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アクヴェーロは港町だった。王都からそれほど離れていないためか道も整備されていて移動は楽だった。
アクヴェーロの港には多くの貿易船が並び、街は活気に満ち溢れている。魔物や魔障の影響など認められないくらいだ。
「にぎやかな街だな」
「王都から近いからな。衛兵も多く配置されているようだし、自警団も作られているようだ。」
店の壁を見れば、“自警団員、募集中”と張り紙がある。
「なら、ここは別に浄化の必要ないんじゃ…」
「活気があるからと言って魔障の影響がないとは限らない。とにかく、領地館に向かおう」
王子様の一言で少し小高い丘にある領地館へと向かう。
「お待ちしておりました。ルーク殿下。」
館に行けば出迎えてくれたのは人のよさそうなおじさんだった。
見た目は40歳を過ぎたところだろう。人好きしそうな顔立ちだ。
それでも、私はこの人に違和感を覚えた。
「ペルトワード卿。少しの間世話になる。」
「王より用件は伺っております。浄化が終わるまでどうぞごゆるりとお過ごしくださいませ」
聖、王子様、と順番に部屋を案内されて、私が案内された部屋は隅の日の当たらないような部屋。
部屋の散らかり具合からいって、物置だったのだろうか。
「申し訳ありません。準備できた部屋がここしかなく…」
頭を下げたメイドさんの目には嘲笑の色が見える。
ここでもか…まぁ、慣れたしいいけど。
だいたい、ここの人の嫌がらせってしょぼいよね。
部屋の用意してくれるし。普通なら部屋なんてないぜ。とかなりそうなものを…。
嫌がらせされ馴れた私だから言えるってことかもしれないけど。聖じゃ無理そうだし。
「さて、あの王子様に今後の予定を聞きに行くかな」
念のために懐刀を忍ばせて部屋を出る。
確か、王子様の部屋はこっから結構離れてたっけ…
移動魔法はまだ取得しきれていないため、徒歩で王子様の部屋へと向かう。
部屋に向かう途中、メイドさんたちの噂話に耳を傾けておくことも忘れない。
人の口に戸は立てられぬっていうし、あの領主様への違和感も分かるかもしれない。
そんなことを考えていれば、メイドさんが固まって話しているのが遠くに見える。
「また出たんですって、港で魔獣が」
「本当に?今日、買い物の当番にあたっているのに怖いわ…。ねぇ、本当に姫巫女様はこの街の魔障を浄化してくださるかしら」
「勿論。きっとね。」
「それより、ペルトワード様、また翡翠の間のもとへ通っておられるそうよ。」
「翡翠の間というと、シャーロット様?」
「えぇ、奥様が亡くなってからまだ数週間よ。奥様が亡くなる前からお二人の仲は冷めてらしたけれど…」
「そういえば、魔獣が現れだしたのも奥様が亡くなられてすぐだったわね…もしかして…」
「や、やめてよ。奥様がまさか…」
「あなたたち!」
女性がひとりメイドさんたちに近寄っていく。
雰囲気的にメイド長さんかな
「メアリー、シーツの交換は終わったのですか?マリー、料理長が探してました。『クコの実はまだかと』 サリアン、姫巫女様の給仕はどうしたのですか!
こんなところで無駄話している話があったら、仕事に向かいなさい」
「す、すみませんでした!」
メイドさんが各々仕事に向かってしまう。もう少し情報が欲しかったんだけど。まぁ、いいか。
私も術を解いて王子様の部屋に向かおうと足を向ける。
「そこにおられる黒衣の方も。この話は内密にお願いします。」と声をかけられた。
まさか、気付いて…
「ここの私だけですわ。黒衣の方。それでは、よろしくお願い致しますね。」
それだけ言うと、メイド長さんは廊下を歩いて行った。
あの人、いったい何者?
それより…
「あの人の雰囲気、マジ恐ッ!」