俺たちは教会に戻り、事のあらましを説明。

が、除霊できなかった此方側の責任でも有りますし、こうやって解決してくれましたのでとまさかのお咎め無し。

しかし流石にそれだと気が済まなかったので、報酬を半分にするということで手をうってもらった。

こういうのは信用問題に関わる。そういう雰囲気は無かったけども、もし教会側で『あいつらは依頼をマッチポンプするような奴らだ』なんて思われたら食っていけなくなる。

それだけは阻止したいので、こういう誠意を見せたわけだ。

が、どうやらレイヴンズはそんなことを思っていなかったらしく、家に帰るなり黙々と術式を解除し、完全な破壊をした後、結界の解除をしていた。

なにも結界まで解除しなくても、と思ったが再発防止の為の措置だそうで。依頼こなした後で辛いだろうにそんなことは一言も言わずに作業をしていた。

俺とリッカも手伝おうとしたが、素人がやれる仕事ではないと断られた上に、リッカは置いてかれたからか何やらご立腹なパンプにじゃれつかれ、各々部屋で休むことになった。


手持ち無沙汰になり、特に娯楽品も何も無い自室で、鎧を脱ぐ。鎧の下は黒一色のインナーになっており、通気性もよく、動きやすい。

ただ、今のところこの一着しか持っていないので、明日辺りに家具とかと一緒に買うべきか。


「って、うわ。昼間レッドキャップに刺されたところ穴開いてる。というか、ああいった刺突には鎧とかにダメージ入るのになんでクーの魔法は無効化したんだか」


考えられる点としては、リッカにヘッドロック決められた時に痛みを感じたのと同じく、鎧も鎧として『生きていられなくなる』ダメージは無効化して、それ以外だと微妙にダメージを負うとかそんな感じだろうか。

なんというか微妙に使い勝手が悪いなこれ。無効化するなら全部無効化してほしいものだ。

発動条件もパッとしないしなぁ。これ、殺意センサー的なあれなのかな。殺意があれば無効化して、なければ通すみたいな。

最低限のスキンシップを取れるようにする女神の粋な計らいといったところなのだろうか。


ふと、ギルドカードを手に取る。

スキル欄には新しく取得した『セイントプロテクション』と『オース』の魔法が追加されていた。


『セイントプロテクション』は術者、または対象の、鎧や盾に光の加護を授け、高度を増加させる魔法。言うなれば聖属性エンチャントと言ったところか。

防御支援魔法だが、盾での攻撃が可能とわかった以上、もしかしたら攻撃手段に成り得るかもしれない。


もう一つの『オース』は条件付き肉体強化魔法で、一日に一度『指定した近くの人物を守り通す』という誓いを立てる代わりに肉体を強化する魔法だ。

この条件の人数は多ければ多いほど見返りの効果が大きいし、使用中は肉体疲労を気にしなくてもいいが、その対象が他者によって傷つくと魔法が解け、更に今まで受けてきたであろう肉体疲労を一気に与えるというデメリットもある。

さらに『オース』を使った後に遠いところに対象を置いて行ってしまうとその効果は発揮せず、その人数分だけ強化の度合いが下がるので、使い所が難しく、誓いを立てるにしても一人がいい所といったところか。


「攻撃系等はやっぱり覚えれないかぁ……」


いや、うん。わかってはいた。でもちょっとは期待したくもなる。先ほどの墓地での戦闘の時、盾で無理やりゾンビの腕を叩き切っていたが、攻撃手段があればあんなに必死こいてやらずに済んだだろう。

もしあれが成功しなかったらと思うとゾッとする。そう考えると、防御一辺倒というのも不便だと思えてくる。

しかし、この防御力が無ければとは思わない。これがあるから俺はこうやって戦えている。


幸い、戦闘になったら体は自然に動いてくれる。どうすれば上手く戦えるか、とか。そういうのが自然とわかる。

転生した際にそういう戦闘のセンスみたいなのも与えられたのだろうか。自分でも驚くほどに立ち回れる。


だが正直な話、この力がなければ戦闘なんざ足が震えて出来たものじゃない。

そりゃそうだ。ついこの間まで普通のフリーターだった俺が、いきなり殺し合いなんか出来るはずもない。

『殺される心配は無い』という、卑怯な手段チートの保護下でなければ俺は戦えない。


我ながら情けなくなる。死生者の群れと対峙した時もそうだ。剥き出しの殺意にさらされる方がマシだってほどに恐ろしかった。

ゴブリンやレッドキャップの時は人の形はしているが、人間のそれとはまた違う。だからなんとか罪悪感の様なものも生まれなかった。

リッカの子分に襲われた時は、言葉も通じるし、人だったから、防御力のことも相まって恐怖の感情は有りはしたが、身が竦むような程ではなかった。

でも、奴らは違う。正真正銘元人間の、救われなかった者達の妄執と怨念の権化だ。

だからこそ、鋭い刃で貫かれたように、その言葉は胸を穿つ。


……守ると誓った。でも、俺の心は弱かった。心は強くならないまま、肉体だけが強くなって、置いてけぼりにされていった。


なんて様だ。結局のところ俺は、選ばれた勇者でも何でも無く、ただ力だけを得ていい気になったガキだということだろう。


でも、その弱さが俺が俺であったことの証明にもなるというのも確かだ。

住む世界が変わり、力を得てもなお変わらない俺の心。

置いてけぼりになった弱い心だけは、俺が俺であることを肯定し続ける。


あぁ。思えば俺は皆を守っていると思っていたが、その実守っていたのは自分自身だったのかもしれない。

心が壊れないように、その力で『死なない安心』という精神安定剤を投与する。それが俺の現状なのだろう。


それでもいい。結果として皆を守れているのならそれで。

半端な自己犠牲は身を滅ぼす。なら、とことんまで行ってやろうじゃないか。


弱くて上等。だってそれが俺なのだから。

使命だとかそんなことは関係なく、俺は俺であるために、俺の為に皆を守ると決めたのだから。


「リョウマさん、今よろしいでしょうか?」


作業が一段落ついたのだろうか小気味良いノック音と共にミーフィアの声がする。


「んー? 大丈夫だぞ」

「はい、ではお邪魔します……ってなんですかその格好!?」


入るなり俺の今の格好を見て赤面し、顔を隠すミーフィア。

今の俺の状況はところどころ破けた全身ぴっちり黒インナー。

……これはセクハラになるのだろうか。


「いや、違うんだミーフィア。流石に鎧姿で家の中闊歩する訳にもいかないし、かと言ってこれ以外に服を持っていないからこんな恰好なのであってだな」

「うぅ……。自室の中ですから仕方がないですけど、女の子には刺激が強いですので控えていただけると……」


そう言いながら指の間でチラチラとこちらを見ているのはどういうことなのだろうか。


「とは言え、クーなんかはそんなこと興味ないだろうし、リッカなんかは多分別段気にしないと思うんだが……」

「私が気にするんです! 何ですか、そのいい感じに引き締まった体! 見せびらかしているんですか!」

「え、いやその。……ごめん?」


確かにこっちに来る前からトレーニングもどきはしていたからそれなりには体が引き締まってはいたが、こちらに来てからは心なしか筋肉量が増えている気がする。

これも転生した時のステータス変換で起こった変化なのだろうか。鎧を着ていても疲れを感じないのはそれのお陰だったりするのか?

だからと言ってこんなに言われる筋合いは無い気がするのだが。

……いや、年頃の女の子だし、確かにこんな格好でいるのはアレか。ほぼ下着と同義みたいな格好だし、服を買うまで鎧姿でいるしかないか。


「わかった。寝る時以外は鎧姿でいよう」

「何言っているんですか。駄目ですよ」

「えぇ……?」

「あ、いや。そうじゃなくて! 常時鎧姿というのも大変でしょうし、また体調を崩されたら困ってしまいますので!」


……なにか、わかってしまった気がする。

正直、常識人ポジだと思って油断していた。そもそもあのクーと一緒にいるという時点である程度の警戒はすべきだったか。


「触るか?」

「ぜひ」


二の腕を差し出すと真剣な眼差しで返されました、どうもリョウマです。


見事な即答してくれたミーフィアは我に返り、顔を真っ赤にしてわたわたしている。

……正直この狼狽えっぷりを眺めているのも一興な気がしてきた。


「二の腕だけではなく今ならなんと胸板と腹筋付きでございます」

「……あぅ……。で、では少しだけ。……はぅ……これは、大変よろしい……」


おずおずと二の腕にミーフィアの柔らかい手が触れ、さわさわと撫でられる。

……なんか急に気恥ずかしくなってきたんだが。


「はい、少しだけと言っていたのでもう終了でございます」


などとこの気恥ずかしい気持ちを隠すように、そっと二の腕からミーフィアの手を離させる。


「あ……。……リョウマさんのいじわる」


ところがどっこい、牽制したら思いっきりいい感じにカウンターを決められました、どうもリョウマです!

どうしよう。すねた顔めっちゃ可愛いんですけども。というか割と日本人顔しているせいもあって親近感とか安心感とかそういうのが溢れているんですが。

くそぅ、二十歳童貞舐めんな。こういった耐性は紙に等しいぞ!


どうにか転げ回りたい気持ちをなけなしの理性で抑えこみ、咳払いでごまかす。


「い、いや。ミーフィアも俺の筋肉触りたいがためにこの部屋に来た訳じゃないだろ?」

「むー……、そうですけど……。そうですね。まずはそっちを終わらせてからにします」


まずは、なんて物騒な言葉が耳に入りました。さて、どうするか。気軽に触る? なんて聞いた俺がアホだった。

あんな感じにさわさわと色んな所を触られると、男の子としてはそれはそれは大変なことになってしまわれるのですが。特に下半身回りが。


コホン、と仕切り直し一息吐く。するとミーフィアの表情がいつものような優しい、柔らかなものになった。


「今日のお礼を改めて言いたくて。……昼間は励ましてくれてありがとうございました。それに夜も。助けていただき、ありがとうございます」

「ん。別にいいって。俺は俺が出来ることをしただけだよ」

「それでも、本当に助かったんです。……あんな風に私のことを肯定してくれたの、クーちゃん以来でしたから」

「……ちょっと待て。どういうことだそれ」


彼女は自分のことを未熟者だという。確かに、レベルとかそういうところを見れば未熟者と言えるだろう。

しかし、そんな彼女がグレイヴキーパーを一瞬で浄化した。それは未熟者では到底出来ない芸当だ。


「……レイヴン族は魔導の民。と言うのはリョウマさんも知っていると思います」

「あぁ。どの魔法分野でもそつなくこなせる魔法のエキスパートだって話だよな?」

「はい。レイヴン族はクーちゃんのように自身の魔導の探求の為、あるいは自分の力を誇示するために魔法を扱います。……言ってしまえば血気盛んな民族なんですよ、私達って」

「でも、ミーフィアからはそんな感じしないんだが」

「えぇ。それが私が半端者とか未熟者と呼ばれていた原因です。……レイヴンにとっての優しさはただの『枷』だと」

「な……」


思わず、絶句する。そこまで戦闘民族なのかレイヴン族ってのは。

彼女は呆気にとられている俺を見ながら、淡々と語り出す。


「『魔導の道に甘えは要らぬ』。これがレイヴン族の掟みたいなものです。……愛情よりも先に魔法を与えるなんて、馬鹿げていると思います」

「それは、もしかしてクーの……」

「――さぁ。どうでしょう。……ただ、私は恵まれていた方でした。あの子……クーちゃんが居ましたから」


寂しそうな笑顔を向ける。それは誰のためのものなのか。

つまり、なんだ。ミーフィアがクーを守っていたのではなくて、両方が両方を守っていたということか。

未熟者、半端者と蔑まれるミーフィアを肯定するクー。天才だ、逸材だと讃えられるクーへの重圧を解消するミーフィア。

立場は真逆のはずなのに、その実立場は対等で。

我慢がならない。ミーフィアは礼儀正しく、優しい子だ。家庭的な女の子らしさが目を引くいい子だ。

クーもそうだ。普段はやる気のかけらもないような表情しているくせに、歳相応な子供っぽさと無邪気さが可愛らしい、普通の女の子だ。

まだ、会ってから一日しか経っていないけども、夜が明けるまで語らって、一緒に汗かいて仕事をしたからよく分かる。


俺よりも歳下の、しかも女の子がこんな境遇だったというのに怒りを覚える。

あぁ、こっちに来る前なら見て見ぬふりをしていただろうさ。それに関しては否定しない。

だからこれは俺の独善だ。守ると誓った女の子がこういう目にあっていたというのに怒りを覚えるだけの、なんの解決にもならない善意だ。


「……やっぱり、言っていた通りだったね、クーちゃん」


そんな俺に微笑みながら小さく呟く。俺にはそれがなんのことだか解らなかった。


「……だから、ありがとうございました」


ペコリと頭を下げる。さっきのはどういうことかと聞こうと思ったが、彼女の優しい微笑みが頭から離れず、結局聞かなかった。


「それに、夜。私が足を掴まれた時。あの時のリョウマさんはちょっぴり怖かったですけど、格好良かったですよ」


照れ笑いをしながら、恥ずかしそうに頬を掻く。

あの時の俺は我武者羅だった。ただ、彼女を助けなければという気持ちに突き動かされていた。

死生者の言葉に当てられたのかもしれない、あの時の状態を彼女はやはり肯定してくれる。


「無様、の間違いじゃないか? 俺じゃない誰かならもっと上手くやってたぞ?」


そんな彼女が眩しくて、思わず自虐混じりに憎まれ口を叩く。


「貴方が怖くて震えていたのを、知ってましたから」

「マジでか」

「マジです」


恥ずかしくなって顔をそらす俺を悪戯っぽく笑う。

参った。表には出さないように心がけてたのに、気づかれてたのか。


「だから、そんなリョウマさんが必至に私のことを助けようとしてくれるのを見て、嬉しかったんです」

「流石の俺もここまでべた褒めされると照れるぞ」

「じゃあ存分に照れちゃって下さい。さっきいじわるしたお返しです」


それを言われるとなんも言えねぇ。


「……私、憧れていたものが有るんです」

「ええと、それは?」


ふと、思い出したようにミーフィアが呟く。

優しげなほほ笑みのまま、それでいて憧れているものを見るように俺を見る。


「ピンチの時に駆けつけてくれる騎士様です」


それは、女の子なら一度は夢を見そうな、そんな憧れだった。


「あの時のリョウマさんは、まさしくその騎士様でした。嬉しかったんですよ? 『ミーフィアは俺が守るから』って台詞」

「うわあああああああ! やめろ、恥ずかしくて死にそうだ! くそぅ、会って一日しか経ってない何処ぞの男にこんな心を開いちゃうと勘違いされるぞ、お前!」

「えっと……。……勘違いしてもらわないとちょっと困っちゃいます」


なんだろう。ちょっとミーフィアが何言ってるかわからない。

いや、ミーフィアの好意に気付かないような鈍感系主人公ではない俺は、つまりどういうことかは分かっているつもりだ。

でも、流石に急過ぎるといいますか、なんかミーフィアが優しくされたらホイホイ誰かに付いて行ってしまうんじゃなかろうかという心配とかがごちゃごちゃになって訳わからん。


「お、俺としてはありがたいけどさ。よく考えようぜ? さっきも言ったけど俺たちまだ会って一日目だ。もしかしたら俺がミーフィアの期待を裏切るかもしれないぞ?」

「じゃあ、リョウマさん。私やクーちゃん、リッカさんが『助けて』って言ったらどうします?」

「いや、そりゃ全力で助けてやりたいけどさ……」

「それならその心配はありませんね。私が好きになったリョウマさんのまんまです」


『好き』という言葉に思わずドキリとする。生まれてこの方女の子に好意を持たれたなんてことが無い俺にとってそれは、ちょっとした劇薬だ。


「あー、えっと、その。俺たちまだ会って……」

「人を好きになるのに、時間なんて関係ないですよ」


駄目だ。詰将棋かこれは。どんどん逃げ道が封鎖される!

正直、ミーフィアからの好意はすっごい嬉しい。このまま小躍りしてしまいそうになるほどにはだ。

でも、同時に罪悪感もある。俺が彼女らを守ろうとするのは単にその力があって、自分の思うままに使っているからだ。

だから、俺の独善に好意を持たれるというのは、申し訳がない。


「それとも、リョウマさんは私の事嫌いですか?」

「そんなわけ無い! そんな訳無い、けど……」

「……いいんです。それだけ聞ければ十分ですよ」


それでもなお、彼女は微笑みながら俺を肯定する。

ちくりと、胸が痛くなった。


「……今ならリッカさんの手に入り辛いからそれに挑むって気持ち、わかるかもしれません」


そんな不穏な台詞と共にミーフィアが微笑む。

月明かりに照らされた笑顔は、先程までの少女らしさはなく、どこか妖艶さを帯びていた。

いかん。いかんですよこれは。なんかちょっといい感じの雰囲気で流されてしまいそうですよ俺。

駄目だ。大人の男として、一時の雰囲気に流されるべきでは断じて無いはずだ。

そう、そっちの方が双方幸せになれるはず……!


「私、リョウマさんが振り向いてくれるまで頑張りますから」


リッカといいミーフィアといい、どうしてこうもこっちの女性はアグレッシブなのかと問い正したい。

お陰で俺の心臓が爆発起こしそうですよどうしてくれるんですか!


「というわけで、先ほどの続き……させて下さい」

「おっと、それ以上は俺の理性が吹き飛ぶから駄目だぞ?」


あんなこと言われた後に触られると色々と危ないんですー! 唯でさえ危なかったのに今の流れで触られたら確実にイケナイイベントが発生するんですー!


「もう、ガードが硬いんだかヘタレているのか……」

「へ、ヘタレじゃないやい」


どう見てもヘタレている俺を見てクスクスとミーフィアが笑う。

くそぅ、なんかすっごい手玉に取られている感が半端じゃないんだが。


「ミーちゃん、そろそろ再開するのー。手伝ってほしいのー」


ふと、クーの声が聞こえる。どうやらミーフィアは休憩するついでに俺の部屋に寄ったらしい。


「わかったよー! ……では、そろそろ行きますね。クーちゃんのお手伝いしてこないと」

「お、おう」


先程までのことが無かったことになったように、ミーフィアは至っていつもどおりにペコリとお辞儀して部屋を出ようとする。

やはり、先ほどのアレはからかっていただけなのだろうか。だとしたら魔性の女過ぎるぞミーフィア。


「……冗談なんかじゃ、ないですからね」


部屋を出る直前、振り向きながら、そう言った。


返答する間も無くドアが閉められ、再び訪れた静寂に一人取り残される。


「どちらにせよ……だったか」


思わず真っ赤になる顔を抑えつつ、その場にへたり込む。


異性に好意を向けられたことは無かった。だって、所詮はその程度だったから。

この世界に来て変わったことと言ったら力を得たことと、それを使って何かをしようとしたことだ。

そのおかげでミーフィアは俺に好意を持ってくれた。

あぁ、嬉しいさ。嬉しくないわけがない。


でも、借り物の力で得た好意を、そのまま受け入れられは出来なかった。

だってこれはニセモノだ。相楽竜馬という一人の男が持ち得たモノじゃない。

気持ちだけはホンモノだ。でもそれを実行する力はニセモノで。

なら、この気持すらもニセモノなんじゃないかと思えてくる。


自惚れるな/素直に喜べよ


その二つの言葉が俺を苛む。


ミーフィアは俺を肯定した。

でも俺は俺を肯定できない。


力を得た。それで信頼を勝ち取った。でもそれは果たして自分の力で勝ち取ったと言えるのか。

わからない。わからない。わからない。


ニセモノを行使したのはホンモノだ。

ホンモノを動かしたのはニセモノだ。


どっちがホンモノで、どっちがニセモノか、分からない。


でも、強くなると誓った。力なんか無くとも、皆を守れるように強くなると誓った。

置いてけぼりにされた心が、いつか強くなった体に追いつけるようにという願いだ。

それはニセモノに飲み込まれないための俺の足掻きだ。


なら今は、俺がホンモノであると信じたい。

わからないなりに、俺のことを信じたい。


足掻いて、藻掻いて、走り抜けたその先に、俺が求めている答えがあると信じて。

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