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8



次の日の朝。私はメイドに扮して屋敷を探っていた。

黒い瞳と髪は幻影魔法で隠しておいたから目立ちはしないだろう。

昨日のメイドに会わないことを願いながら屋敷を歩く。


「前の奥さんの肖像画なんかがあればいいんだけどな」

「なにか探しているの?」

「へ?」


振り向けば小さな男の子。青い瞳が印象に残る。


「さっきからきょろきょろしているから。見たことないメイドさんだから、新しく入ってきた人でしょ?」

「え、えぇ…ニーナと申します。」

「ニーナ。僕のお願い聞いてもらえたら探し物手伝ってあげるよ」

「え?」

「僕、外に行きたいんだ。でも、みんなダメって。だから、ニーナ、僕を外に連れていって!」

「私の一存では…」

「ちょっとだけでいいんだ。ニーナ、魔術使いなんでしょ?」

驚いて少年をじっと見る。

「さっき魔術を使ったでしょ、風魔術。残術がニーナを取り巻いてる」

「………君、見えるの?」

魔術を使うと残術っていう残り滓が使用者を取り巻く。徐々に空気に融けて魔術素に還るのだ。

見えるのは上位魔術師くらいだって本に載っていた。

なのに、この子は見えると言う。


「まぁね。秘密だよ?それで、外に連れていってくれる?ニーナ」

「…………なんでそんなに外に行きたいんだ?」

「会いたい人がいるんだ。外に」

窓の外を見る目に既視感を覚える。

「………わかった。いいよ。その代わり、私の探し物手伝ってよ。」

「うん。もちろんさ!」

「なら、交渉成立っと。君、名前は?」

「クロガネ」

「クロガネか。よろしく。」

「よろしく。それで、ニーナほなにを探しているの?」


「肖像画。」

「肖像画?」


「そ、肖像画。前の奥様の肖像画を探しているんだ」

「……どうして?」

「調べたいことがあるから」

「ふーん…それなら、こっちだよ」

そう言うとクロガネは私の手を掴んで走り出した。


「これが、肖像画だよ」

一室に置かれた肖像画には若い女性が描かれていた。金髪の髪にほっそりとした身体。

そして印象に残るあおい瞳。

「……綺麗な人。でも、やっぱり寂しそうな瞳だ」

「………」


やっぱりあの人魚は前の奥さんだったんだな。

この肖像画で確信を得る。


「ニーナ、外に…港に連れていって。」

「港に?」

「そう、僕の会いたい人がそこにいるんだ」


そういってまた私の手を握りしめた。クロガネの目には決意の色が浮かんでいた。










港は今日も静かだ。停泊している船もなく遮るものは何もない。

海をじっと見るクロガネは何かを探すようだ

「クロガネ。」

「ニーナ、ここに魔獣が出るんだよね?」

「出るよ。」

「その魔獣ってどんな姿をしてるの?」

「人魚だよ。あおい瞳が印象的な」


「今日も来るかなぁ…」

「さぁ…」


そうは言ったものの何と無く人魚は今日も現れる気がした。

それは、この子が彼女の…


「ニーナ!」

考え事を遮るように上げられた声。

岩の上に見えるのは人魚だった。


「人魚…」


『どうして貴方は私を捨てたの』


『どうして貴方は私を見てくれないの』


『どうして貴方は私を愛してくれないの』


人魚は歌う。

怨みのような、哀しみのような、何かを訴える言葉で。


「お母様!」


『ねぇ、私を見て』

『私を抱き締めて』

『私を愛して』


「わかんないよ!お母様、なにを言ってるの?」

「クロガネ」


こんなにもはっきり聴こえるのに、この子には聴こえない。

人魚はそのまま波間に消えた。



「お母様!」

「おい、クロガネ!」

今にも落ちてしまいそうなクロガネを慌てて掴む。


「行かないで!お母様!僕を置いてかないで!」

暴れるクロガネを必死に掴む。手を離してしまえば海に落ちてしまいそうだ。


「クロガネ!」

「お母様ぁ!!」

「くそっ…眠れ(スリープ)

睡眠魔術でクロガネの意識を落とす。

力の抜けたクロガネを支えれば、そのままずるずると座り込んだ。


やっぱり、クロガネは彼女の子供だったんだな。

クロガネの頬を伝う涙の痕を拭いながら、私はただやりきれなさを感じていた。










「クロード様!」

港からクロガネをおぶって帰れば、執事やメイドが近寄ってきた。

なかば奪い取るようにクロガネを引き取る。

「貴様、クロード様に何をした!」

筆頭執事が私の襟首を掴む。


「別に…なにも…」

「嘘を言うな!なぜ、目元が赤くなっている!貴様がクロード様に何かしたからではないのか!」

「はぁ…港に連れていっただけだ。この子の願いを叶えるためにね」

「港にっ…」

「その様子だと、行きたがっていた理由も解ってるみたいだな。あんたには」

緩まった掴む手を払えば、クロガネへ目を向ける。


「クロガネ、起きてるんだろ。狸寝入りは止めたらどうだ?」

「……なんだ、バレてたの?」

「不自然な呼吸だったからな。」

「そっか…失敗失敗」

「クロード様、この者は…」


「ニーナ。僕のお願いを叶えてくれたんだ。」

「そ、そうでしたか…」

「クロガネ、偽名だったんだな。」

「そうだね。」


そう言うとクロガネは綺麗にお辞儀して


「ペルトワール家嫡男、クロード・ガーネット・ペルトワールと申します。此度は名を偽ったこと、御詫び申し上げます。」

「あー…そう言うのいいよ。解除(リリース)

私がそう呟けば魔術が解ける。そして、黒髪と黒い瞳が現れて、クロガネが息を飲んだのが分かる。


「ニーナ、改めニーアと申します。」




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