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【伝説の武器】、僕にください!  作者: 葦 時一
はじめてのいせかい
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5.武器情報と片眼鏡/【スリッパ】<ブラックバレット>

 新しいスキルが出てきたことに、トシキは困惑していた。

 いかなる理由かわからないが、この世界ではスキルが増えるらしい。思いつく理由と言えば、あの盗賊リザードマンを倒したことくらいだろうか。


 スキル欄をよく見てみると、オンとオフの切り替えが可能なことにトシキは気付いた。さっそくオンにしてみる。【武器情報の眼】という名前からして、いきなりビームやレーザーが出たりはしないだろう。


 オンにすると同時に、トシキの左目に銀縁の片眼鏡(モノクル)が現れた。何か不思議な魔法でも働いているのか、目の前で固定されているかのようにずれたりしない。トシキは顔を動かしてみるが、顔に合わせてついてくる。


「なんだそりゃ?」

「あ、さきほど確認したのですが、スキルが増えていました。スキルって増えるものなのですね」

「あー、そうだな。いつのまにか増えてるよなぁ」


 レティが遠くを見るような目つきになる。どうやら自分のスキル欄を見ているらしい。


「レティさんは、どんなスキルがあるんです?」

「あたしは【猫の……って、自分のスキルバラす奴がいるかよ!」

「僕、サーシャさんに言いましたよ?」

「お前なぁ……」


 呆れたようにレティがため息を吐いた。エルフ耳がちょっと下がっている。


「普通は自分のスキルなんて明かさないもんだよ。戦闘系スキルの情報はそいつの切り札だからな。だから聞かれた時もぼかして言うか、効果を見せるだけで名前は隠すもんなんだよ」

「そうなんですか」


 よくわかっていないトシキは、きょとんとした顔になる。スキルの名前がわかっているのが、それほど重要なことだろうか。


「それで、【武器情報の眼】というスキルを使うとこうなったんです」


 トシキは自分の眼にかかった片眼鏡(モノクル)を指さした。未だ呆れていたような表情をしていたレティだが、【武器情報の眼】は気になるらしい。ずいっと顔を近づけてまじまじとトシキの片眼鏡(モノクル)を見つめた。思わずトシキの身体が硬直する。

 よく見れば、美しく整った鼻筋や柔らかそうな唇は可愛らしい。目つきは悪いけど。

 トシキ自身が見つめられているわけではないのはわかっているが、真剣に見つめるレティにちょっとどぎまぎする。


「名前からすると、武器のことがわかる眼鏡ってことだと思うけどな」

「そうですよね」


 このスキルについては説明欄がないのでちょっと不便に感じる。スキル取得条件とかも表示してくれればいいのに、と心の中で思ってしまう。


「じゃ、これはどうだ」


 そう言ってレティが持ち上げたのは、腰に提げていた黒い手甲だ。トシキの眼が輝く。


「み、見せてもらっても?!」


 レティは何も言わず押し付けた。レティから受け取るとまじまじと近くで見つめた。持ち上げて下から見たり、顔を近づけて細かいところまで凝視したりする。その勢いはまるで化石を見つけた考古学者のようだ。レティが若干引きぎみになっていることにも気が付かない。


(装甲は何枚も板を重ねたタイプです。金属に見えますが……素材はわかりません。ナックル部分には鋲がついています。このトゲのような鋲でダメージが増加するんですね。使い込まれています)


 トシキは装飾に使われている紐を触る。やわらかですべすべした毛の手触り。長さといい、手触りといいどこかで見たことがあると感じていた。


(なんでしょう……これ。どこかで見たことがある気がします)


 トシキが思った直後、いきなり黒いナックル手甲(ガントレット)から文字が浮かび上がってきた。【夜冥猫(プリオナイラス)の拳】。


夜冥猫(プリオナイラス)……?」

「お前……わかるのか?」

「いえ、名前が浮かび上がってます。このあたりに」


 レティさんの驚いた声に、トシキは顔を上げた。名前がポップアップしているあたりを示すが、レティには見えないようだった。


「確かにこのナックルは夜冥猫(プリオナイラス)の革で出来てる」

「革なんですか!? 鋼鉄みたいに堅いです!」

「危険を感じると毛皮の硬度が上がるんだよ。倒すのに苦労したからな」

「いろいろなモンスターがいるんですね……」


(この世界ではモンスターの素材も武器の材料になるんですね!)


 トシキはそこで気付いた。手甲(ガントレット)の装飾に使われているのは紐ではない。猫の尻尾だ。改めて撫でてみるが、手触りは気持ち良い。


「…………?」


 さらにじっと【夜冥猫の拳】を見つめていると、さらに浮かび上がってくる情報がある。名前の横に、追加情報としてある数値が表示されていた。何かのカウント数らしく、『猪:四百五十三』といった具合に、様々なものがカウントされていた。

 しばらく考えて、トシキの脳裏にある考えが奔る。


(……これ、倒した数が表示されているんですね!)


 そうとしか考えられない。ちょっと前に倒したリザードマンのデータもある。三十八体。

 中に、『人間:二』という数値を発見して、トシキはちょっとぎくっとした。倒したということは、少なくとも二人の人間を殺しているということになる。


「こ、これ! 返しますね!!」


 ぐいっと押し付けるようにして【夜冥猫の拳】をレティに返した。なんだかレティの顔も見れない。


 どうやら【武器情報の眼】は、武器の名前とその武器が倒した数がわかるというスキルらしい。倒した数がわかることがどう役に立つのかはいまいちわからない。だけど、名前がわかるのは伝説の武器を探すトシキにとってうれしいものだ。

 レティの戦歴については極力考えないようにして、トシキは心を落ち着かせる。

 【武器力解放】は武器を消費してしまうため、そう何度も使うことはできない。まずはこの【武器情報の眼】についていろいろと試してみるべきだ。


 いろんなものを見ているうちに、面白いことに気付く。【鉄のお玉】や【くつした】などを普通は武器に見えないような物でも、名前がポップアップしてくることがあるのだ。

 レティと別れて宿屋に戻ってきた時にもポップアップした名前を見つけた。


 【スリッパ】。


 もうこうなると何が何だかわからない。


(装備して、攻撃さえすれば武器という扱いなのでしょうか……?)


 トシキはスリッパの前で考え込んだ。【武器力解放】すればどうなるのか気になったのも事実。トシキはこっそりとスリッパを自室に持ち帰った。

 花瓶をちょうどいい距離に置くと、トシキは【スリッパ】を片手に構えを取った。


「【解放(リリース)】!!」


 力ある詞(スペル)に従い、【スリッパ】が光となって弾け飛ぶ。

 残された光文字は<ブラックバレット>。


 わくわくしたトシキの眼の前で、一匹のゴキブリが召喚された。一直線に花瓶に向かっていく。ゴキブリは花瓶に飛びつくが、当然揺れもしないし割れもしない。ただのゴキブリだ。


 トシキは思わず悲鳴を上げそうになった。黒いアイツを前に、トシキは武装解除されている。


(【スリッパ】での【武器力解放】は、金輪際しません……!)


 ようやく宿の部屋備え付けのスリッパで撃退すると、トシキはそう心の中で叫んだ。

 武器に使ったスリッパから、再び名前が浮かび上がってきた。

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