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赤いチョコレート

作者: 津雲つづら

 二月十四日。この日が何の日か知らない人はそう多くないであろう。そう、好きな相手、あるいは愛する異性にチョコレートをあげたり、あるいは相手からもらったりする日である。

 黎人(れいと)もそのイベントに参加する一人。なぜなら彼はリア充である。何年も交際を続けている千代子(ちよこ)から手作りのを受け取るのである。

「時は満ちた! 今年も彼女からチョコレートをもらう!」

「くそ、リア充爆発しねえかな」

 黎人の友人、(そら)()は憎らしげな目線を送る。

「お前も最初は俺たちの関係を讃えてくれたというのに……今となってはリア充を見るなり嫉妬をむき出しにする非リア充へと成り下がってしまった……」

「いや別に男女で交際してることには何も文句はねえよ」

「じゃあ何が問題だというのだね? 根拠なく他人を侮辱するのはやめたまえよボーイ」

「その反応だよっ! 俺に彼女がいないからといって目の前で見せびらかすように振舞ったり馬鹿にするような発言をするところだ! 滅びろこの野郎!」

「ふっ、愛の力があれば私は何度でも蘇るさ」

「飛行石持たずに飛行船から落ちればいいのに……」

 二人がギャアギャア言い合っているところに、千代子が近づく。

「なになに、なんの話ししてるの? 空に浮かぶ島の話?」

「違う、もとはと言えば黎人がリア充のねちっこい熱気を俺に向けてきたからそれを叱ってやっただけだ」

「そう俺は、夢とロマンを求めて! 探しに行くんだ、そこへ――」

「なんかラノベの話してるっぽい?」

「なんで千代子のイントネーションが何とかコレクションみたいなんだよ。あとラノベの話じゃない、こいつの青春ラブコメが間違ってるって話だ」

 空希はため息をつくと、二人を残して放課後の教室を後にした。


***


空希はその後家に帰ってひとしきり課題を終えた後、物寂しさを感じて電車に乗った。彼女はいないが、せめて雰囲気でも味わおうと都市部のはずれにある大きなハート型の岩を見に行くためである。

時刻は午後十一時過ぎ。空は街の光によって霞み、冬本場を過ぎたとはいえ、大気はいまだ凍てつくような風を僅かに吹かせる。橙色をした街頭が岩を薄暗く照らしている。

「まったく、これが茶色だからだろうな」

 終電も近くなっており、人影はない。数時間前なら、ここはいくつものカップルで溢れかえっていただろう。

街頭がチカチカと瞬く。気配を感じた空希が振り返ると、黎人・千代子カップルがいた。

「あれ、空希じゃん! どしたのこんなところで」

 千代子が目を丸くしている。黎人は逆に哀れむような目線を空希に向けていた。

「ははー、さてはお前、雰囲気を感じにきたんだろ?」

「……正解だ」

「空希だけに空気を感じに、ってところかな!」

「おい千代子、今だけはその駄洒落はよしてくれ、寒い。気温も心も」

「だいぶやられちゃってますねー、メンタル」

 言葉のわりに心配する素振りを微塵たりとも見せずに、黎人が岩に近づく。

「よし、ここいらでひとつ怪談とシャレこもうか」

「この時期にかよ。温まる話をしろよ黎人」

「まあいいじゃねえか。雰囲気としては最高だしな」

 黎人は岩に手をついて話し始めた。

「実はこの時期、行方不明者がこの近辺で発生する話は知ってるか?」

「ああ。バレンタインを嘆いた人々がヤケを起こして失踪するとか、カップルで駆け落ちだとかいろいろ言われてるみたいだけど」

「それが怪談と何の関係があるのさー」

 千代子が帰りたそうに身体をブラブラと揺らす。

「話はここからだぜ、千代子。んで、その失踪した人たちを最後に見たのがこの岩のあたりってわけ。つまり、この岩に何かとんでもない呪いみたいなのがあるんじゃねえかっていう話だ」

「……」

「……」

「……」

「……え、おわり?」

 少しの間が空き、空希が素っ頓狂な声をあげた。

「いや、これで話は終いだが」

「お前、いつもふざけたこと言っててみんなを笑かしにくるけどさ、トーク自体はあんまり上手くねえのな」

「ぐっ、それを言われると辛い……」

「でもこの岩本当に謎だよねー。いつからここにあるのか知らないし。あとこの岩の割れ目、なんだか口っぽく見えるね!」

 千代子は面白がって言った。その時、岩の割れ目が微かに歪み、笑みを浮かべたように空希には見えた。


***


バレンタインの次の週の日曜日、ある大学生グループがハート型の岩の近くまで来た。周囲には“KEEP OUT”のテープが貼られ、岩の近くには近づけなかった。

「何かあったのかな?」

 女子学生の一人がそう呟くと、男子学生が顔を歪めて答える。

「また例の失踪事件かよ……胸糞悪いぜ」

「……ん? そういえばあの岩、前からあんな色してたっけ?」

 眼鏡をかけた知的な男子学生の言葉に、皆岩を凝視する。岩は赤黒く、いつもより膨らんで見えた。


FIN


ども、津雲つづらです。


プロットも何も書かずにいきなり書き始めた作品です。リア充爆発しろとか思いながらバレンタイン前日あたりに書きました。嘘です。ちゃんとカップルさんを応援してますよ!


……俺にはなんで彼女できないんだろう……

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  作中に出てきた「街頭」ですが、「照らしている」のなら“街灯”ではないでしょうか? [一言]  葵枝燕と申します。  『赤いチョコレート』、拝読しました。  ハート型に見えるためにかわ…
[良い点] 読ませてもらいました。 雰囲気がすごく感じられていいと思いました。 [気になる点] 最後のオチが少しわかりにくいかな?と思いました。 僕の理解不足ならすみません。 [一言] 前半の会話と…
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