第一話 居酒屋菊月、営業開始
ご期待ください(過剰な期待はしないでください)
時は仮想西暦1949年。
ここは何処にでもある港町、浜風町。
日本の隅っこの隅っこにあるその町は、海軍の拠点があることから四年前の戦争の傷を受けたが、今ではこの影すら残さない発展を見せている。
そんな町の海沿いの通りに、ポツリと建っている小さな店がある。
その店の名は「居酒屋 菊月」。
この町に在る、知る人ぞ知る店である。
そんな居酒屋は今日も暖簾を上げる。
「永翔さん。暖簾を上げました。
そろそろあの三人組が来るやもしれません」
店の暖簾を上げ、店内にいる店主に話しかけるこの男は、榊原戒厳という。
歳は二十と八。身長は六寸弱。
筋肉はほどほどにあり、ガタイの良さを伺わせる。
服装は全体的に黒く、その眼光は常人のものではない。
過去にそれなりの経歴はあるのだが、それは彼本人に話してもらうのが良いだろう。
そんな彼は現在は店で皿洗い兼、店主の補佐をしている。
「はーい。それでは今日も頑張りましょうか!」
店内から戒厳に言葉を返すは、この店の店主である永翔という女である。
永翔は桃色の着物に紺色の袴を合わせ、その出で立ちは正しく大和撫子そのものである。
身長も性格も慎ましく、髪は上に向かって一本に纏めている。
その髪は紺色に輝き、上に向かって纏められているも、そこから重力を感じさせるように下に降りていく様はまるで川の流れの如くである。
まぁ、これは戒厳の言葉であるが。
これまた戒厳の言葉だが、髪をまとめながらも残された前髪は目もとにかかり、彼女の慎ましさを増させ、さらに魅力を出しているとか。
―――熱狂的であると言える。誰が何に対してとは追求しないが。
さて。
ここから、この物語についてはこの物語の主人格に語って頂くとしよう。
読者の皆様よ、また会おう!
―――――ん?私は誰かって?
うむ、それならなんと言おうか……。
―――うむ、作者の代弁者。
いや、便利な説明役か。
おお、それが一番良い。これが一番嫌味ったらしいではないか。
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※榊原戒厳
日課のようになった、店の暖簾上げ。
かれこれ、こんな日課ができてから二ヶ月といったところか。
季節は夏の終わり。
蜩も鳴き終わり、町には蝉時雨を逃れた静けさが顔を出し始めていた。
暖簾揚げを終えた俺は、店内に戻りお客用の皿を用意する。
何故こんな事をするかと言えばこうしておいた方が永翔さんが料理をする上で楽になるからだ。いちいち皿を出すのも面倒だと言っていたしな。
さて。今俺の勤めている居酒屋菊月であるが、まだ開店してすぐということもあって未だ静けさを保っている。
と言ってもこの静けさも、あと何分の命なのか知らんが。
まぁ、四年前の戦争に比べればこの静けさは暖かいものだ。
あの頃の静けさは刺すような何かがあった―――。
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今から十年前。
俺にとっての黒歴史、第二次現魔大戦が始まった。
本当に下らない戦争だった。
理由も、戦いも、軍人も、全てが汚かった。
そんな中でも俺は国に忠を尽くすことで何かを思い出そうとしていたのだが、何も見つからなかった。
結果的に各地の激戦地で大量の魔族を切り伏せ、残虐しただけだった。
スターリングラード…、ドニエプル…、レニングラード…、沖縄…、とかとかとか。
各地で戦い、各地で呪われ、各地で敵味方から恐れられ。
駒の様に、狗の様に働いたというのに、俺に残ったのは不名誉な中将という階級だった。
―――そんな中でも思い返していたあの情景が何だったのか今でも見つからず…。
そんな日々を思い返すと、いま自分がどれだけ平穏で暖かい日常を過ごしているのだろうと実感できる。
そう思いながら戦地でも忘れることの無かった少女の笑顔を思い出す。
『カイさん!また会いましょうね。
絶対に……約束ですよ…。
なんてったって私達は許嫁なのですから……』
顔を赤らめ、別れを告げる彼女の美しい髪の輝きは覚えているのに。
なぜ私は彼女自身のことを何も覚えていないのだろう――――。
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っと勤務時間にボーッとするのは不謹慎であったな。
やはり最近気が緩んでいるな………。
それだけこの平和に慣れたということか。
「戒厳さん。戒厳さん」
急に隣に立っている永翔さんが話しかけてきた。
「……あぁ、はい。何かありましたか?」
「どうやら、いつもの皆さんが来てるみたいですよ。
やっとこの店らしく、騒がしくなりますね」
そう言って俺に、にこやかに笑いかけてくる。
その笑顔を見る度、俺は何か、胸の中に感じるのだが、それは何なんだろうか。
と、考える暇もなく、店の前の通りの方から声が聞こえてくる。
五月蝿い男の声と、関西弁の女の声、そしてやる気の無さそうな男の声。ほとんど毎日聞いている声だ。
「……どうやら来たみたいですね。
それじゃあ生二つに烏龍ハイ一つ用意しときますか。
……コップ持ってきます」
「うふふ。もういつものコトですし、覚えちゃいますね。
ほとんど毎日こうやって二人で準備してますし」
毎日…二人…、ううむ。
何故か頭の中に言葉が残る…。
そう思いながらも俺達は手を動かし続け、例の客たちの最初の一杯の準備は済ます。
その瞬間だ。いつもと同じ午後七時二分。
奴らが来た。
「永翔さん!戒厳さん!来ましたよー!!」
「うははー!来たで来たで!菊月にやって来たでぇー!」
「性懲りもなく来てしまいました……すんません」
―――これが常連客なのだからタチが悪い。
店に入ってきた常連客の三人組はいつものように、関西弁の女を五月蝿い男とやる気の無さそうな男で挟む形で、店の奥の席に並んで座る。
そしていつものファーストオーダーである。
「とりあえず生中!」
「僕も生中で…、お願いします…」
「ウチは烏龍ハイでお願いな~」
本当にブレが無いところは尊敬できる。
どうして毎日こうなのか。まぁ楽だからいいが。
「はい、皆さん今日もお疲れさまです。
戒厳さん。生二つに烏龍ハイ一つです」
「はい、承りました。
……ほれ」
彼らの前に先に用意しておいたジョッキを出す。
ここまでもいつもの事だ。
「あれ? また今日も注文前に用意してるん?」
「まぁ、俺らは常連客だしな!」
「お前らが常連客な、この店が気の毒ですよ……」
こうやってコヤツらが反応するのもいつも通り。
こうして、この店は目を覚ますのだ。
いつものように、ゆっくりと。
「やっぱりみんながいると楽しいですね」
「――まぁ、そうですね」
永翔さんの声はとても明るく、とても楽しそうだ。
ただ、この日の営業については、いつものように進むことはなかった。
それは―――まぁ、愉快な意味であるが。
えーっと。
この物語は私が読みたいな!
って思った、私の好きな小説!みたいなスタンスで書こうと思ってるので、
唐突な設定、謎の行動、よく分からないジョーク
という成分が色濃く入ってしまっているやも知れません(感じ方によっては致死量の恐れあり)
また、人物、世界観紹介についても出そうと思っているので、この人どんなんかわからんわぁ……ってなってもある程度大丈夫な感じにはします、はい。
まずは常連客三人組についてやな……。
もし良ければ次回も見て頂けると嬉しいです!
よろしくおねがいします!