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鉄壁→転生  作者: キール
第一章
2/6

-1話- 転生→盗賊

 拝啓、父さん、母さん。お元気でしょうか? 今僕はネクトという異世界に居ます。

どうやらファンタジーな世界らしく、地球の様な発達した文明は無く、発達度で言えば中世位のTHE王道なファンタジー世界っぽいです。

いたるところに未開の森だったり山だったり洞窟だったりがあるみたいで、野生の動物も結構居て、自然豊かな空気のおいしい世界です。

もう暫くこの自然を堪能したいところですが、どうやらそれも出来ないみたいです。


今、夜。しかも森。あの女神(笑)はよりにもよって始まりの街っぽい場所ではなく森をスタート地点に、その上昼ではなく夜にセッティングするとかいう暴挙に出やがりました。

ビバ文明な現代人だった僕にはとてもとても辛い環境に放り出されてしまいました。


しかも今周りでめっちゃガッサガッサいってて何か居る気配しか感じません。


もしかしたら開始早々『ざんねん わたしの ぼうけんは ここで おわってしまった!!』となってしまうのかもしれません。


もし生きてこの森を抜けられたらその時はまた、ご一報します。 敬具


―――

――



「なぜにこげな場所で冒険スタートなんだ……」


いい感じの大樹があったのでその根本で体育座りをしながらぼやく。

もっとこう、なんというか綺羅びやかなものを想像していたのに、すっごい裏切られた気分だよ。


異世界転生した主人公はなんかこうしょっぱなからその有り余る力を行使して世界の住民から一目置かれる存在になるとかそういう展開じゃないの、これ?


「で、この周りを囲まれてる感溢れる気配はなんでせう」


いや、ね? なんかこう野生の動物かなんか知らないけどさっきから周りの草むらでガサガサいってるんだよね。

しかも夜。火も明かりもない状態で。強いて言うなら月明かりのみ。現代っ子な俺には怖くて、逃げるなんて真似出来ると思ったら大間違いだぞ。


「くそぅ、来るなら来やがれってんだ。か、かかか返り討ちにしてやんよ」


立ち上がりシュッシュ、とシャドーボクシングで周りの気配に威嚇する。


「へへ、おもしれぇ。やるってんのか、俺達と?」



Q:冒険を初めてすぐになんか全身黒ずくめの盗賊集団とエンカウントしましたが、バグでしょうか?

A:仕様です。諦めましょう。



数はざっと5。明らかにチュートリアル戦闘の域を逸脱してると思うのですが、俺はどうしたらいいのでしょうか。


「やると言ったらどうする?」


強がりで盗賊に向かって話しかける。


「痛めつけた後に持ち物全部剥いでやるよ」


盗賊はニタニタ笑いながらナイフを舐める。その目は猫のように薄く光り、ナイフもまた付着した唾液が月明かりに照らされ、怪しく光る。


「おぉ、そうだ。命乞いをしてもいいんだぜ? そしたら痛めつけるのはちょっとにしといてやるよ」

「どっちにしろ痛めつけんのかよ!」


どうやらやるしか無さそうだ。どっちにしろ痛い目見るなら最後まで抵抗してやる……!


しかし、武器がない。ナイトになり、鎧姿になった時におまけでついてきていた背負い鞘と剣が無い。

剣を取ろうとして背に手をやるが虚しく空を切るばかり。


――――「いえ、世界からの修正はどうしようもありません。あまりに強大すぎる力を持っていると均衡を保とうと、ある程度能力制限に引っかかってしまうのです」

――――「例えば、どんな?」

――――「貴方の場合ですと、最強の防御力を手に入れる代わりに攻撃力が皆無になる、とかでしょうか」

――――「マジか」


そんなやり取りを思い出す。つまり抵抗力皆無。まさかの初期装備鎧のみ。後は何もできないとか言うマゾっぷり。


「流石に武器は貰えると思ってたぁぁぁぁあ!!!!」

「なぁにわけの分からねぇこと言ってやがる!」


盗賊の1人がナイフを振りかざしながら目の前まで接近する。

あまりにもアレな事態に軽いパニックを起こしていた俺はその動作への反応が遅れる。


「ま―――」


マズい、死んだ。そう確信する程にその凶刃は兜をしていない俺の顔に狙いをつけて切りつけられる――!


キンッ!


「は?」

「え?」


しかし、その刃は通ることはなく、皮膚スレスレで止まる。刃と皮膚が当たった時にはまず出ない音を出しながら。

当たった感触はある。というか尖ったものを近づけた時に感じるあの感覚が頬にあるし、ナイフの冷たさも先端から少しばかり感じる。

しかし通らない。さっきから切りつけようとした盗賊がやけくそになってやたらめったら斬りつけてくるけどダメージが感じられない。


「なにやってんるだよ、遊んでんじゃねーぞ!」


他の盗賊から笑い声と野次が飛ぶ。しかし、目の前の攻撃してくる盗賊は、その手を止め、ありえない物を目の当たりにしたような形相で震えながら後ずさる。


「ち、違う。コイツ、硬すぎるんだ! ありえねぇって!」

「お前が非力なだけなんじゃねぇの?」

「どれ、いっちょ試し、く、この……んだこれ!?」


周りの盗賊も力試しにと言わんばかりに遠慮もしないで俺に斬りつける。しかしノーダメージ。誰ひとりとして俺を傷つけることは出来ない。

でも怖い。すっごく怖い。殺気剥き出しに斬りつけてくるもんだからダメージ無いの分かってもすっごい怖い。

でも、求めていたものが手に入るのは凄く気持ちがいい。


何物でも傷を付けられない防御力、それを手にした事を改めて実感した。


「どうした、終わりか?」


でも実際すっごい怖いので終わって下さいお願いします。大分虚勢張ってるけど限界だから俺!


「こ、の……いい気になりやがって! 何者だテメェ!」

「ただの迷子だ!」

「ふざけんなこの野郎!」

「ふざけてねぇよ大真面目だよ畜生! できればあったかい寝床とご飯を提供してくれると嬉しいです!」

「やらねぇよ!? 追い剥ぎしようとした奴に施す盗賊がどこに居るってんだよ!」

「あ、それもそうか。ならここは見逃して、近くの街まで連れてけ下さい!」

「随分厚かましいなぁ、おい!」


くぅ、なんて強情なやつなんだ。ここまで頼み込んでるのに一向に承諾しやがらねぇ! 話が分かる奴は居ないのかくそぅ!


「何事だい、アンタら! 1人に何を手間取ってんだい全く!」

「お、お頭! そ、それには事情が……」

「大の男がうだうだ言ってんじゃないよ! ったく。いつの間にウチの男衆は腑抜けになったんだい!?」

「す、すいやせん!」


そんなことを考えているとなんか、これまた話の通じ無さそうかつ物凄く気の強い(声や喋り方から察するに)女性が奥の方から現れやがりました。

なんだ、試練か。攻撃手段を持たない俺には『会話』コマンドを選択するしか無いのに、『たたかう』しか選択肢がない盗賊相手に立ち回る試練なのか。


『お頭』と呼ばれたその女性はジロリと闇夜に光る紅い双眸をこちらに向けると、深い深ぁーい溜息をつく。


「アンタらが手こずるってんだからどんなゴリラかと思ったら、こんな優男相手に何やってんだい!」

「ですがコイツやたらめったら硬くて、攻撃が一切通らないんすよ!」

「硬い、だぁ?」


再びジロリとこちらを睨む。というかなんだ? 盗賊ってのは目が光る人種か何かなのか?

夜目が利くとかそういうレベルじゃないと思うんだが。


「どれ、『エクスプロール』!」


エクスプロール……。ニアから渡された基礎知識の中にもあったな。確か対象のステータスを読み取る基本魔法だったか。

これが使えないと戦士としては半人前もいいところとかそんな基礎中の基礎の魔法だったはず。

その魔法を使われた、ということは俺の全部があのお頭さんに見られてる、と。やらしい意味は一切なく。


「サガラリョウマ、ロールはナイト。レベルは……1って、あんたら駆け出しもいいところの奴に遅れを取ってたのかい!?」

「レベル1!? そんなバカな! コイツの防御力はそんなレベルじゃなかったはずですぜ!?」

「嘘こけ。えーと? ステータスは……え、なんだこりゃ」


なんかお頭さんがドン引きしてらっしゃる。や、顔は見えないから雰囲気だけだけど、ものすっごくドン引きしてらっしゃる。


「ど、どうしたんですかい、お頭?」

「攻撃力と防御力以外、全部レベル1のそれだ。これは間違いない。だが、物理と魔法の攻撃力0ってのはなんだ」

「攻撃力0、ってそりゃ赤ん坊以下ですぜ!?」


悲報、地球の頃の俺はマンボウで、今の俺は赤ん坊以下でした。


「わからないのは筋力があるのにこの様ってことだ。そして何よりこの防御力だ。……全く読み取れねぇ」

「読み取れないは無いでしょうお頭。そりゃただ単に『エクスプロール』の掛かり方が悪いだけですぜ?」

「いや、『エクスプロール』は成功している。コイツの防御力はアタシ等には読み取れない数値ってことだ」

「んな馬鹿な……」

「ついでに言うと防御関連についちゃコイツは鉄壁だ。物理も魔法も状態異常も効きやしねぇ。なんでこんな奴が今までノーマークで存在していたのかわからんくらいに、な」

「ど、どうしやしょうお頭?」

「………………」


お頭さんが押し黙り、考えに耽る。どうやら世間一般からしたらこれでもかという程に硬いレベルで、人間卒業認定を受ける程に俺の防御力は高いらしい。

だが一応痛覚は存在しているし、触感もある。だから恐らく世界からの干渉を含めて考えるとニアの加護は『攻撃能力を一切なくす代わりに、攻撃判定として扱うダメージを全てカットする防御力を得る』という代物なのだろう。


「おーい、取り込み中すまんが、俺は一体どうすりゃいいんだ?」


とりあえずなんか当事者なのに置いてけぼり食らってしまったので話しかける。

今の盗賊ズの反応を見るに俺を無下にはしないだろう。


「リョウマ、とか言ったか。ウチの男衆が迷惑かけた。謝罪しよう」

「お、お頭!?」

「うん。本当にえらい迷惑だったよ」

「ぐっ。……詫びと言っちゃあなんだがアンタ、今行く宛が無いんだろう? ならウチに来い。1晩泊めてやる」

「え、ヤだよ。一度襲われてんのにホイホイ付いてけるわけないだろ」

「ぐぅっ。……ど、どうしてもか?」

「うん。どうしても。ほら、危ない人には付いてっちゃダメってよく言うだろ?」


俺は真っ当な異世界ライフを過ごしたいんだ。今のこいつらに付いてったらそのままの流れでナイトからローグにロールチェンジしかねん。

無下にはしてほしくないが、正直ついてこいシリーズは罠の臭いしかしない。そのままゲームオーバーもありうる選択肢だ。

ここは慎重に行く。


「て、テメェ! お頭がこんなに頼み込んでるのになんてふてぇ野郎だ!」

「そうだそうだ! 防御力も硬けりゃガードも硬いってか!」


なんか盗賊が微妙に上手いこと言ってるがこの際無視だ無視。


して、お頭さんの方だが、どうやら断られるとは考えもしなかったらしく、ワナワナと震えている。

しかし、諦めがついたのか『あー!』と声を上げ頭を掻きむしる。


「わーった! アジトに泊めてアンタを籠絡するのは無しにする!」


危ねぇ。


「だけどアタシもアンタを諦めるつもりはない。何せこんなレアもんだ。手に入れなくちゃ盗賊の名が廃るってもんよ」

「……あー、お頭の悪い癖が……」


周りの子分達の反応を見るにヤバイ案件になりそうな予感がする。まさかどちらにせよ何か起こってしまう強制イベントの類だったのだろうか、これは。


ガバッ、と頭を覆っていた外套を脱ぎ、素顔が月明かりに照らされる。

正直口調や正確からしてアマゾネス的なサムシングを想像していたのだが、大いに予想を裏切った。


紅く光る双眸、邪魔にならないようにか乱雑に切られた濃紫の髪。

髪の乱雑さの割に整っているが薄っすらと、しかし視認できるほどの傷が頬にある顔立ち。

正直、見惚れた。不意を突かれたからというのもあるが、それ以上に月夜に浮かぶその姿が美しかった。

男たちの士気を高め、纏めるには十分すぎる美貌を、外套の下に持っていたのだ。


「勝負といこう、リョウマ。どっちが先に音を上げるかの勝負だ。アタシはアンタを追いかける。アンタはアタシから逃げる。どうだ、簡単だろう?」

「ちょ、お頭!?」


思わず『負けでいいや』なんて考えも生まれたが着いてったら最後尻に敷かれて自由が消失する未来しか見えない。

己が理性を総動員して、強気に条件を聞く。


「因みに俺が負けたら?」

「アタシのモノになってもらう。アンタが勝ったら今回は縁が無かったと諦めるさ。まぁ、根気勝負だ。アタシはもちろん諦めるつもりは無いからね」


つまり『どうせ勝つのはアタシだ』と言いたいのだろうか。ドヤ顔だし。なんかムカつくぞ。


「わかった。その勝負乗った。ただし条件がある。こっちの分が悪い勝負だ、それくらいはいいだろ?」

「なんだ? 言ってみろよ」

「近くの街まで、連れてってださい」

「ぷ、ははははは! あ、アンタ本当に迷子だったのかい!? はははははは!」


お頭さん、大爆笑。俺にとっては割りと死活問題なんだが。


「悪いかよ。で、どうするんだ? のむのか、のまないのか?」

「勿論のむさ。いやね、期日でも設けんのかと思ってたから拍子抜けしちゃったよ。……迷子……くくくっ」

「あ、その手があったか。じゃあそっちで」

「おおっとその手はのらないよ? もう街に送るって条件で契約したんだ。男に二言は許さないよ?」

「ぐっ、くそ。上等だ。思い通りに行くと思ったら大間違いだぞ」

「よく言ったね。アンタが音を上げる姿が楽しみだよ」


ニヤリと笑うと今度は諦めムードな子分達に顔を向ける。


「アンタら、悪いね。そういうことだから」

「わかってますって。お頭のそういうところが好きで俺たちは着いてってるんすから、止めませんよ」

「なーんかお頭がポッと出の変なのに取られる気分で複雑ですけどね」

「馬鹿言ってんじゃないよ! 取られるんじゃない。取りに行くのさ!」

「お頭……」

「さぁ、しんみりしたのは無しだ! アタシが戻ってくるまで黒鳳蝶盗賊団は一時解散! 各員自由に行動せよ! 以上!!」

「イエスマム!!」


名前のクールさとは真逆の熱血感溢れる盗賊たちのノリに付いて行けないが、どうやら円満に事が運んでいるようだ。

クソ、なにか騒ぎが起きればそれに乗じてこの場を退散することも出来たんだが……。世の中ままならないものだなぁ……。


―――

――


子分たちが散開し、夜の森にお頭さんと二人きりになる。

男女二人きり、しかも相手はとびきり美人という男子なら誰もがうらやましがる状態だが、状況的には蛇に睨まれた蛙も同然。

負けたら尻に敷かれるの待ったなしな自由を賭けての勝負だ。別の意味では緊張する。


「さて、リョウマ。今からアンタは私の獲物(おたから)だ。黒鳳蝶盗賊団長リッカの名にかけて、手に入れるまで狙い続けるよ」

「こうなったら望むところだ。お前を振りきって自由を謳歌してやる」


ほぼパーティ強制加入みたいなモノだが握手は無い。

何故なら今の俺達は獲物と狩人。仲間として握手するとしたらそれは俺が敗北した時だろう。


だが状況としては悪く無い。攻撃できる奴が近くにいるのはこの上なくありがたい。

どんな敵と戦おうとも逃げ続けなければならない状況よりはかなりマシだろう。

……攻撃できる側もヘタしたらこちらを狙いかねんのは問題だが。


「さて、約束だ。まず街に連れてってもらおうか」

「あいよ。ただし、夜の森は危険だ。一晩休んでから出発だ。いいね?」

「その危険が何を言うか」

「ははっ、違いない」


こうして、ただでさえ前途多難な旅に更なる頭痛要因が増えてしまった。

願わくば、これから先はそんなに面倒なことが起きませんように。

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