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鉄壁→転生  作者: キール
第一章
4/6

-3話- 街道→ギルド

「お゛か゛ね゛か゛な゛い゛!」


始まりの街『アウセット』。冒険を夢見る若人たちと、それらを支援する目的で集まった商人たちの街。

『夢と希望の街』という輝かしい別名のあるこの街で、俺たちは夢も希望も砕け散った。


話は1時間ほど前に遡る――。


―――

――


「着いた!」

「おつかれさん。ここが始まりの街『アウセット』。別名『夢と希望の街』だ」

「随分キラキラとした名前なんだな」

「そらそうさ。ここにはアンタみたいな駆け出しが集まり、それをカモにしようとする商人たちの街だ。そんな名前がつかないほうがおかしいってもんよ」


太陽も真上に到達した頃。俺たちは目的の街にたどり着いた。

城壁でぐるりと街を囲い、中にはレンガ造りの街並みが広がる。

潮の香りが街に漂ってくる。つまり、この街は港町でもあるということだ。

確かにこれなら通商も捗るだろう。


道路は石畳で舗装され、町の中央には大きな広間があり、その中心に噴水がある。

老若男女、一般人に商人、冒険者。いろいろな人の憩いの場になっているらしい。


文明発達度的には中世位のものではあるが、ゴミ等で散らかっているなどということもなく、比較的清潔に保たれている。

聞けば駆け出しの、仕事を選べないような冒険者達が清掃の仕事を自治隊と協力して行っているからだとか。


リッカの案内のもと、街の主要箇所を見て回る。食材や雑貨が並ぶ露店通り、道具屋、武具屋、雑貨屋。

冒険者や商人たちが利用する宿に自治隊本部。


見るもの全てが真新しい。確かに、ここが『夢と希望の街』と言われるのも頷ける。


「そして最後はお待ちかね。冒険者ギルドだ」


街の中心部に鎮座する一際大きい建物。

なんでも自治隊経営や冒険者への仕事の斡旋、果ては通商管理まで、この街の全てを握っていると言っても過言ではない力を持つ組織らしい。


「いよいよ俺も正式な冒険者になれるのか……」

「んだな。今のお前はスキルや魔法は使えるが世間一般からみたら『なんちゃってナイト』だからな」

「え、俺そんな痛いコスプレ野郎だったの?」

「コス……? いやそれが何なのかは知らんがそういうこったな」


悲報、マンボウで赤ちゃんだったその先は痛々しいコスプレイヤーだった。


なんか微妙に打ち拉がれた気分になったが、もう直ぐ正式にナイトになれるのだ。

この際、今の状況は無視できるものとする!


「じゃ、行こうか。さっさと登録してなんちゃってナイトからナイトに進化するんだ!」

「あ、気にしてたのな」


深呼吸をして木製の両開きドアを開く。

中は冒険者達で一杯だった。吹き抜けになっている二階にも、どうやら人が集まっているらしい。昼間だというのに酒盛りして騒いでいる奴も居れば掲示板とにらめっこする者、報酬の山分けの真っ最中の連中も居る。

こちらのことはあまり気にするものは居ないが、ちらほらジロジロ観察してくる奴らもいる。


「いらっしゃい! えーっと、2名だね? 冒険者ならあっちのカウンター、ただのお客さんなら好きなテーブルに座っちゃってー!」


手際よく、というかほとんど流れ作業で案内される。

いやまぁ、当然といえば当然なのだろうが、日本の丁寧な接客しか経験していない俺にはかなり斬新であった。


「リョウマ? 何ぼさっとしてんだ。さっさと行くぞ」

「え、あ。おう」


呆気にとられていたがリッカの声で我に返る。正直感じたことのない空気感というのもあり、今更だが緊張してきた。

リッカが歩く後ろをそのまま付いて行く。

その先には冒険者達の対応をしているカウンターが幾つかあり、その中の一番入口側に新規登録者用の窓口があった。


「いらっしゃーい。新規登録窓口へようこ……ってなんだリッカじゃない。貴女の登録なんて結構前に終わってるじゃないの」

「バカ言えエレナ。今日は後ろの連れの登録だよ」

「あー、そうなの? ……え、なに。リッカ男作ったの!?」

「ちっげーよアホか! 森で拾ってそのままパーティ組んだだけだ!」


なにやらリッカが受付の女性と会話をし始める。メガネを掛けた茶髪の三つ編み一つ結びの女性だ。

見た目は真面目そうだが、結構フランクな性格をしているようで、リッカとかなり親しげな様子だし、長い付き合いなのだろうか。

というか。


「おい、リッカ。お前ギルドに加入してたのか?」

「んあ? 当たり前だろ?」


リッカが俺の肩を組む。


「盗賊稼業だけじゃ食ってけないって時もあるからね。そういう時は冒険者としてやってたってわけ。言わばこっちが表の顔だ」


ヒソヒソと、やはりバレちゃいけない案件らしく、事情を語る。


「驚いた。何にって表裏使い分けられることに驚いた」

「おういい度胸じゃねぇかテメェ」

「あだだだだだだ!」


そのままの流れでヘッドロックを決められる。しまった、要らんこと口走ったか――!!

というか、このヘッドロック攻撃判定として捉えられないんすね。普通に痛いんですがそれは!


「驚いた。リョウマ、お前痛覚あるんだな」

「俺を一体何だと思ってやがるんですかねぇお前は!」


確かに人外じみた防御力してるけど、そこまで言われる謂れはないと思うんだが。


「あー……いちゃつくなら他所でやってくれないかな?」

「人聞きの悪い事を言うな。……そら、リョウマ。さっさと登録しちまえ」

「てて……。あいあい。わかりましたよーっと。まず何すればいいんだ?」

「そうねー。まず、登録手数料、300セッツから貰おうかしら」


セッツ。ネクトにおける共通通貨。日本円換算で1セッツ10円ほど。出典、ニアペディア。


「あー、やっぱ手数料かかるのか。リッカ、頼むわ」

「は?」

「ん?」

「いや、リョウマ。自分の手持ちがあるだろ。それ使えよ」

「やだな、リッカ。手持ちなんざあるわけ無いだろ。一文無しだぞ、俺。だから、金、貸してくれ」

「……アタシも今手持ち0なんだが……」

「……マジで?」

「あぁ、マジで」

「………………………………………………………………」


もしかして:詰んでる


「前途多難ってレベルじゃねぇぞクソッタレぇぇぇぇ!」


―――

――


 そして今に至る。

リッカがエレナと呼んでいた受付の女性は、なんかものすごい微妙な表情で頑張んなさいねとだけ言ってくれた。

むしろその優しさがめっちゃ辛い。心にグッサリ刺さる。


俺は何を頼むでもなくテーブルに突っ伏していた。畜生、あんの駄女神初期の軍資金ぐらい用意しておけよ、常識だろそんなの……。


「なぁ、リッカ。いいこと思いついた。協力してくれ」

「んだよ。どうせろくでもないことだろ? ……聞くだけ聞くけどさぁ」

「ありがとよ……。ほら、リッカって盗賊だろ? だからそこらの人から財布をスッと……」

「アホか。こんなところでんなことやったら捕まるわ。聞いて損したわ」

「うぐぐぐぐ……まさかこんなところで躓くとか考えてもみなかったぞ……。というかリッカ。なんでお前金持ってねぇんだよ。盗賊の頭だろーが」

「何言ってんだ。頭だからって金は独り占めしねーよ。ちゃんと子分たちと等分してたわ」

「変に律儀なんだな……」

「んで、アタシ持ちの金も尽きてきたし、手頃なの襲おうと思ったらアンタだったってわけさ」

「微妙に運命を感じないでもないが、どうせなら金持ってる奴に拾われたかったぜ……」

「失礼な奴だな……」


あ゛あ゛ー……金。金が欲しい。登録分だけでいいから金が欲しい……。


まるで地の底から出ているかのような声を発しながら突っ伏す。

金0人望も0の初期状態で何しろってんだよ……。


「というかリョウマよぉ。お前、鎧要らねぇだろ。質に出せよ」

「おま、それ言っちゃいます? それは最終手段だわ。まだきっと何か手はあるはず――!」

「もう最終段階まで来てると思うんだがなぁ……」


考えろ。考えろ俺。なんちゃってナイトからただの一般人へと成り下がる前に金を得るための手段を考えろ――!

――ふと、頭に何かがよぎった。俺達が戦った13の集団。緑の分隊。奴らならきっと――!!


「……そうだ。ゴブリン。 あの時倒したゴブリンがきっと足しになってくれるはずだ……!」

「そう簡単に上手くいくかっての。そもそもあいつら何の変哲もないゴブリンだったぞ?」

「……だよなぁ。……でも、一応報告してみて? もしかしたらもしかするかもしれないから……」

「相当切羽詰まってるな、おい。……わかった、ちょっと行ってくるわ」

「たのむわー……」


可能性が限りなく低いことを再び突きつけられ、力なく机に突っ伏す。

ものすごい手持ち無沙汰感と現実の非情さに打ちひしがれ、なんかもう体が溶けてる錯覚すらする。


「ぅぉーい、そこで溶けてるお兄さんー」


そんな俺を更に溶かすかのようなやる気のやの字も見せないような声がした。


「んぁ? ……俺か? やめろ、俺は金を持ってない」

「貴方以外にそんな人居ないの。あと、わたしはたかりに来たわけじゃないの。もっと別の用があってきたの」

「別の用?」

「そうなの」


机に突っ伏したまま対応していたが、間延びしてる上にやる気なさげなのっそりボイスを発する何かがこんなところに居ることへの興味がまさり顔をあげる。


そこに居たのはとんがり帽子を被った、なんとも覇気のない生首と杖だった。

……いや、違う。背が低すぎて首から下がテーブルで隠れてるだけだこれ。


「ちんまい……」

「わたしを見て開口一番それとか失礼なやつなの。……まぁいいの。そういうのは言われ慣れてるの。とりあえず相席させてもらうの。拒否権はないの」


帽子を取り、綺麗な銀髪が外気にさらされ、そしてそのままちょこんと有無を言わさず席につかれる。しかし、座るとどうあがいても目から上のパーツしかテーブル越しに視認できない。

彼女はしばしこの越えられぬ壁を乗り越えようとのそのそと奮闘するが、それも虚しく店員を呼んで高めの椅子を運んできてもらっていた。


「ようやくお話できるの。お待たせなの」

「で、何の用なんだ? ……金の話なら無しだぞ」

「随分とお金に執着するの。流石のわたしもドン引きなの」


その割には表情一つ変える気配がない。というか一向に話が進まんのだが。

大丈夫なのかこの無気力ガールは。


「話がまたそれたの。本題を話すの」

「おう、頼むわ。俺も茶々入れないことにする」

「あ。そうだ。申し遅れたの。わたしの名前はクレセリカ・レレノアール・ファルブルケ・エストノアなの」

「クレ……まて。なんで名前言う時だけ微妙に流暢なんだよ」

「茶々入れないって言ってたの」

「言ったが流石に……。いや、これ以上はよそう。本気で話が進まない」

「そうしてくれるとありがたいの。あ、わたしのことは名前、長いからクーでいいの」


じゃあ最初からそれでいいだろうに。


「実はさっき貴方のことを見た目ナイトっぽかったから『エクスプロール』させてもらったの」

「おう」

「そしたら貴方、とんでもない防御力をしてるの」

「まぁ、人並み以上というか軽く人間やめてるレベルらしいからな」

「貴方の様な人材をわたしは求めていたの……」


ここで初めてクーの表情が無気力で眠たげなものから悦に浸るような、にへらっとした顔に変化し、髪色と同じ色の目を怪しく光らせる。

なんか雲行きが大分怪しくなってきたぞ。


「貴方、わたしの助手兼試し撃ちの的になるの」

「おっと野暮用を思い出した。すまんな!」


勢い良く立ち上がり、一刻も早くあの座席から出ようとする。だが――


「くふふふふ……逃がさないの。わたしに目をつけられた以上、貴方は私のモノになる運命なの」


目にも留まらぬ俊敏さで回り込まれる。というかナマケモノの擬人化みたいな奴がなんでこんな俊敏な動きをしてくるんだ……!!


「それにしても、驚いたの。貴方には『パラライズ』の魔法を掛けておいたはずなのに無効化されてたの。……もっと貴方が欲しくなったの」

「すまないが物騒な案件持ちかけてその台詞はむしろ寒気がするからやめてくれ」

「貴方のその硬くてたくましいのに惚れたの。ぞっこんなの。だから捨てないでほしいの」

「誤解を招く言い方しないでくれますかねぇ!? 防御力って主語を付けて、お願いだから!」

「でもリョーくんそういう仲の人居ないでしょ? 私のところに永久就職。そしたらリョーくんはお金の心配しなくていい。私は実験がはかどりに捗って幸せ。WIN&WIN。誰も悲しまない。これで万事OK。何も問題はない」

「俺がひどい目に遭う上に自由を剥奪されている以上問題点だらけだぞ!? 後リョーくんってなんだよ!」

「突っ込むのはいいけど同時にとか対処できないの。もしかしてそういう激しいのが好みなの?」

「だからなんでそう微妙にいやらしい言い方するんだよお前!」


なにこれ! めっちゃ疲れるんだけど! 無気力ガールかと思ったらとんだじゃじゃ馬だったよこの子!

お願いリッカ、はよ! 今まで邪険に扱ってきて悪かった! この子のほうがよっぽど質が悪い!

だから報酬がしょっぱかったとかそういうのでもいいから早く帰ってきてくれー!!


「さぁ、観念するの。どうせさっきまでの様子じゃ貴方、そのまま野垂れ死にするの。ならいっそ私がその人生を有効活用するの」

「まだ決まったわけでもない未来に身を任せるわけにはいかねぇよ!?」

「ほぼ確定事項みたいなものなの。さ、今なら家も服もあって3食におやつまでついてくる生活を保証するの。だから私と契約してわたしの実験道具になるの」

「一瞬衣食住に釣られたけど、その実ブラック通り越して暗黒だよな、その契約!」


なんとかこんとか彼女の勧誘攻撃をかわす。隠そうともしていないから間違いない。この子、可愛い顔してその実悪魔の類だ……!

というかちょいちょい魔法が飛んできてるんだよね。それも状態異常系のやつ。しかも混乱とか誘惑系の。

加護のお陰で無効化されてるけど、これ無かったら今頃奴隷ENDまっしぐらだったぞ……!


「おーい、リョウマー! 聞いて驚け……ってなんだ、そのちんまいの?」

「リッカ! リッカじゃないか! これで助かった!!」

「え、何この熱烈歓迎っぷり」


地獄に仏とはこのことか。割りと絶妙なタイミングでリッカ帰還。


「またちんまいって言われたの。プチイラッときたの」

「んー、と。状況的にはリョウマがその子に言い寄られてる……でいいのか? ダメだぞ、そいつはアタシのものだ」

「おい。俺はまだお前の所有物になった覚えはないぞ」

「これはこれは。まさかのお手つきだったの。でも名前書いてないからセーフなの。だからわたしも彼の所有権を主張するの」

「いや、何言ってんの。勝手に主張されても困るんだが」


訂正、泣きっ面に蜂だこれ。状況悪化しやがった。

いやね? 俺だって可愛い女の子に『貴方が欲しい』とか言われたら嬉しいよ? 状況がそれを許さないだけで。

片や盗賊街道まっしぐらで人生がダークサイドに落ちるし、だからってもう一方選んだら毎日のように魔法の試射の的にされるとかいうサンドバック化待ったなしとか俺には選ぶことが出来んわ。


前者は真っ当に生きたいのでそもそも却下。

後者はただ魔法の恐怖に耐えるだけの仕事だが、正直防御力あっても怖いものは怖い。慣れた頃にはかかし同然とかありそうでやりたくないわ。


なんだ、転生したついでに女難のスキルまで取得してたのか俺? そんなオプション頼んでないんだが。


「というかリッカ。そんなことよりさっき何か言おうとしてたけど何だったんだ?」

「おお、そうだったそうだった。聞いて驚け。アタシ等が倒したゴブリン達、賞金首だったんだ!」

「え、マジで?」

「そんなバカな、なの」

「マジも大マジよ。13匹全部狩ったら懸賞金2万6000セッツって賞金首でな。近隣の畑とか牧場を荒らされてて困ってたんだと」

「ということは……」

「おう。晴れてリョウマも冒険者になれるってこった。アタシは先に半分貰っておいたから、後はアンタが持っときな」


ドンッ、とお金が入った袋がテーブルに置かれる。まさかとは思っていたが、マジに金がたんまり入るとは思わなんだ。

なんかもう実はテーブルに突っ伏した時に寝ていて、これは夢なんじゃなかろうかと思い頬を抓ったが、普通に痛かったのでこれが現実だと悟る。

俺はさっと素早く袋を手に取り中身を確認してちゃんと1万3000セッツが入っていることを確認する。

中身はちゃんとその通りに入っており、リッカの少しばかり非難の声を浴びたが、相手が相手なだけに要警戒だっただけだ。俺は悪くねぇ。


「というわけだ、クー。お前の俺への交渉のカードは無くなった。だからお前のとこで魔法実験の的にはならんぞ」

「……むぅ。ならこうするの。あなた達のパーティに入れてもらうの。わたし、こう見えてメイガスだから戦力的には申し分ないはずなの」

「メッ……!? メイガスっつったら最上位ロールじゃねぇか!?」


ニアペディアでも目を通していたが、まさかこんな最初の町で発見するとは思わなかったぞ!?

ちなみに補足すると、魔法使いはメイジ、ウィザード、メイガスの順にロールが高位になっていく。

他の例だとナイト、クルセイド、セイヴァーとかシーフ、ローグ、デスペラードなどなど。


「それなら尚更俺達みたいな駆け出しパーティーよりもいいところあるだろ? というかそんだけ実力あるなら引っ張りだこだろ」

「そうなの。正確には引っ張りだこだったの。でも皆弱すぎて私の魔法に付いて行けなかったの」


事情を知ってなければ騙されそうだが、これ絶対パーティメンバー的にしただろ。超危険物件として避けられてるやつだろこれ。

戦力としては申し分ないが、流石に的にされるってんなら自由か否かの違いしかない。

ここは丁重にお断りしなくては。


「てかちょっとまて、リョウマ。アタシは駆け出しじゃないぞ?」


俺の平穏のためにクーのパーティ加入イベントをスルーする方法を思案しているとリッカが抗議してくる。


「そういえばそうだったな。因みにリッカはロール何なんだ? シーフ系なのは理解してるが」

「『エクスプロール』使えよ、って言いたいがまぁいいや。アタシはデスペラードだぞ。まぁ、なり立てだけどな」

「ハハハ、こやつめ。嘘おっしゃい! 『エクスプロール』! ………………」


悲報、最下級職俺だけだった。しかもなんか敏捷と幸運がなんかすっごいことになってました。まさにTHE盗賊なステ振り。

道理でゴブリンとやりあった時に強いなーと思いましたよ。盗賊団長やってんのも頷けるわ。


「くぅ、なら尚のことだ! 俺の肩身をこれ以上狭くしてたまるかってんだ!」

「アタシは別にいいけどな。だってアタシ、火力無いし。アンタほどとは言わないけどゴーレムとかそういう類の硬いやつ、アタシやり合いたくないよ?」

「くふふふふー。おねーさん話がわかるじゃないの。そういう人は嫌いじゃないの」


なんか着実と外堀を埋められている気がする……!


「だ、だが、クーが積極的に戦闘参加するとは思えないんだが。こんな性格だし」

「おぉ。よくわかったの。いやね? わたしもできれば戦いたくないの。面倒くさいし。でもあっちから襲いかかってくるものだから、適当にやっつけてただけなの。振りかかる火の粉はなんとやらってやつなの」

「え、まって。なにその強キャラ感溢れる経歴」

「やっぱり戦力的には申し分ないな。アタシにはリョウマがなんでコイツをパーティーに入れたくないのかわからないぞ?」

「こいつのことをわかってないからんなこと言えるんですー! パーティーに入れたら最後、俺はコイツのサンドバック確定ですよ!?」

「リョーくん、落ち着くの。別にわたしがリョーくんを的にしようがしまいが、結局モンスターにはサンドバックにされるの。ぶっちゃけ、気心が知れている分わたしのほうがモンスターより安全なの」

「んんー? あれ、そう聞くとなんだか妙にマシに思えてきたぞ? 言ってることは結局俺を的にするってことなのにおかしいぞー?」

「くふふふふー。今ならリョーくんが有り余るその防御力でわたしに協力してくれれば強力な魔法使いが仲間になるの。お得なの。これを逃す手はないの」


俺の中で戦力と身の安全の両方が天秤にかかる。

俺達の目的は魔王討伐だ。その際にはきっとリッカが言っていた高い防御力の奴が居るかもしれない。そういった的に対応できる仲間がいるのは心強い。

しかし、それはそれ。これはこれだ。正直何されるか分かったもんじゃない以上クーを信用出来ない。というか何故にリッカは反対しないのか。

リッカからしたら俺を横取りしようとする敵だろうに。


「そうだ、リッカ! お前俺の所有権剥奪なんてことになるかもしれんのにいいのか!?」

「あー? いや、別にさせねぇからいいよ? そもそも負ける気なんかさらさら無いし」

「あぁ。さいですか……」


駄目だ! 退路が完全に絶たれた!

リッカもクーのことを割りと気に入ってるみたいだし、俺が我侭をやめるだけで戦力上昇が図れる状況だし!

くそぅ、南無三!


「だぁー!! もうわかった! 好きにしろ!」

「くふふ。契約成立、なの。物分りのいい人はわたし大好きなの」

「その代わり!」

「その代わり、何なの?」

「試射は一日一回に留めてください、お願いします」

「むぅ。ちょっと物足りないけどわかったの。これからよろしくなの」


グッバイ、俺の平穏。何事も適度がいいって確信したよ。

過ぎたる力と硬すぎる防御力は身を滅ぼす。いい教訓だ、クソ。


「んじゃ、話も纏まったことだし、登録に行ってきたらどうだ? ちょいと手続きとかあるけどそんなに時間かからんはずだし」

「そうする……。あぁ、なんかもうドッと疲れたわ。正直早く宿屋のベットで眠りにつきたい……」


フラフラと再び受付まで足を運ぶ。どうやらリッカとクーは談笑を始めたらしい。

仲がいいのは結構だが、正直これからのことを思うと憂鬱で仕方がない。


受付につくと、エレナさんがこっちをニヤニヤしながら見ていた。

何事かと思い周りを見てみると何やらこちらを見てくる視線を複数感じる。


「とりあえず、登録料が工面出来たけど……何事です、これ?」

「あぁ、リッカと一緒にゴブリン対峙したって話じゃないの。しかもあの子が言うには結構な働きをしたらしいでしょ? それで皆貴方に興味津々なの」

「結構な働きも何もぶっちゃけ突っ立ってただけだぞ、俺」

「それでも、戦闘慣れもしていないのにゴブリン相手に仁王立ちできるってのは大したものよ? 大抵の人は最初は足がすくんで思うように動けなかったりするの。しかも貴方が指示を出してゴブリン全部引き受けた上に無傷だったっていうんだからもう話題持ちきりよ?」

「あー……。まぁ、それしか取り柄がないってのが実状ですけどね」

「謙遜謙遜。っと、これが貴方のギルドカードになるわ」


渡されたのはまっさらなカード。大きさとしてはキャッシュカードとかそれぐらいの大きさだ。


「それに自分の血を一滴垂らせばギルドカードは完成、そのままこの血判書にサインすればギルド登録が完了、貴方は晴れて冒険者になれるわ」

「……………………………………」


あれ、俺血出すことできるかな? ナイフ突き立てて弾かれたりしないよな?

こんなところまで防御力を発揮しないよな? 大丈夫だよな?


恐る恐る貸してもらったナイフを親指に突きつける。

チクリ、と痛みが走り、血が滲みだす。どうやら俺の心配は杞憂に終わったようだ。


言われたとおりにカードに血を垂らすと、どういう原理か、一滴の血液がカード全体に広がり、血痕が消えていく。

すると色々な情報がカードに書き込まれていった。


カード所持者の名前、現在のステータス、ロール。裏面には受けているクエスト情報やギルドからの情報が自動更新で書き込まれる様になっていた。

魔法の力の凄さを実感しつつ、次は血判書にサインする。


血印を指定箇所に押すと、ギルドカードが再び更新され、表面の所属ギルド欄に『冒険者ギルド本部所属』と書き込まれた。


「これで登録完了よ。お疲れ様。これからの活躍、期待してるわよ? ルーキー君」


 エレナさんに激励とウィンクを貰い、ギルドカードを手に、二人が居る席に戻る。

正直、これから先に不安しか感じないが、まぁ成るようになるだろうと、自分を鼓舞する。

ただ、できることなら、もうちょっとまともな思考の仲間が欲しいです。切実に。


そんなことを思いながら席に戻ってみたら、リッカは懐柔されていた。

本性は真っ黒だが、黙っていれば小動物的な雰囲気のクーは彼女のお気に召すものだったらしい。

姉御肌で盗賊のお頭なリッカはどこへやら、一瞬誰か見間違うほどに変貌してしまわれたリッカがそこには居た。


「あぁー、クーはほんとにかぁいいなー」

「むふー。それほどでもないのー」


体全体からお花畑オーラ全開で、頬は緩み、クーを膝に乗せて頭を撫でくり回す。

クーの方はというと満更でも内容で無気力フェイスがそこはかとなく綻んでいる。

割りと見ちゃいけない案件な気がするが、どうにも目が離せない。

一体俺がちょっと目を離している隙に何が起こったのか。


「あ、リョーくん。お帰りなさいなの」

「――――――――――――!!!!」


リッカの動きが時間でも止まったかのように完全に停止する。

こうなることは火を見るより明らかだったろうに、どうしてこんなことになってしまっていたのか。


「あ、あぁ。ただいま。……どういう状況なんだ、これ?」

「リョーくんが受付に行った後、軽く自己紹介してたら、リッカがそわそわしだしたの。何なのか気になったから本音を聞き出すためにちょちょいと魔法(チャーム)を掛けてみたらああなったの。悪い気分ではなかったの」

「覚悟してたけど結構躊躇いなく仲間に魔法かけるなぁおい!」

「不用心なのが悪いの。でも、リっちゃん意外と乙女チックだったの。それが見れただけでもわたし満足」


本当に満足そうにリッカにより掛かる。当のリッカは依然氷漬けだ。

リッカの乙女思考への衝撃よりも、こんな形で唐突に暴露されてしまった彼女への同情が抑えきれない。


「クー。やっていいこととやっちゃいけないことの区別ぐらい、付けような?」

「くふふふふふ。からかうのは楽しいからヤなのー」


今確信した。コイツは付き合ってると身を滅ぼすタイプだと。イタズラついでにトラブル引っさげてくるタイプの奴だ。

見た目やる気無さげの癖に変なところに行動力ある、そういう面倒な案件だ――!


「そうそう、いい忘れてたことがあったの。リッちゃんにはもう話したんだけど、わたしの親友もこのパーティに入れてほしいの」

「お前の……親友……?」


脳内でイタズラっ子×2による俺とリッカへの頭痛案件大量発生とかいう最悪なイメージが再生される。


「リョーくんリッちゃんと同じ反応で面白いの。想像してるのとは全く違うの。むしろいい子なの」

「あ、いたいたー。もう、クーちゃん勝手に何処か行っちゃダメじゃない!」

「噂をすれば、なの」


声がした方に顔を向けると、そこにはクーとは対象的な黒髪と黒い瞳、高身長。そしてクーとは対象的なないすばでーな女性が居た。

黒を基調とした修道服を身に纏い、長い髪をポニーテールにまとめ上げたプリースト然としたこの女性が、クーの言う『親友』らしい。


クーはというと未だ停止中のリッカの束縛からよじよじと抜けだすと、今度はその女性に抱きついていた。


「こーら、クーちゃんこんなところで甘えないの」

「むふぅー。やっぱりミーちゃんが一番落ち着くの。包容力抜群、ふかふかぼでー……なの」

「あーもう。クーちゃんったら……」


仕方ないんだから、とミーちゃんと呼ばれた女性は優しくクーの頭をなで始める。服装が服装だから、その姿が妙に神々しく見える。

というか、ここにきてやっとまともな人に出会えた。それも聖母のような人に。

妙な感動に包まれていると、ミーちゃんと呼ばれた女性がやっとこちらに気づき顔を赤面させてワタワタし始める。可愛い。


「ちょ、ちょっとクーちゃん! なんで男の人がいるパーティーに加入しちゃったの!?」

「そこに優秀な人材がいたから、なの。でもミーちゃんにとっても悪く無い人だと思うの」

「うー、クーちゃんがそう言うならそうなんだろうけどー……」


チラチラとこちらを伺いながらクーに抗議する。なんかこういう人をリアルで見るのは初めてだし、今まで会う人遭う人大体ストロングな人ばっかりだったからだから凄く新鮮。

そして可愛い。クーを撫でている姿は絵画の聖母がそのまま出てきたかのような美しさだったが、こうしてみると年頃の女の子という感じがしてそのギャップがグッとくる。


「あの、は、初めまして。ミーフィア・エルレーン・リリティア・アーヴェントと申します。クーちゃんがお世話になりました」


なんでお前ら揃いも揃って覚えづらい名前してんだよと突っ込みたくなったが、ペコリと丁寧にお辞儀をされ、つられて俺も頭を下げてしまいその気を削がれる。


「えーと、俺はリョウマ。で、こっちの固まってるのがリッカだ。クーの親友っていう話だったからすっごく心配だったけど、貴女のみたい人なら(常識人枠として)大歓迎だ」

「よかったぁ。クーちゃんが変なことしちゃってたみたいだし断られるかと思ってました」


フニャっと柔らかい笑顔で安堵する。いちいち挙動が可愛いんだが、どうしたらいいのだろうか。


「いや、正直俺らだけだったらクーをどう扱えば良いのか分からなくなってたところだ。付き合いの長いストッパーが居るのは心強いよ」

「うぅ、やっぱりクーちゃんがご迷惑を……。クーちゃん後でお仕置きだからね?」

「う、お仕置き程度で許されるのなら、甘んじて受けるの……」

「そだねぇ……じゃあこれから先わたしに甘えるの禁止ね」

「うっ! そ、それだけはほんとに勘弁してほしいの! わたしを捨てないで欲しいの!」

「じゃあリョウマさんとリッカさんにごめんなさいしよっか」

「うー…………。…………ごめんなさいなの」


クーが素直に謝った。予想外の出来事に面食らう反面、一つ疑問が出てくる。


「あー、ちょっとまて。もしかしてクーがやらかしたらいつもこんな感じなのか?」

「……そう、ですね。いつも、この子が他の方に魔法を放って怒られて、最終的にこうやって謝るんですが許してもらえなくて……」


そりゃそうだ。誰しもいきなり仲間だと思ってた奴から魔法が飛んでくれば怒るだろう。俺だって怒る。

だが、どうにも腑に落ちない。ミーフィアの事をこんなに信頼してるクーが、何度も怒られているのに繰り返すのか。

いまいちそれが解らなかったが、ミーフィアというストッパーが居る以上クーが何かしでかす心配はないだろう。


「未だ固まってらっしゃるリッカはともかく、俺はクーを許すよ。ミーフィアがパーティに加わってくれるんならクーは何もしないだろう」

「え……」

「え、ってなんだ、断ったほうが良かったか? なら仕方ないが……」

「い、いえそんな! ありがとうございます!」


勢い良くミーフィアが頭を下げる。なんかこっちが悪い子とした気分だが、これで万事解決だろう。

とりあえずこっちの了承はしたことだし、リッカの方をどうにかしなくては。


「おーい、起きろリッカー。要解凍時間長すぎるぞお前ー」


そう声をかけながら肩を揺する。リッカは依然放心状態で、されるがままにガクンガクンと頭を振る。


「ハッ、あた、あたしは……」

「お、ようやく解凍されたか。おはようさん」


一瞬鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔していたが、何が起こったか思い出したのか俺の両肩をガッシリと掴み、うつむきながらプルプル震えだす。


「リョウマ……。見たか? 見たよな? 絶対見たな!?」


疑問符一つにつき三段階ほど肩を掴む手が強くなる。

ちなみに最後はダメージ判定が出て無効化されていたからかフッと痛みが無くなりました。


なんかもう見てらんないくらい顔を真っ赤にしながら涙目でプルプル震えてるし、ここは一つナイスなフォローを入れてやるしかなさそうだ。


「いや、あれはあれでリッカの可愛い一面が見れて良かったんだが……」

「かわッ!?」


ボンッといい音がなった気がした。そのくらい更に顔が真っ赤になったのだ。

……何か間違ってしまっただろうか。


「うーあー……何だってんだよ……」


顔を両手で隠して蹲る。そのまま転げだしそうな勢いではあるが、キッと俺を手の隙間から睨むと元の席に戻って唸りながら机に突っ伏した。


「おー……い、リッカさーん? もしもしー?」

「うー……そうだよ、どうせ可愛い物とかに目がねーよ。悪いか」

「や、悪いとは一言も……」

「嘘つけ。どーせ内心アタシみたいな男女が何つー趣味してんだって嘲笑ってんだろ」


むしろそのギャップがよろしいのですが。


「というか、リッカらしくないぞ? あって数日だかららしいモクソも無いかもしれんが、こういう時はもっとこう豪快にいくと思ってたぞ?」

「……うー……」

「そもそも、俺は他人の趣味にとやかく言うつもりはさらさら無いぞ? 良いじゃないか、可愛い物好き。自分はこういう性格だから、とか関係ないだろ」

「……リョウマ」

「そう、とやかく言われる筋合いは全く無いんだ。俺のインドア趣味の数々も、とやかく言われる筋合いは断じて無い!!」


俺の趣味を冷めた目で見てきた両親のことを俺は決して忘れない……!!


「な、なんか私怨入ってないか?」

「ンなこたぁどうでも良いんだよ! 要は自分のことなのに自信持ててないのがらしくないって言ってんだ。良いから自分の趣味に自信持て!」


ハッとした後、まだ何か引っかかるのか、またすぐにばつの悪そうな顔をする。


「……笑わないか?」

「笑うもんか」


その引っ掛かりに対し即答で返してやると逡巡し、うーうー唸るが決心がついたのか、しかしちょっと拗ねたような表情に変わる。


「……なら、そうする」

「よし! じゃあ早速だがリッカ。仲間が増えるぞ。クーも話してたらしいが、ミーフィアだ」

「よろしくお願いします、リッカさん」

「おー、アンタがクーの言ってた。おう、よろしくな!」


吹っ切れたからか思ったよりもすぐに復活したリッカは、快くミーフィアを迎え入れる。

そして隣りにいるクーを見て、一度微笑むとその頭を一撫でする。


「クーも。よろしくな」

「……! リッちゃん、怒ってないの?」

「怒ってないさ。実害なんざ最終的には無くなっちまったわけだし、怒る理由がない」

「……なら良かったの。さっきはからかうのは楽しいからやめないなんて言ったけど、嫌われるのはヤなの。特にリッちゃん、わたしに甘えさせてくれたから……」


つまりなんだ。要するにクーは構って欲しくて魔法を使ってるのか?

それも嫌われてもおかしくないようなやり方で。

何回もイタズラで魔法を行使して、パーティから除け者にされているのにか?


「クーちゃんは、不器用な子なんです」

「ミーフィア?」


そんな疑問を持っていると、それを察したのか、ミーフィアが語り出す。

その目はまっすぐクーを。その顔は、慈しむように。


「ミーちゃん、それ以上は駄目なの。言っちゃダメなの」


だが、それはクーに遮られた。


「……そっか、そうだよね。うん、わかったよクーちゃん」

「なんだよ、気になるな」

「ごめんなさい。あの子のことだから、私からは言っちゃいけないみたいです」


中途半端なことになってすみませんと頭を下げられる。

謝られると正直どうしたら良いかわからんが、まぁ、そんなにズケズケと入り込むことでもないか。

気にならないといえば嘘になるが、クーが抱えている何かは、今は触れるべきものではないということだろう。


―――

――


「さて、各員の戦力確認といこうじゃないか」


あの後改めて自己紹介を終え、テーブル席に腰を落ち着かせた俺達は食事の注文をそこそこにこれからどうするかという会議を行っていた。


「まずは俺からだ。……とは言え駆け出しも駆け出しでな。リッカと倒したゴブリン13体でようやくレベル3、使える魔法に『シールドエンハンス』が追加された位だ。俺は今盾持ってないし無用なスキルなんだが、そのうち買うつもりだ」


『シールドエンハンス』は盾を使って防げる範囲を魔力で増やし、さらに盾を壊れにくくする魔法だ。

ちなみに『ライトアロー』という光属性魔法も習得してたはずだが、消失した。攻撃能力の一切が消えるという徹底ぶりに驚きを通り越して呆れるが、まぁ、仕方ないと割り切るしかなさそうだ。


「で、リッカとクーは『エクスプロール』したからわかると思うが、防御力しか取り柄がない。攻撃には一切参加できんからよろしく」

「確かに、リョウマのその攻撃能力の無さはもはや芸術品レベルだよな……」

「まさに『壁』なの。ただ、何物も通さないという点ではただの壁ではなく『鉄壁』、なの」

「『鉄壁のリョウマ』……あれ、なんか響きがめっちゃ格好良くね?」

「いや、高レベルが名乗るならまだしも、お前のそのレベルじゃ鼻で笑われて終了だぞ」

「やっぱり? 二つ名っていうのはやっぱりそういうもんなのか」

「精進あるのみ、なの。活躍してたらいずれ誰かが勝手に呼び始めるの」

「有名所で言えば王宮騎士団長の『聖盾のフェイン』とか、かの盗賊団長『黒鳳蝶』とかですね。後者の方は噂では襲名制らしくて、今の代がどういった人物かわからないんですよね」


黒鳳蝶さんならそこでちょっと嬉しそうにサラダ食べてますよ、ミーフィアさん。

しかし、どうやらリッカは結構有名な盗賊団の団長だったらしい。後でちょっと詳しく聞いてみよう。


「俺の戦力情報は以上だな。正直武器にも防具にも見栄で買う程度しか金が掛からんし、まぁ生活を圧迫することはないと思うぞ」

「『安い男リョウマ』、なの」

「人聞きの悪い言い方するんじゃねーよ! っておいリッカとミーフィアも笑うな! 割りとそのとおりだけども!」


せめてローコストと言って欲しい。意味合い的には同じだけども。


「ほら次だ次! リッカ、報告!」

「わーったわーった。……コホン、デスペラードに成りたての31レベルだ。盗賊行為はお手の物、他にも偵察、陽動、破壊工作などなど。やれることはいっぱいあるぜ」

「『エクスプロール』したから分かってたつもりだったが、改めて聞くと歴戦もいいところじゃないか」

「へへ、まぁな。だが、リョウマと同じく一定の強度の敵相手だと役に立たなくなるから、そこはよろしくな」

「シーフ系の悲しき定め、なの」

「その代わり補助スキルが豊富だから戦闘以外に光りますよね」

「おう、遺跡探索とかは任せてくれ」


実際、リッカクラスともなると鍵開け罠解除などもお手のものなのだろう。これは大いに期待できる。

ただ、やはりと言うかなんというか、リッカ自信も言っていたがそういう遺跡とセットで出てきそうなゴーレムとかは全く出だしが出来なくなりそうだ。

聞くと、そういう時は合わないようにやり過ごす、あったら会ったで即逃げるを徹底していたらしい。

なんというか、結構合理的な考えをしていて驚いたが、まぁ、このレベルになると彼我の力量差を見極められないと死を招くみたいだから当然といえば当然か。


「あとは……そうだな。リョウマがめでたくレベル3になったことだし、約束してた『ナイトウォーク』の修練を今晩にでもやるか」

「お、ありがたい。アレがあれば夜とか暗いところの戦闘でもパーティ庇えるようになるしな。戦略の幅が広がりそうだ」

「あ、あの。わたしも一緒に教えてもらっていいですか?」

「勿論だ。クーはどうする?」

「わたしはいいの。正直暗いの怖いし、それ以上にその暗いのの全貌がわかるほうがもっと怖いの……」

「あー、クーちゃん暗いとこダメだもんねー」

「以外だな。なんか、クーは暗いところとか好きそうなイメージだったぞ」

「リョーくん、それは心外なの。わたし、ぽかぽかしたお日様の下で草の上に寝るのとか大好きなの」

「それはそれでイメージと乖離しすぎだと思うんだが」


いや、むしろ絵になるのか? 割りと暗いところで『くふふふふー。今日も新しいお薬ができたのー』とかやってそうだったが、意外と健全なアウトドア系の魔法使いなのかもしれん。


「あ、でも『ナイトウォーク』修練ならわたし夜にひとりぼっちになるの。それはヤだから修練は受けるの。使わなきゃ問題無いの」

「わかった。じゃあ全員夜にまた集合な。……よし、アタシからは以上だ。んじゃ、ミーフィア、次頼む」


「はい。ええと、プリーストでレベルは6です。一人で村を出て行ったクーちゃんを追いかけて冒険者になったので、リョウマさんと同じく駆け出しです」

「あれ、意外だな。てっきりクーと二人旅してたもんだと思ってたぞ?」

「ミーちゃんには悪いと思ってたけど、旅をするならミーちゃんは危険だと思ったの。……追いかけてくるのは本当に誤算だったの」

「それで、一週間くらい前にやっとこの街でクーちゃんを見つけて、一緒になったんです。会った時は私を見るなり……」

「ミーちゃん、ダメなの! 言っちゃヤなの!」

「ふふっ。一人旅に出たーなんて聞いた時はビックリしちゃったけど、今までと変わらない甘えん坊さんで安心したよー」

「あうぅ……」


おお、あのクーが恥ずかしさでただでさえ小さいのに帽子の両端つかんで縮こまってさらに小さくなってる。

やはりヒエラルキーはミーフィアが上か。


「それに、私だってレイヴン族だもん。いつまでも何もできないと思ったら大間違いだよ!」

「レイヴン族つったら一族全員が魔法使いとして優秀な素質を持って生まれ、黒い眼と黒い髪、そして体の一部に魔法陣が浮かび上がる一族だっけか」

「はい。私の場合は右手の甲にありますね」


そう言いながら、手袋を外し、右手を差し出す。

そこには黒く、仄かに発光する魔法陣が刻まれていた。


「クーちゃんもレイヴン族なんですけど、あの子は人一倍魔力を持って生まれたんです。その為か、他の皆とは違う容姿なんです」

「ちなみに私の魔法陣はここなの」


すっくと立ち上がってガバッと上着を捲り、お腹を見せる。そこには青白く、淡い光を放つ魔法陣が刻まれていた。……って


「まてまてまて! こんなところでそんなことするんじゃありません!」

「言うより見せたほうが早いの」

「羞恥心というものが欠如してらっしゃるよこのロリっ子!」


ストッパーたるミーフィアはいつものことなのか諦めて苦笑いしてるし!

くそぅ、魔法関連以外にも破天荒な行動してくるじゃないのこいつ!


満足したのか上着を元に戻し一息つくと、ストンと着席した。

なんというか、どこまでもマイペースなやつだな……。


「あはは……。えっと、私はまだ駆け出しですので、できることはあまり無いですが、簡単な状態異常の回復や傷の治療などができますので、怪我した時はいつでも仰って下さい!」


最上級二人が先にパーティ加入してきて肩身が狭かったが、ここに来てミーフィアが俺と同じ下級職で、ほんのり気持ちが楽になった。

というか何気にバランスの取れた良いパーティなのではないだろうか。


「じゃあ最後はわたしなの」


相も変わらず眠たげ&気だるげ度が絶好調な表情のクーが、すっと手を挙げる。

『振りかかる火の粉を払ってたらメイガスになっていた』と言っていたが、果たしてどんな実力を持っているのか。


「まず、なんかリョーくんから期待の眼差しを感じるけど、別にそんなリッちゃんほどすごいレベルじゃないの」

「え、そうなのか?」

「メイガスとはいえレベルはまだ18程なの」

「じゅうはッ……!? いやまてクー。最上級ってのはレベル30以上でロールチェンジ可能な代物じゃなかったか!? そのレベルじゃまだウィザードにすらなれないだろ!」

「くふふふふー。甘いのリッちゃん。はちみつかけたふわふわのパンケーキ並みに甘いの。わたし、こう見えて天才なの。そんじょそこらのメイジたちと一緒にしないでほしいの」


ふふん、とドヤ顔決めるクー。試しにと俺とリッカが『エクスプロール』してみたところ、知力と精神力以外軒並み低いが、その二つは異常に高かった。特に知力はずば抜けている。

魔法使いの魔法使いの知力の基準はわからないが、リッカのあいた口が塞がらない様子を見る限り、かなりの物なのだろう。


「ミーちゃんとはちっちゃい頃から一緒で、大親友なの。ねー」


ねー。とミーフィアが同調する。確かに、甘えたがりとお世話焼きって感じの関係でかなり親しげだ。


「ちなみに、ミーフィアとは何年来の付き合いなんだ?」

「んーと、わたしが五歳の頃からだから八年なの。ちなみにミーちゃんその時十歳なの」

「マジか。え、いやマジで?」


十三歳の少女が一人旅とかちょっとクー、お前豪の者過ぎないか。


「十三かー。アタシもその位には親父と色々やってたなぁ……」


あ、これ豪の者が割りとデフォルトな奴だ。いや、比較対象がちょっとおかしい部類なのかもしれないけども!


「そういえば、リョーちゃんとリッちゃんてお幾つなの?」

「俺は二十だ」

「アタシは二十三だな」


マジか、リッカ年上か。てっきり同い年だと思ってたわ。


「おー……ということはお酒も呑めるの……。どんな感じなのか教えてほしいの。大変興味があるの」

「やめとけやめとけ。クー位の歳で呑むもんじゃないよ」

「むぅ。リョーくん」

「ダメだぞ?」

「まだ何も言ってないの。でもわたし諦めないの。いつかきっとお酒呑んでみるの」

「珍しくやる気に満ちてるところすまないが、あと七年後に呑めるからそれまで我慢しなさい」

「リョーくんはケチなの」


ちぇっ、とちょっと拗ねた表情をして足をプラプラし始める。なんかリッカがお酒を頼もうとしてるが阻止。

こっちの世界じゃどうなのかはしらんけど、いくらなんでもクーに呑ませるのは洒落にならん気がするわ。


「まぁいいの。話を戻すの。……わたし、魔法全般一通り扱えるけど、得意なのは能力の加減や状態異常系なの。一応攻撃魔法も扱えるには扱えるけど、注意してほしい点があるの」

「クーちゃん、まだアレ直ってなかったんだ……」

「激流に身を任せるのもまた一興……なの」

「格好良く言ってるけど、反動で吹き飛んじゃうってだけだからね?」


どうやらクーは、意外とポンコツだったらしい。

というか反動で吹き飛ぶってどういうことだよ。魔法の制御しろよ。


「最大火力でぶっ放すのがたまらなく楽しいから反動とか考えられないだけなの。だから私は悪く無いの」


ポンコツというか、ただの火力厨でござったか。


「というわけなの。前線でて敵を食い止めるのがリョーくんだから割りと遠慮なしに最大火力でぶっぱできるの。楽しみなの」

「うぐ、いや、仕方ないか。わかった。甘んじて魔法の巻き添え食らってやる」

「あれ、リョーくんが素直になったの。どういう心変わりなの?」

「攻撃能力なし、代わりに防御力が半端ない。なら俺のできることは敵がお前たちのラインまで行かないように前線で食い止めることだけだからな。自分がやれることをやるって決めただけだよ」

「おぉ……いつの間にそんな覚悟を。やはりアタシの目に狂いは無かったか」

「まさにナイト、ですね。憧れちゃいます」

「てれれん。クーのリョーくんへの評価が上がった、なの。リョーくんにはかなり期待してるの」


おお? なんか評価がモリッと上がったぞ?

タゲ取り食い止めは盾職の基本。それをリアルで忠実にやるとここまで評価されるものなのか。

……いや、実際誰にでもできることでは無いのか。敵の攻撃を一身に受けるというのは並大抵の恐怖じゃないからな。



――――ふと、この『防御力が無くなったら』という考えが頭をよぎった。


リッカもクーも、俺ではなく俺の防御力に惹かれて仲間になった。ミーフィアも、クーがいるから仲間になったのだろう。


――――仮に。もし仮にこの防御力がなかったら、俺はどうなっていた?


リッカは俺に見向きもせず、俺の身ぐるみを剥いで何処かへ行くだろう。

最悪そこで死ぬ。運良く生き残っても森の獣やあのゴブリン達に殺される。


――――命乞いをしていたゴブリンの顔を思い出す。


アレは俺だ。俺が辿ったかもしれない結末だ。


――――なら、その力で慢心するな。


人は傷つけられれば傷つくし、それを重ねればいずれ死ぬ。

そんな当たり前のことから目を逸らしているのが今の俺だ。

この力は俺のものではない。俺に貸し与えられた、いつ消えるかもわからない物だ。


――――死への恐怖を心に刻め。


俺が欲しくて得た力。だがそれを我欲に使うな。

俺が俺であるために。俺が人でいられるために。

借り物のニセモノではなく、俺のホンモノで。

『彼女等を守る』という思いで力を使え。


――――手の届く距離、そこにあるものを守る。


それがきっと。俺がこの力を手にしてから生まれた使命なんだ。


――――だから。


「任せておけ。その為の俺の防御力だ」


この力がもし失われたとしても皆を守れるように。

強くなろう。そう、決意した。

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